第百五十一章 マリ、次郎と上官に気付く
二人が雑談している所へ来た次郎は、佳子が来ていた為に小さな声でマリに、「数年前に出産した子供はどうする気だ?霧島さんには、まだ何も説明してないのか?」といつまでもマリの上官に甘えている事もできないので、どうするつもりなのかマリの考えを確認しました。
マリは、「そうね、一度逢ってみたいわね。佳子、親友のあなたにだけは言うけれども、私には隠し子がいるのよ。霧島に言うべきか黙っているべきか迷っています。」とマリも判断に迷い親友の佳子に相談しました。
佳子は驚いて、「マリ、そんな話は初耳よ。あなたいつの間に出産したのよ!」と不思議そうでした。
マリは、「佳子と知合う前よ。両親が交通事故に遭ってから暫くスランプ状態で、操縦桿も握れなくなって悩んでいた事があったのよ。空軍の部下が私の休暇が長い為に心配して様子を見に来て、思わず泣きながら部下に縋り付き、そのままやっちゃったのよ。何も考えていなかった為に、それで妊娠しちゃって、子供は殺したくなかった為に出産したのよ。」と説明しました。
佳子は、「操縦桿を握って生まれてきたようなマリが操縦桿を握れなくなるだなんて、とても信じられないわ。」と予想外の事実を知り驚いていました。
マリは、「そんな訳ないじゃないのよ。真面目に相談しているのに茶化さないでよ。」と不満そうでした。
佳子は、「御免。でもマリは、そのくらい操縦桿とは切っても切れない縁があるイメージなのよ。でも相手はアメリカ軍人だったら、直ぐにアメリカへ帰国したのでしょう?その時にマリに子供ができた事を知っているの?」とマリの事を心配していました。
マリは、「部下は、その当時婚約中でしたので何も伝えてないわ。それが原因で破談になると私も困るしね。」と子供をどうするか困っている様子でした。
佳子は、「それもそうね。確かにそうかもしれないわね。所で、その子供はどうしたの?一度も見た事ないけれども、どこに隠しているの?」と子供がどこにいるのか不思議そうでした。
マリは、「隠すだなんて、私の子供は物じゃないわよ。子供は、叔父さんの信頼できる人物に預けています。」と返答しました。
佳子は、「そういう事か。だいたいの事情は把握できたわ。今、霧島さんとの間に子供がないので、身軽で、ひょっとすれば、“騙された!”と離婚になる可能性があるわよ。でも相手の男性は、当時は婚約中だったかもしれませんが、今は結婚して子供もいるのでしょう?子供がいる事を伝えておいた方が良いわよ。別に認知しろとか引き取れとかいう訳じゃないのでしょう?」と助言しました。
マリは、「霧島には子供がいないとは言ってないので騙していないわよ。部下にも、そんな事を今更言えないわよ。家庭が崩壊したらどうするのよ。」とマリ一人で抱えて困っているようでした。
佳子は、「世間ではそれを屁理屈というのよ。マリの家庭は崩壊しても良いの?そんな事をいい出すと子供が可哀想よ。子供は親が育てるベキよ。相手に伝えて、どちらかが引き取って育てた方が良いと思います。」と助言しました。
マリは、「だったら私が引き取るわよ。そうなれば霧島に言わない訳にもいかないので、悩んでいるのよ。暫くは、今の状態にしておくしかないのかしら。」とマリの考えを伝えました。
次郎は、「それでは、今迄どおり、内緒でこっそりと子供に逢うか?」と呟きました。
マリは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、「えっ!?それは、どういう事なの?私、一度も逢った事ないわよ。」と不思議そうでした。
次郎は、“しまった、口が滑ってしまった”と後悔して、「えっ?何も聞いてないのか?」とマリと子供が一緒に写っている写真を見せました。
マリは、「この子は、私が出撃から帰還した時に上官が、“子供の方が、気が休まるだろう“といつも私の相手をしてくれていた子供じゃないの。まさか・・・」と驚いて言葉を失いました。
次郎は、「そのまさかですよ。その子供はマリの子供ですよ。今は上官夫婦が育てています。上官は子供の父親が誰なのか解ったような事を仰っていました。将来、その父親だと思われるパイロットに操縦技術の指導をさせようと考えているようです。」と説明しました。
マリは、「う~、騙された!何故私の子供が上官の所にいるのよ!叔父さんに、上官を紹介した覚えはないわよ!私の子供は信頼できる人物に預けると言っていたではないですか!」と不機嫌そうでした。
次郎は、「落ち着いて。世界一の名パイロットの近況が心配で、向こうから連絡して来ました。マリの上官でしたので、信頼できる人物だと説明したのですよ。妊娠期間中、マリの自家用機を準備するのに約一年掛かったのも、マリの妊娠期間を考慮した上の事ですよ。」と説明して、マリの携帯を内緒で確認した事は説明しませんでした。
マリは、「叔父さんが、上官のスパイだったとは知らなかったわ。そう考えると、霧島との特命など、色々と心当たりがあります。」と怒りだしました。
佳子が、「マリ、そんなに怒らずに、叔父さんも、マリの事を考えた上の事ですから。でも、霧島さんには内緒にしておいた方が良いわよ。もし離婚にでもなれば、あなた有名人ですので、マスコミの餌食にされるわよ。例えば、“伝説の名パイロット、離陸直後に墜落か!”ってね。」と説得しました。
マリは、「叔父さん、ちょっと聞きたいのだけれども、私が結婚するまでは確かエアメールなどは来てなかったと思いますが、その写真はどうやって入手したのですか?」と不思議そうでした。
次郎は、「えっ?マリ、上官から何も聞いてないのか?これはプライバシーの問題だから、私の口から言えない。直接上官から聞いて下さい。」と断言を避けました。
マリは、「何がプライバシーよ!私のプライバシーはどうなるのよ!二人でこそこそと何を相談しているのよ!他に私に隠している事はないの?」と切れました。
佳子が、「マリ、落ち着いて。以前、先に冷静さを失った方が負けだと教えてくれたじゃないの。あの時のマリはどこへ行ったの?」と二人の間に入りました。
マリは、「上官から、私の弱点は精神的に弱い所だと指摘されていたので、どこ迄冷静に対処できるか練習していただけよ。今はそれ所じゃないわよ。」と返答しました。
佳子は、「それって酷くない?私はあの後、警部と総理大臣に呼び出されて直接大目玉を食らったのよ。」と練習する方法は他にいくらでもあるだろうと不満そうでした。
マリが、「それには理由があるのよ。私が怪獣を撃墜した時に、私の名前がマスコミに発表された為に、その怪獣を作った謎の組織に襲われる可能性があり、護身用に日本国内で私の拳銃携帯許可をアメリカ政府が日本政府に依頼しましたが、日本政府が日本の警察は優秀だと断ったのよ。こんな事がアメリカ政府にばれると、日本政府としての面子が丸潰れになる為に、怒っていたのよ。」と説明しました。
佳子は、「何よ、それ。マリのお陰で酷い目にあったわ。」と真実を知り驚いていました。
マリは、「佳子、話を摩り替えて誤魔化さないでくれる?叔父さん!何を隠しているのよ!」とまた怒り出しました。
次郎は、「別に隠してないよ。マリは知っていると思っていただけですよ。」と説明しました。
マリは、「それじゃ、先程のプライバシーは何よ。私だけ知らないのは、隠しているという事じゃないの!」と不機嫌そうでした。
次郎も仕方なく、「解ったよ。説明するよ。マリ、上官が爆弾テロの被害に遭った事は聞いていますか?これも聞いていないのか?」と確認しました。
マリは、「聞いているわよ。近くに外科医がいて、助からないと診断しましたが、偶然にも名医が近くにいたので助けて頂いたと聞いていますが、それとこれとどういう関係があるのよ。そんな事は関係ないでしょう。」と不思議そうでした。
次郎は、「それが関係あるのだよ。その名医は新婚旅行中の陽子さんですよ。その時に偶々陽子さんは上官がエスベック病に侵されている事に気付き、“この軍人には持病がある。“とだけ伝えたので陽子さんが応急手当をした後に搬送された病院で検査した所、殆ど助からないエスベック病だと判明しました。陽子さんは今迄に数回エスベック病の手術に成功している為に、定期的に陽子さんの診察を受診する為に今も三ケ月に一度来日しています。嘘だと思うのでしたら、来週陽子さんの診察を受診する為に来日するので、上官に確認すれば解りますよ。但し陽子さんは、医師には守秘義務がある為に、上官が了承しない限り、上官が診察に来る事も話さないでしょうね。」と説明しました。
マリは、「その件は解りました。後は私の方で確認します。その他に何か隠してないの?霧島との特命にも何か裏があるのではないの!」と確認しました。
次郎は、マリが撃墜した機械獣の話をして、「将来の事を心配して、上官はマリと同等かマリ以上の操縦技術を持つパイロットの育成が必要なので、マリの子供をマリが徹底的に指導して優秀なパイロットに育てる事を希望しています。」と説明しました。
マリは、「解ったわ。私の子供については私が徹底的に指導しますが、私が責任を持つのはそこまでです。孫をパイロットにするかどうかは、子供に任せるのでね。」と返答しました。
マリも落ち着いて来たので、次郎と佳子は帰って行きました。
次回投稿予定日は、12月14日です。




