第百四十八章 マリ、プロポーズされる
離陸に成功したマリは、空軍基地に報告しました。
マリは、「任務完了。学者とその息子は救出しましたが、残念ながら、学者の奥さんは猛獣に襲われていて既に死亡していた為に、定員の関係上現地に残して来ました。遺体収容については、お任せします。これより帰還します。」と報告しました。
空軍基地に向かって飛行中、学者一家は日本語が理解できないと判断して、霧島外科医は上空でマリに日本語で、「困難な任務も芹沢さんと二人で協力して、切り抜ける事ができました。人生も芹沢さんと、いえマリさんとなら上手くやっていけそうです。私と結婚して下さい。返事は今晩、僕のマンションに来て、聞かせてくれないだろうか?返事を急ぐ理由は、その時に説明します。」とプロポーズしました。
マリは、“子供がいないとは言っていないので、騙す訳ではない。私は只、プロポーズを受けるだけ。”と自分に言い聞かせていると、“どうしよう、興奮して上手く操縦できない。上官の言っていた事はこれか。”と思っていました。
マリは、霧島外科医と密着している為に、意識すればするほど、興奮して、落ち着いて冷静になろうと思っているマリの心とは裏腹に、息遣いが荒くなり、霧島外科医に気付かれないかと心配していました。
着陸後、霧島外科医は、毒蛇に噛まれたマリを学者より先に診察する事にしました。手配しておいた血清をマリに注射して、念の為に、霧島外科医がマリの血圧・体温・脈拍などを検査して、その後、診察しました。
霧島外科医が、「はい、口を開けて、あ~んして」と指示しました。
マリが口を開けた為に、口の中を覗きながら霧島外科医は、「マリさんも、いつもこれだけ素直でしたら、鬼だなんて言われなくても済むのにね。可愛い顔をしているのに男みたいな性格をしているので、鬼教官だなんて言われるのじゃないですか?」と世間話をしながら診察していました。
マリは口を閉じてから、「大きなお世話ですよ。それに人が口を開けて、医療機器を口の中に入れられていれば反論できないでしょう。そんな時に、あんな事を言うだなんて卑怯よ。」と不機嫌そうに怒りました。
霧島外科医は、「いつも、何かを言われるような事をしている事自体問題なのではありませんか?少し脈が早いようですが、それ以外は今の所、特に問題はありませんでしたよ。安心して下さい。」と診察結果を伝えました。
マリは、「何かを言われるような事をしていて悪かったわね。」とブツブツ呟きながら、“脈が早いって、私が興奮している事が霧島さんにバレたかな?診察されると益々興奮したわ。”と思っていました。
学者親子も検査して診察しましたが、特に問題ありませんでしたので、記者会見に臨みました。
記者は、「奥さんが亡くなられて悲しんでおられる所を、誠に申し訳御座いませんが少しお話を聞かせて頂けませんか?墜落の原因は何ですか?」と質問しました。
学者は、「エンジントラブルで出力が落ち、止むを得ず不時着しました。」と返答しました。
マリが、「エンジンに鳥が吸い込まれていました。」とトラブルの原因を補足説明しました。
記者は、「有難うございます、芹沢さん。夕方で薄暗く気付かなかったのですね。何故救出が困難な場所に不時着したのですか?」と質問しました。
学者は、「救出の事を考えている余裕はなく、生き残る事しか頭に浮かびませんでした。樹木の多い場所の方が、クッションになり助かる可能性が高いと判断し、あの場所へ不時着しました。」と返答しました。
記者が、「解りました。それでは、不時着後、どうされましたか?」と質問しました。
学者は、「まず川を捜して、その流れに沿って行くと、大きな川に出ると判断しました。大きな川の近くには人が住んでいる可能性があります。しかし川を見付ける前に猛獣に襲われて、女房が子供を守ろうとして、死にました。助けようとしましたが、武器がなかった為に猛獣相手ではどうにもならず、女房の死亡が確認できた為に、猛獣が女房を食べている間に、子供を守ろうとした女房の死を無駄にしない為に、断腸の思いで子供と逃げました。その後、猛獣に襲われた時の為に、武器になりそうな木の枝を拾い、夜は猛獣に襲われないように大木に登り睡眠を取り、食事は木の実などを食べながら、川を捜していると、再び猛獣に襲われて、木の枝で対抗していると、近くで銃声が聞こえた為に、救助隊が来たと判断して、大声で叫んで助けを求めると、芹沢さん達が来て助けられました。」と説明しました。
記者が、「有難う御座いました。それでは、芹沢さんにお聞きします。航空機の墜落地点から、学者一家がどこへ向かったのかどのようにして確認されたのですか?それに毒蛇に噛まれたと聞きましたが、大丈夫でしたか?」と質問しました。
マリは、「足跡や、服の切れ端などから判断して猛獣を銃で撃退しながら捜していると、奥さんの遺体を発見しました。更に進んで行くと、人の声がした為に、そちらに向かいました。二人とも軽傷で歩行可能でしたので、垂直離着陸機に向かって歩いて行きました。その時、確かに私は毒蛇に噛まれましたが、霧島外科医に手当てして頂きましたので、この通り、なんとか生きています。猛獣は気配で解りますが、蛇は気配を消して接近して来る為に気付きませんでした。」と返答しました。
記者が、「という事は、帰り道に途中で奥さんの遺体の近くを通ったという事ですか?」と質問しました。
マリが、「そうです。特に息子さんが、自分を守る為に死んだ母を置き去りにできないと泣きながら連れて帰ろうとしていましたが、残念ながらヘリではなく、戦闘機でしたので狭く、更に遺体を収容していると、再び猛獣や毒蛇などに襲われる危険性もあり、後日遺体を収容すると説得して帰還しました。」と返答しました。
記者は、「遺体を収容すると言っても、ヘリでも着陸できない場所にどのようにして行かれるのですか?」と不思議そうに質問しました。
マリは、「今回は生存者救出という事でしたので、できるだけ早く現地に行く為に、航空機を使用しましたが、遺体収容については、陸から時間を掛ければ行けます。但し猛獣や毒蛇などが生息している為に、それなりの装備は必要になります。後は学者一家が関連機関と交渉し、遺体を収容する事になるでしょう。」と返答しました。
記者が、「空軍基地に帰還して着陸時、少し不安定だったように思えますが、何かあったのですか?」と質問しました。
マリは、“うわっ!どうしよう、プロポーズされて興奮していただなんて言えないし、そうだ!毒蛇のせいにしよう。”と思い、「毒蛇に噛まれた時に毒を吸い出す為に腕を切開しました。その腕が痛み、上手く操縦できずに少し不安定になりました。」と返答しました。
記者は、「操縦は片手ではできないのですか?」と質問しました。
マリは、“も~しつこいな。一体私に何を喋らす気?”と思いながら、「毒蛇に噛まれたのが利き腕でしたので、反対の腕でしたらもっと安定して操縦できたと思います。皆さんも、文字を書いたり、食事をする時に使う手を反対側の手にすると、上手く書けなかったり、食べられなかったりするでしょう?同じ腕でも右腕と左腕とでは、同じ様に動かないでしょう?それで操縦が少し不安定になりました。」と返答しました。
記者は、「そうですか、解りました。大変でしたね。」と納得しました。
マリは、“やれやれ、何とか誤魔化せた。”とホッとしました。
最後に記者が学者の息子に、「お母さんが亡くなり悲しいでしょうが、気を落とさずに頑張って下さい。」と励ましました。
息子は、「はい、有難う御座います。悲しい事ばかりではなく、目出度い事もありましたので。」と返答しました。
記者が、「目出度い事とはなんですか?」と何かあったのかな?と質問しました。
学者の息子は、「説明している時間はなさそうですね。後で個人的に教えてあげます。発表するかどうかは、皆さんに任せます。」と返答しました。
記者は最後に、「解りました。楽しみに待っています。目出度い事でしたら、是非発表させて頂きたいですね。それでは皆さん大変な時にお時間を頂きまして有難う御座いました。」と記者会見のお礼をして終わりました。
マリが記者会見場から出ると、上官からマリの携帯に着信がありました。
上官は、「生放送の記者会見、見たよ。ご苦労さま。所でマリ、お前何を隠しているのだ?」と突然問い詰められました。
マリは、「上官、突然何を仰るのですか?私は何も隠していませんよ。」と返答して内心ドキッとしました。
上官は、「以前も言った事があると思うが、俺の目は節穴ではないぞ。お前が毒蛇に噛まれたのは利き腕ではないじゃないか!何を隠しているのだ?」と記者会見の矛盾点を突きました。
マリは、「上官には敵いませんね。今度お会いした時にお話します。今は勘弁して下さい。」と返答しました。
上官は電話を切り、“今は喋れないという事は、プロポーズされたな?結婚が決まるまで喋れないという事か。さては興奮して操縦が乱れたな。矢張りマリは精神的にはまだ駄目だな。”と思っていました。
上官は、プロポーズの事をマリに確認すると今回の件を仕組んだ事がばれる可能性があった為に、それは聞きませんでした。
次回投稿予定日は、12月5日です。




