第百三十章 マリと陽子、嵐の前の静けさ
マリは何事もなく業務をこなしていましたが、アクロバット飛行公開訓練の一件から一年後、航空自衛隊から、「今年もアクロバット飛行の公開訓練が実施されます。今年は日本だけですが、公開訓練の一ケ月前から、アクロバット飛行チームの指導を芹沢パイロットにお願いしたい。勿論日本政府の許可は取っています。」とマリの所属する会社に依頼がありました。
マリは、指導期間や条件などを確認しようとしました。
航空自衛隊から、「逆に現在のアクロバット飛行チームのレベルを芹沢パイロットに確認して頂き、どの程度の期間の指導で何ができるようになるのか芹沢パイロットに見極めて頂きたい。その上で打ち合わせの上、指導機関などを決定したい。」と依頼されました。
マリは日程調整の上、一日アクロバット飛行チームの指導を行いました。
午前中は管制塔から訓練している様子を見て、午後実際に指導を行い、その後指導機関などの打ち合わせを行いました。
マリは、「社内的なスケジュールを調整して、後日、ご連絡致します。」と返答しました。
社内的なスケジュールを調整後、マリは、「今後の事を考慮すると共に、会社の業務用にも使用する目的で、非公開の訓練も撮影させて頂いても宜しいでしょうか?」と確認し、撮影が許可された為に引き受ける事になりました。
自衛隊では、担当官が上官から、「何故撮影を許可したのかね?」と問い質されました。
担当官は、「芹沢パイロットは、撮影させて頂きたいと表現されていましたが、私には指導する条件に聞こえました。彼女も今は一般企業に就職していますが、元軍人なので、航空自衛隊の弱点が解るような部分は、業務用として公開しないと判断しました。更に、撮影した映像のコピーを頂けるように交渉しましたので、今後電話などでも映像を見ながら、彼女に質問できると判断しました。」と撮影を許可した理由を説明しました。
上官は、「確かに彼女の操縦技術は噂以上でした。去年この目で見て、信じられませんでした。更に、指導力にも優れていて、去年指導して頂いた直後は航空自衛隊のレベルが目に見えて上がった事が解りました。指導して頂く為に、撮影を許可するだけの価値は充分あると私も思います。しかし、今はまたレベルが落ちているのではないのかね?確りと訓練しておかないと、怖い鬼教官にどやされるぞ。」と指摘しました。
担当官は、「もう、手遅れです。先日の指導でレベル低下はばれています。」と苦笑いしていました。
公開訓練の日を含めて四十日間、マリの会社から社長、藤田部長、マリ、報告書作成要員と、撮影要員の二名の営業マンを含めて、五人で出張しました。
非公開の訓練中、一年前マリの一言で航空自衛隊を解雇された鹿野パイロットが、盗難したジェット戦闘機で乱入して来ました。
しかし、マリの特訓を受けた隊員達は、マリの指示に従い、難なく対処した為に、焼糞になった鹿野パイロットにマリは、「危ない!落ち着いて!そんな無茶すると墜落するわよ。」と警告しました。
鹿野パイロットは、「五月蝿い!お前の言う事なんか聞く必要はない!何も大統領にチクらなくても良いだろうが!お陰で総理大臣を怒らせてクビになったじゃないか!」と無視していると、操縦ミスして墜落しました。
救急隊員が墜落現場に急行しましたが、鹿野パイロットは既に死亡していました。
鹿野パイロットの死亡を無線で確認したマリは、隊員全員を着陸させて、パイロットの冥福を祈るように指示しました。
マリはその後、隊員に、「鹿野パイロットは大変優秀なパイロットでしたが、自分の操縦技術を過信して、基礎を疎にしたことが残念です。今の墜落原因も基礎的なミスです。皆さんも自分の操縦技術に自信があっても決して過信せずに基礎は疎にしないで下さい。命取りになります。場合によっては、他人をも巻き添えにする可能性がある事を覚えておいて下さい。」と二度とこんな悲惨な事故が起きない事を祈り、隊員達に伝えました。
この時、マリは航空機だけではなく、車のドライバーにも決して無理な運転はして欲しくないと心から願いながら、暴走車の巻き添えになり死亡した母親と、まだ意識が戻らない父親の事を思っていました。
去年に比べて、今年は訓練時間があった為に、公開訓練は素晴らしいアクロバット飛行で、観客も大喜びして、公開訓練は大成功しました。
航空自衛隊の幹部が隊員に確認すると、「鹿野教官の指導で飛行すれば命懸けでしたが、芹沢教官の指導で飛行すれば信じられない程安定した飛行が可能で、鹿野教官から、“お前達には無理だ。”と言われた高度な飛行も信じられない程安定して飛行できました。彼女の指導で更に高度な飛行もできそうで、超一流パイロットの仲間入りするのも夢ではない気がします。アメリカ空軍が世界一の理由が解りました。」と返答しました。
上官はその報告に感心して、政府の許可を取り、毎年マリが公開訓練の指導を行う契約をマリの会社と交わしました。
ある社員が、「死亡した鹿野パイロットが“大統領にチクッた!”と怒っていましたが、本当ですか?」と信じられなくて確認しました。
マリは、「あれは、運が悪かったのよ。あの時、アメリカ空軍で会議が開催されていて、皆、携帯の電源を切っていた為に、私の元上官にも基地の指揮官にも電話が通じなかったのよ。あの状態で航空ショーが続けられると、いつ航空機の接触事故が発生するか解らない為に、至急中止させる必要があったのよ。携帯が通じないのは会議かなにかだと思ったので、空軍に電話しても、“急用ですか?とか用件はなんですか?”とか交渉しているような時間はなかったのよ。大統領とも面識があった為に、直接電話したのよ。私も大統領に電話したくて電話したのではないわよ。相手が相手なので、あの時、私、手が震えていたのよ。あの時、上官と連絡が取れたら、こんな事にはならなかったかもしれませんね。」と説明しました。
他の社員は、「えっ!?鬼教官でも震える事があるの?」と信じられない様子でした。
マリは、「当たり前じゃないの!相手はアメリカ大統領よ。“空軍パイロットが直接電話して来るとは、何様のつもりだ!”と怒られないかと思うと、電話の呼び出し音がしている時、大統領が電話に出られる前に何度電話を切ろうと思った事か。大統領が電話に出られた時には、心臓が破裂しそうだったわよ。」と返答しました。
梅木が、「しかし、アメリカ空軍のパイロットも危険だと言っていましたが、鹿野パイロットの飛行が危険だとは解りませんでした。どこが危険だったのですか?」と安定して飛行しているように見えたのでどこが危険だったのか不思議そうでした。
マリは、「車で例えると、普通の飛行は、車で言えば赤信号で止まります。アクロバット飛行は赤信号で突破します。横から来る車と衝突しないように予め打ち合わせを行うのですが、鹿野パイロットはそれをせずにハンドル操作とブレーキで躱していました。一つ間違えれば大事故に繋がります。」と返答しました。
ある日、他の航空機販売会社の社員が、航空自衛隊で指導しているマリに、何故特定の会社に協力するのか不思議そうに質問しました。
マリはその営業マンに、「あなたは、自分の会社に協力して、競合他社にも協力しますか?」とマリが名刺を出すと、その営業マンは何も言えなくなり帰社して、「芹沢パイロットは、我社にも面接に来たと言っていたぞ!誰だ?彼女を不採用にしたのは。」と誰がマリを不採用にしたのか、その理由を聞きたくて調べていました。
その時の面接官が、「彼女は英会話に自信があると言っていたが、我社は海外との取引がない為に不採用にしました。」と返答しました。
一方、佳子は給料減俸されましたが、自分で自分が許せなくて、総務に転属願いを提出しました。
上司もその理由が理解できた為に、「君は今迄にない優秀な刑事でした。落ち着いたら刑事課に戻って来てほしい。」と期待されながら総務に転属になりました。
しかし、佳子の今迄の実績は大きく、刑事課で佳子は伝説の名刑事として語り継がれていました。
修が捜査に行き詰まった時には佳子に、「伝説の名刑事さん、相談に乗って下さい。」といつも頼っていました。
佳子も、「部外者に捜査情報を流しては駄目よ。」と指摘しながらも、修の相談に乗っていました。
そのお陰で、修の成績は伸びましたが、事件解決の鮮やかさなどが、佳子にそっくりな事を上司は気付いていました。
修が事件解決を上司に報告すると、上司は、「さすが佳子さんは凄いね。」と感心していました。
修は、「気付いていたのですか?」と何故ばれたのだろうと考えていました。
上司は、「いつもこれだけ見事に事件を解決できる刑事は、一人しかいないよ。お姉さんは、刑事課に戻って来てくれないのかね?」と佳子の復帰を期待していました。
修は、「姉は、どうやら総務を定時で帰宅して、丸東組を一人で捜査しているようです。いつも何をしているのか今度それとなく聞いてみます。」と返答しました。
上司は、「君には無理だろう、簡単に誤魔化されるよ。相手は伝説の名刑事だからな。」と修には期待してないようでした。
修は帰宅後佳子に、「姉ちゃん、警察を定時で帰って、いつもどこへ行っているの?帰りが遅いみたいだけれども。」と佳子が何をしているのか確認しました。
佳子は、「修の結婚式の打ち合せに芹沢外科医院に行っているのでしょう。結婚式は二回に分けるから、二倍大変なのよ。」と修の上司が思ったように簡単に誤魔化されました。
しかし佳子は、矢張り、丸東組や陽子を調べていました。
陽子が、やくざ姿で佳子達の前に現れた時、死体は見付けられないような事を言っていた為に、馬鹿にされたと思い、ムキになり捜していたのでした。
佳子は、陽子があれだけ、見付からないと自信を持っていた為に、死体があっても不自然ではない所で、陽子に関係のある場所と言えば病院しかないと考えて、関連病院も含めて霊安室などを徹底的に捜していました。
ある日、陽子がやくざ姿で組員と外出すると、暴走族同士の争いに遭遇しました。
陽子が透視で確認すると狂暴な暴走族のリーダーが女暴走族で大富豪の須藤自慢の娘だった為に自分の透視力を疑いました。
陽子は、“えっ!?あの控えめで大人しい淑子さんが何故?”と一瞬言葉を失いました。
淑子は陽子達に気付き、「お前ら何見てる!見せ物じゃないぞ!」と襲いかかって来ました。
淑子は陽子の強さに驚き確認すると、丸東組のバッジに気付きました。
淑子は陽子の服装から、丸東組の大物幹部だと気付き、陽子の強さに敵わないと思った次の瞬間陽子が、「控えめで大人しい大富豪のご令嬢が狂暴な暴走族の女リーダーだったとは驚いたわ、須藤淑子さん。」と指摘しました。
淑子は驚いて、「何故それを知っている!」とどこからその情報を入手したのか確認しようとしました。
陽子は、「私の目を誤魔化す事はできないわよ。心配しなくても私以外誰も知らないわ。」と薄笑いを浮かべました・
淑子は、「その笑いは何!私を脅迫する気?私に何をさせるつもり?それともおかね?」と確認しました。
陽子は、「あなたに金銭を要求するつもりはないわ。前者のほうね。また連絡するわ。」と予告して組員と去って行きました。
将来、陽子もテレジア星人の出現により、自分がテレジア星人の血を引いている事に気付き、マリと共に、海坊主との対決に巻込まれて行くとも知らずに、二人共、今は平穏に暮らしていました。
次回投稿予定日は、9月21日です。