第百四十七章 マリ、罠に填まる
マリは佳子が退院してからは、外科病棟と父親が入院している脳外科病棟とは遠かった為に、霧島外科医と会う口実もなくなり二人は急接近して、最近ではお互いの部屋に入る事もありました。しかしキスまでで、肉体関係はまだありませんでした。二人が付き合っている事を、アメリカ空軍が次郎を通じて掴み、二人に特命がありました。
その特命とは、世界的に有名な学者が自家用機で家族旅行中、アフリカ上空で消息を絶ちました。
捜索した結果、墜落している航空機を発見しましたが、付近はヘリや垂直離着陸機でも着陸困難な場所で、ヘリで上空から捜索しましたが、樹木が多く発見できず、死亡しているのか、生存しているのかさえ不明でした。
陸から行くと時間が掛かる為に、もし生存していても救助隊が到着するまでに死亡する可能性があり、生存している場合は早く救出する必要がありました。
航空機が一番早く救出できる為に、ヘリから陸軍兵士がロープで降下する案もありましたが、現場は風が強く、ヘリが安定して静止できない為に危険で、パラシュートも強風の為に予想外の地点へ飛ばされる可能性もあり、結局ヘリか垂直離着陸機で強行着陸するしか方法はないという結論に達しました。
現場は着陸困難な場所で着陸できる操縦技術を持っているのはマリしかいない為に、その生死を確認し、もし生存していれば、学者一家の救出が特命でした。
二人の役割は、生存者を捜して、生死の確認と、学者一家が負傷していれば、その手当てを霧島外科医、操縦と学者一家を猛獣等から守る事がマリの任務でした。
その特命は、二人に別々に依頼が来て、パートナーについては、霧島外科医には、アメリカ空軍パイロット、マリには、世界出張医師団の外科医としか知らされていませんでした。
当日、お互いに顔を合わせて、初めてパートナーが、いま付き合っている恋人だと知り、二人共驚いていました。
マリは霧島外科医と出撃して、到着するまでの間に上空で、「霧島さん、私達ヒョットしたら填められたかもしれませんよ。」と現状を把握したマリは霧島外科医に伝えました。
霧島外科医は、「芹沢さん、それはどう言う意味ですか?」とマリが何に気付いたのか理解できませんでした。
マリは、「考えれば解るでしょう。この戦闘機は二人乗りですよ。もし生存者がいればどこに乗せるのですか?後部座席に学者一家となれば、必然的に私達が操縦席で抱き合って乗ることになりませんか?誰の差金か知りませんが、やられました。私は女性の外科医だと思っていましたが、霧島さんが特命のパートナーだと知った時、話ができ過ぎていると思いました。誰かの罠に填まった事は間違いないと思います。」とその理由を説明しました。
霧島外科医は、「私は、そこまで考えていませんでした。空軍パイロットに何か考えがあるのだと思っていました。そう考えると、安全ベルトはどうするのですか?」とマリに確認しました。
マリは、「ですから、安全ベルトをしていない人は、安全ベルトをしている人に確りと抱きつく必要があります。」と説明しました。
霧島外科医は、「なるほど、そういう事ですか。芹沢さんに堂々と確りと抱きつく事ができるのですね。しかし、今日は、スカート姿ではないので、なんとかなるのではないですか?その時はその時で考えましょう。楽しみだな。」と嬉しそうでした。
マリは、「私達が抱きつくのは、悪までも生存者が複数いた場合だけですよ。でもその時は、そんなに確りと抱きつかなくても良いように静かに飛行しますのでね。」などと雑談していました。
まさかその差金の張本人が上官と次郎だとはマリも気付かなかったようでした。
マリはマスコミのインタビューで、恋人や結婚の質問については、その気配を感じさせませんでしたので、超一流パイロットをマリだけで終わらせたくなく、その子孫の事を考えたマリの上官が、次郎に確認しました。
次郎は、「マリには上官に預けた隠し子がいるではないですか?」とマリに子供がいる事を忘れているのかなと感じました。
上官は、「それを知っているのは、私達だけで、マリも隠しているようなので、堂々と操縦技術の指導ができません。今は私の女房が母代わりになり、航空機の知識は、私が教えていますが、恐らくこの子の父親だと思われるパイロットに、操縦技術の指導をさせようと考えています。可能であれば、マリが日本で正式に結婚し、マリが自分の子供を手塩に掛けて育てると、必ず素晴らしいパイロットになると確信しています。」と将来の事を考えた上の事だと返答しました。
次郎は不信に感じ、「何故、そんなにパイロットの事を心配されるのですか?アメリカ空軍にも腕の良いパイロットは何人もいるでしょう。」と確認しました。
上官は、「私は以前マリが撃墜した謎の機械獣の事が心配です。機械獣は設計図があれば、再び作成する事は可能ですが、マリはやがては年老います。マリと同等かそれ以上のパイロットを育てないと将来、謎の組織に世界は征服され、大変な事になる可能性があります。」と超一流パイロットが将来も必要な理由を説明しました。
次郎は、「解りました。マリは世界出張医師団に登録している霧島外科医と付き合っていますが、二人とも仕事がバリバリできる為に、結婚まで話が進まないようです。私もマリの事が心配です。二人を結婚させる良い方法はありませんか?」と上官に相談した結果、今回の特命に到ったのでした。
垂直離着陸機で現場上空に到着したマリは、「確かに着陸困難ね、もし着陸に失敗したら御免ね!私と一緒に死んでくれる?」と冗談交じりで雑談しながら着陸場所を捜していました。
霧島外科医は、「おいおい、ちょっと待てよ。芹沢さんを信頼していますから。」と操縦はマリに任せるしか方法はなく、マリを信じるしかありませんでした。
マリは、「いつもは信頼していないのに、こんな時だけ信頼するとは、調子が良いですね。」と普段も信じてよと不満そうでした。
霧島外科医は、「操縦技術だけは、いつも信頼しています。そんな事を言っているから、鬼だと言われるのですよ。」と躱しました。
マリは、「鬼で悪かったわね。」と不満そうに、着陸場所を捜していました。
マリは普通に着陸するのは不可能だと判断して、ウサギのようにピョンピョン跳ねるようにして、足場を確認しながら、安定して着陸できる場所を捜して、ようやく着陸に成功しました。
念の為に、霧島外科医にも銃を渡して、二人で捜索を開始しました。学者の奥さんは既に、猛獣に噛み殺されていて、霧島外科医が確認するまでもなく、素人のマリでさえ、直ぐに死亡している事が確認できました。
あと、学者と十五歳の息子がいる筈ですので、自動小銃で猛獣を撃退しながら捜索していると、二人が猛獣に襲われているのを発見しました。
マリが自動小銃で猛獣を追い払っている間に霧島外科医が、怪我をしている学者の手当てをしました。
手当てが終わり全員で、垂直離着陸機に向かっていると、木の枝に潜んでいた毒蛇に学者の息子が襲われて、銃が使えませんでしたので、マリが助けましたが、その時にマリが毒蛇に噛まれました。
マリは軍服でしたので傷は浅かったのですが、毒蛇でしたので霧島外科医がマリに、「毒蛇なので、直ぐに毒を吸い出さないと、死にます。」と説明して、ここで処置する必要がある事を告げました。
霧島外科医はマリから預かっていた銃を学者に渡し、猛獣が来た時の対処を依頼して、マリの軍服を破き、メスで切開しました。
マリが痛さのあまりに体を動かすと、霧島外科医は、「痛いのは解りますが、ここには血清も麻酔もありません。直ぐに毒を吸い出さないと芹沢さんは死にます。これしか方法はありません。動かないで!神経を傷付ければ、腕は二度と動かなくなる可能性があります。」と説明して切開を続けて、毒を霧島外科医の口で吸出しました。
学者の息子は、「御免なさい。僕のせいで。」と泣きながら謝っていました。
マリは、「良いのよ、あなたの責任ではないのよ。あなた方を猛獣や毒蛇等から守る事が私の任務です。木の枝に潜んでいた毒蛇を見落とした私のミスなので、そんなに自分を責めないでね。」と、その子の責任ではない事を説明しました。
しかしこの時、マリは、上官が言っていた、“上空で予想外の事が起こると、判断を誤る可能性がある。”という言葉を思い出して、“私一人だったらパニックになり、操縦どころか何もできなくなっていたかも知れないわ。霧島さんがいてくれて助かった。私、本気で霧島さんに惚れたかも?”と思っていました。
霧島外科医は、「直ぐに手当てしたので大丈夫だと思いますが、帰還すれば念の為に、血清を注射しておきましょう。手配しておきます。」と無線で連絡して、再び垂直離着陸機の方へと向かいました。
垂直離着陸機は二人乗りの為に、後部座席に学者とその息子、操縦席に霧島外科医とマリが乗るという、かなり窮屈な状態で離陸しようとしましたが、先程毒蛇に襲われた腕が痛み上手く離陸できませんでした。
霧島外科医はマリが腕を痛そうに押さえていた為に、操縦桿を握っているマリの手を霧島外科医が握り二人で協力して、離陸に成功しました。
次回投稿予定日は、11月30日です。




