第百二十七章 マリ、航空ショーで苦情発言
数ヶ月間、何事もなく過ぎましたが、ある日、アメリカ空軍アクロバット飛行チームが日本の航空自衛隊と共同訓練を実施する為に来日して、その訓練の一部が航空ショーとして公開される事になりました。
梅木が、その関係者に萩野という知人がいて、チケットを入手する事に成功し、営業マンの一部と梅木とマリが見学に行く事になりました。
当日、梅木と営業マン達はアクロバット飛行を見て、その迫力に圧倒され、凄いなと感じました。
梅木は同じ技術担当のマリにライバル心を持っていて、「芹沢さんもあのような凄い飛行ができますか?」と先日アクロバット飛行をしてマリの人気が上昇した事が面白くなく、専門家には敵わず、マリのアクロバット飛行はたいした事はないと証明しようとしました。
マリは、「あれのどこが凄いの?危なっかしいわね。自衛隊もアメリカ空軍もヘボパイロットじゃないの!」と事故を起こさないか心配していました。
梅木は頭に来て、「ちょっとアクロバット飛行ができるかと思い調子に乗りやがって!それなら、萩野に頼んで世界一のアメリカ空軍アクロバット飛行チームのパイロットを紹介して貰うから、ヘボかどうか直接確認するか!」と脅せば大人しくなり、マリより優位に立てるとマリを睨みました。
マリは、「良いわよ。早く連れて来て!」と脅しが通用しませんでした。
梅木は、“えっ?”とマリの予想外の反応に後に引けなくなりました。
その後事故を未然に防ごうしたマリに再三催促された事もあり、萩野に無理を頼みました。
アメリカ空軍アクロバット飛行チームのメンバーは、まさか面会を求めた張本人がマリだとは気付かずに補欠メンバーに、「熱心な観客で私達の飛行に不満があるそうだ。話だけでも聞いてきて下さい。」と指示しました。
梅木や営業マン達は商売柄、英語は堪能でしたので、マリと一緒に管制塔でパイロットと会う事にしました。
梅木はマリの鼻をへし折るチャンスだと楽しみにしていると、そこへ、萩野がアメリカ空軍アクロバット飛行チームのパイロットを連れて来ました。
パイロットは、「私達の飛行に不満があるとの事ですが、どのような不満ですか?」と管制塔の窓から外を眺めていたマリに聞きました。
マリは振り返りながら、「あの飛行で満足しているのか!手前の目はどこについているのだ!」と怒っていました。
梅木達は慌てて、「おい、相手を見て喋れ!補欠といっても世界一のパイロット部隊のメンバーだぞ!」と失礼な発言をしないように忠告しました。
パイロットは敬礼して、「失礼しました。芹沢教官。」と直立不動になった為に、梅木達は呆気にとられました。
マリから、「次の飛行を中止にしてでも、直ぐに全員ここに呼びなさい!今の飛行は素人からは、安定したアクロバット飛行のように見えますが、空中衝突の危険性があった事があなたに解りますか?直ぐに中止しないと空中衝突の危険性があります!死にたくなければ直に中止しなさい!」と怒鳴られました。
パイロットは、「了解しました。」と返答して慌てて内線電話で連絡していました。
「芹沢教官が管制塔に来られています。空中衝突の危険性がある為に、死にたくなければ次の飛行を中止にして全員集まれとご立腹です。」と伝えました。
暫くすると、「本日のアクロバット飛行は、都合により終了させて頂きます。」と場内アナウンスが流れました。
パイロット達が管制塔に移動している間に、萩野がアメリカ空軍パイロットに、「彼女は何者ですか?」とマリの事を確認しました。
パイロットは、「彼女は元アメリカ空軍アクロバット飛行チームの芹沢教官です。」と返答しました。
萩野は驚き、「芹沢教官という事は、まさか彼女は鬼教官の異名を持つ伝説の名パイロットですか?」とパイロットに確認しました。
パイロットは、「そうです。数年前、アクロバット飛行チームが全然歯が立たなかった怪獣を数分で撃墜した芹沢教官です。」と返答しました。
それを聞いて、梅木はマリの事を思い出して、「えっ!芹沢があの有名な伝説の名パイロット?」と世界一の超一流パイロットだと判明したマリには敵わないと判断して、対抗する事は諦めました。
航空自衛隊とアメリカ空軍アクロバット飛行チームのパイロットが全員集まった所で、マリは、まずパイロットの責任者を確認すると航空自衛隊の鹿野パイロットでした。
マリが、「何故アメリカ空軍ではないの?」と不思議そうでした。
アメリカ空軍パイロットが、「アメリカ空軍の指導教官は、共同訓練直前に事故に遭い現在入院中です。アメリカ空軍で指導経験のある他のパイロットが出撃中で不在でした。今更共同訓練を中止できない為、航空自衛隊アクロバット飛行チームの鹿野教官の指導でアクロバット飛行を行っていました。」と返答しました。
マリは鹿野パイロットに、「あの飛行は何?あなたは今直ぐに責任者を辞任しなさい。理由は自分で考えなさい。」と指示しました。
鹿野パイロットは突然辞任しろと指示されて口答えしました。
「鬼教官がそんなに偉いのか!今は退役して部外者だろう。口をはさむな!」と怒りながらアクロバット飛行を続行しようとしました。
マリは、「もう良い。」と怒り、このまま共同訓練を続行すると事故が発生する可能性があると判断して、至急携帯でアメリカ空軍のマリの上官に連絡すると、電源が切られているようで連絡がつきませんでした。空軍基地の指揮官にも連絡しましたが連絡できませんでした。
マリは機械獣撃墜の件で大統領とも面識があった為に止むを得ずアメリカ大統領に直接電話しました。
マリは、「お忙しい所、突然お電話しまして申し訳御座いません。空軍のマリ芹沢です。緊急事態です。」と途中で電話を切られないように緊急事態だと最初に伝えました。
「上官と連絡が取れませんでしたので、直接お電話するご無礼をお許し下さい。私は今、日本で開催中のアメリカと日本とのアクロバット飛行の共同訓練で、公開されている訓練を見ましたが、大変危険です。パイロットの責任者は、アメリカ空軍パイロットの予定でしたが、都合により、日本の航空自衛隊の鹿野パイロットが担当する事になったそうです。彼に確認しましたが、我流でアクロバット飛行を甘く見ています。このまま続けますと、いつ航空機同士空中衝突する事故が発生しても、おかしくない状態です。退役して部外者の私の忠告を聞く様子もなく、アクロバット飛行を続行しようとしています。部外者の私には、これ以上止められません。大統領のお力で、観客をも巻き込む大事故が発生する前に至急中止させて下さい。」と依頼しました。
マリが電話している間に鹿野パイロットがアクロバット飛行の共同訓練を続行しようとしましたが、アメリカ空軍パイロットは動かず、動こうとしていた航空自衛隊員を止めました。
アメリカ空軍パイロットと鹿野教官が揉めていると自衛隊の幹部から自衛隊の現場責任者に緊急連絡がありました。
自衛隊の幹部は、「現場で何があった!アメリカ大統領から総理大臣へ鹿野教官名指しで直接苦情があったぞ!“そんな教官が在籍しているチームと共同訓練はできない。空軍に指示して即刻帰還させる!”という内容だ!総理大臣に交渉して頂き、現場に伝説の名パイロットの異名を持つアメリカ空軍の指導教官がいるので、パイロットの責任者として指名すれば、共同訓練は続行してくれるそうだ。」とアメリカ空軍ではなく、アメリカ大統領から直接苦情がくるとは現場で何があったのだろうと心配していました。
鹿野パイロットは、「今回のアクロバット飛行は俺に任されたのだ!」とまだ続行しようとしていました。
自衛隊の幹部は、「馬鹿者!相手はアメリカ大統領だぞ!お前は何さまのつもりだ!首だ!」と怒り政府に連絡しました。
鹿野パイロットは、アメリカ大統領を立腹させた事で総理大臣の逆鱗に触れて、自衛隊を即刻解雇になりました。そして教官にマリを指名して、マリは引き受け、反対する隊員はいませんでした。
マリは営業マンに、「仕事として有償になるように交渉して下さい。」と依頼しました。
ただ一人納得のいかない鹿野パイロットは、部下の前で、納得のいく説明をマリに求めました。
マリは、「今迄、航空ショーなどで色々と事故がありましたが、その原因を分析した事がありますか?私は、あなたの飛行とそのデーターから、航空機同士空中衝突するのは時間の問題だと判断し、中止させました。パイロットは操縦桿を握るだけではなく、こういう分析も必要です。アクロバット飛行は危険な飛行でスリルを味わうものではなく曲芸飛行です。基礎が確りしていれば、決して危険なものではありません。あなたの場合は基礎を疎かにしていた為に、責任者には不適格だと判断しました。どうしてもアクロバット飛行を行いたいのでしたら、もう一度基礎から勉強仕直しなさい。今の状態では、責任者どころかアクロバット飛行をする事自体、あなたの命取りになるばかりではなく、他のパイロットや観客をも巻き添えにする可能性があります。基礎を確りとマスターするまで、アクロバット飛行は行わないで下さい。一度自衛隊から離れて頭を冷やしなさい。」と説明しました。
鹿野パイロットは今迄に、何度もアクロバット飛行は行っていた為に、それなりに自信がありました。こんな言い方をされて、頭に来た鹿野パイロットは、「アクロバット飛行するかどうかは俺の勝手だ!何で、こんな若い女の指示に従わなければならないのだ!アメリカ大統領にチクらなくても良いだろう!解雇されたじゃないか!」と怒っていました。
マリは、「人命がかかっていた為に、それだけの価値は充分あると思いますよ。」と返答しました。
その後、マリはアメリカ空軍パイロットに、「何故空中衝突の危険性があったのか解るわよね。私が指導していた時に、この事は何度も説明したでしょう。何をしていたのよ。偶々私が気付いたから良かったようなものの、そうでなかったら、あなた方の中の何人かは死んでいたわよ。最後のアクロバット飛行をした人は誰?接触寸前だったじゃないの。何も感じなかったの?」と部下思いのマリは部下に危険な飛行をさせたくないようでした。
マリの部下で、「はい、私ですが、ヒヤッとして、死んだ!と思いました。」と返答しました。
マリは、「何故黙っていたの!死にたいの?」と部下を死なせたくないようでした。
マリの複数の部下が、「私達も非公開の訓練中に何度もヒヤッとして、無事にアメリカへ生きて帰還できるか心配でした。鹿野教官にも進言しましたが、“指導教官は俺だ!”と聞き入れて頂けませんでした。芹沢教官が中止の指示を出しても、鹿野教官は続行しようとしましたが、私達がボイコットして、どうするか迷っている航空自衛隊員を説得してここに来ました。止めて頂き助かりました。」とマリに感謝していました。
部下がマリを信じて鹿野教官と衝突してでもアクロバット飛行を中止してくれた事に満足していました。
マリは明日アクロバット飛行を公開する為に、航空自衛隊のアクロバット飛行チームを特訓して、アメリカ空軍アクロバット飛行チームとの共同訓練を実施して、公開当日は無事にアクロバット飛行を行いました。
マリの仕事も一段落して会社に戻ると、この件を知った社長や社員達から大歓迎を受けて、航空部門で藤田部長の右腕として、技術担当の副部長に昇格しました。
次回投稿予定日は、9月7日です。