第百五十四章 菊枝の心配
診察室で二人っきりになった陽子は、修と雑談していました。
修が、「陽子、倒れたのが手術中でなくて良かったな。手術中だったら大変な事になっていたかもしれないな。」と今後そのような事になる可能性がある事を忠告しました。
陽子は、「そうね。そう考えると私もヒヤッとしました。自分の体調管理ができないなんて医師失格ね。」と倒れたのが手術中でなくて安心していました。
修は陽子が医師失格と言ったので、「陽子、姉ちゃんみたいに仕事を辞めるだなんて言わないよな。陽子がいつも手術している患者は重症で、他の外科医には手術不可能なのだろう?陽子が外科医を辞めれば、その患者は死ぬしかなくなるじゃないか。それにエスベック病患者の手術を成功させたのは陽子だけだろ?陽子が外科医を退職すればマンションにまで患者が押し寄せて来るよ。患者も自分の命が掛かっている為に必死だと思うから。」と仕事を辞めないように説得しました。
陽子は、「もし手術中に倒れて患者を死なせていれば、私もスランプになりメスが握れなくなっていたかもしれないわね。結局お姉さまみたいに仕事を辞めていたかも知れないわ。でも大丈夫よ。倒れたのが手術中ではなかったのでね。でも今後、手術は控えるわ。どうしても手術に参加する必要があれば、執刀医ではなくオブザーバーとして参加し、体調を見ながら一部執刀する程度にします。ですから緊急呼び出しや夜勤は今後少なくなると思うので、暫くは修ちゃんの面倒を今迄以上にみられると思います。」と暫く手術は控える事にしました。
陽子は、“修ちゃんの、お父さまを殺してしまった罪滅ぼしに、精一杯尽くすわね。”と思っていました。
修は、「そんなに無理しなくても良いよ。大事な体なのだから、家でゆっくりしていれば良いよ。」等と雑談していると突然、玄関から慌てて、「すみません!今日は休診日ですか?先生は居られませんか?」と男性が慌てて入って来ました。
修は、「陽子はそのまま寝ていろよ。休診日だと伝えるくらいは俺にだってできるよ。」と玄関に向かいました。
その男性は、「そこの工事現場で、此奴が機械に腕を挟まれて、切断されました。何とかして下さい。」と切断された腕を持って必死で修に訴えました。
修は、「ちょっと待って!」と慌てて診察室に戻りました。
陽子は、「聞こえていました。直ぐここへ連れて来て!」と起き上がりました。
その間に陽子は、ここで看護師をしていて勝手が解っている為に、診察室の準備をして、その作業員が同僚の作業員と修に抱えられて診察室に入って来ました。
陽子は、「修ちゃん、二階へ行って母を呼んで来て!」と依頼して患者の腕に麻酔をしていました。
陽子は付き添いの作業員に、「まだ麻酔が効いていませんが、待っている時間はありません。直ぐに、その作業員の上半身を裸にさせて下さい。」と伝えて陽子は手術室の準備に向かいました。
二階から降りて来た菊枝は、意思波で陽子と連絡を取っていて事情を把握していた為に、「先程の外科医が言ったように麻酔が効いてくるまで待っている時間はありません。消毒しますが、痛みは我慢して下さい。あなたの腕が元通りになるかどうかの瀬戸際です。」と患者の腕を消毒して、一緒に降りて来た看護師一人とストレッチャーに乗せて手術室へ運び、陽子と三人で、麻酔医抜きで緊急手術を行いました。
処置が早かった為に元通りに治り、暫く芹沢外科医院に入院後、自宅近くの総合病院へ転院しました。
その総合病院の外科医は、「一度腕が切断したって嘘でしょう?確かにレントゲンで確認すれば、骨折の痕跡はあります。激痛のあまり、切断したと思っただけじゃないですか?こんなに完全に元に戻る訳がないですよ。」とレントゲンを見ながら患者である作業員に確認しました。
その作業員は現場監督に連絡して、確かあの時、国から視察に来ていた為に、その様子を撮影していたと記憶しているのですが、私の腕が切断された様子が録画されていませんか?」と確認しました。
現場監督は、「腕が切断された様子は削除しようと思いましたが、治療の参考になる可能性があると判断して残しています。」と映像を確認して、作業員が入院している病院に持参すると、その外科医は映像を確認しながら、「まさか、信じられない。」と絶句していました。
その外科医は、「どこの病院に行かれましたか?」と作業員と現場監督に確認しました。
作業員は、「作業現場近くの芹沢外科医院に行き、休診日でしたが偶々外科医が二名いたので、その場で緊急手術して頂きました。」と返答しました。
外科医は、「それは運が良かったですね。現場監督の年齢でしたら、ご存知だと思いますが、昔関西病院に在籍していて神の手を持つと噂されていた芹沢外科医の噂を聞いた事があると思いますが、その芹沢外科医院の院長先生がその芹沢外科医です。もう一人の外科医は恐らく娘さんで大日本医療大学の梅沢先生だと思います。旧姓東城と言えば解りますか?エスベック病の手術ができる世界的名医です。私も噂でしか聞いた事がないのですが、こんな手術ができるなんて、とても信じられません。神の手としか言いようがないです。名医が二人手術に立合って頂けたからだと思います。映像を見ると、救急車を呼んでいれば、恐らく切断されたでしょうね。」と説明しました。
その作業員は何の後遺症もなく元気に退院して、仕事に復帰しました。
その作業員は時間を見付けて、芹沢外科医院にお礼に行きました。
菊枝は、「元通りになられて良かったですね。私も娘も外科医として当然の事をしただけですので、お礼には及びませんよ。」と返答しました。
一方、陽子は、妊娠が解ってからは、修と相談したように手術を控えて、診察のみにしていた為に、緊急呼び出しや夜勤も殆どなくなりました。
菊枝が陽子を出産した時は、自分にテレジア星人の血が流れている事は知らなかった為に、普通に産婦人科に入院しましたが、カルテを透視で確認すると、人体改造の痕跡ありと記述されていました。
入院中、退屈でしたので病院内を色々と透視で確認していると、警察手帳を所持している人に気付き、医師との会話を透視で唇を読み確認すると、「菊枝の近くにいたやくざは、風俗を資金源にしている丸東組の組員で、客好みの体に改造され、今回妊娠した為に元に戻し、改造の痕跡を隠そうとした可能性もあります。医学的に証明できませんか?最悪お腹の子供は死産になっても良いのでお願いできませんか?」と相談している事に気付きました。
菊枝は茂に連絡し、帰宅途中の産婦人科医を組員に拉致させ、丸東組内部で茂立会の元で、菊枝が透視で確認しながら出産した苦い経験がありました。
茂は菊枝の養父母に確認しようとしていた為に焦った菊枝は、「恐らく何も知らないと思います。私の本当の親が何か知っていると思います。捨て子した事と何か関連があるかも知れませんが、その親を捜し出せませんか?」と菊枝も実の親の事を知りたかったので、茂の視点を養父母から実の親に向けさせました。
茂は、「解った。菊枝が異様に喧嘩に強い事も何か解るかもしれないので、捜してみるよ。」と組員に指示し捜しましたが、解りませんでした。
その当時は、何故人体改造の痕跡があったのか不明でしたが、それもテレジア星人の出現で理由も親も解り、陽子に同じ思いをさせたくない為に、菊枝は陽子にその事を説明して周囲には、「私は医師です。娘の面倒ぐらい私が見ます。」と説明していました。
陽子も菊枝の説明で、その理由は解ったので、了承して丸東組内部で菊枝が陽子を診察していました。
陽子の警備をしているコスモスは、「陽子さんにはテレジア星人の血も流れている為に、医師のライセンスを所持している博士にも連絡した方が良い。」と提案して、偶にフジコも様子を見に来ていました。
数ヶ月後、産休に入り、芹沢外科医院に入院しました。
菊枝は、陽子の警備をしているコスモスを看護師に変身させて、芹沢外科医院の看護師に、「有名人が極秘で出産します。その為に産婦人科ではなく、外科医院に看護師同伴で入院しました。産婦人科医はフジコさんで、ここに通って来ます。皆さんにも知られたくないようですので、用事があれば同伴の看護師に要件を伝えて下さい。」と説明して、コスモスとフジコを知合いの看護師と産婦人科医だと紹介しました。
陽子は、「何故有名人なの?タレントの方が一般的だと思うけど・・・」と不思議そうでした。
菊枝は、「タレントだと嘘になるでしょう?陽子はエスベック病の手術に何度も成功している世界的名医だから、有名人よね?私も嘘は吐きたくないから。」と説明しました。
フジコが来ている時に霧島外科医がお見舞いに来て、陽子の同僚なので病室に案内しました。霧島外科医は、「世界一の名医の入院先を皆で捜しましたが、まさかここだとは思いませんでした。外科医院に入院しているとは穴場でしたね。産婦人科を捜しても見付からない筈です。偶々陽子先生の母親が外科医院を開業していると聞いたもので、ひょっとすればと思いましたが、そうでしたか。」と苦労したがやっとみつけたと安心していました。
フジコが霧島外科医を見て、菊枝の警備をしているアヤメに意思波で、「ちょっと女神ちゃん、あの霧島外科医はどことなく、私達が呪縛の時に出会った霧島刑事に雰囲気が似ていませんか?苗字も霧島ですし・・・」と確認しました。
アヤメも意思波で、「矢張り博士もそう感じましたか。私もそう感じて、陽子と菊枝が一緒にいる時に、二人の警備をコスモスに任せて役所などを透視力で調べて確認しました。確かにそうでした。あの時、博士が爆弾で吹き飛ばした霧島刑事の子孫が霧島外科医です。」と説明しました。
フジコは、「女神ちゃん、“爆弾で吹き飛ばした”だけ余計よ!」と不満そうでした。
次回投稿予定日は、12月25日です。




