第百二十六章 マリ、航空部門に転属する
次の出勤日、マリの上司は、この件を社長に報告しました。
社長は、「空軍パイロットだという事は、航空機に詳しいのではないのかね?今、航空業界に新規参入しようとしている部署がありますが、芹沢君の知識と人脈が役に立たないのかね?」と秘書にマリとマリの上司と航空部門の所属長を社長室に呼ぶように指示し、打合せの結果、マリの移動が一週間後に決まりました。
要は航空機の販売をしようとしていますが、航空機については誰も一通りの知識しかなく、詳しい質問をされると、返答できる社員がいませんでした。
業績も良くない為に、中途入社で人材を捜していましたが、一人だけ梅木を正社員として採用しました。その部署でマリの知識を必要としていました。
部門長の藤田部長は、マリが移動して来た日に全員を集めてマリを、「芹沢君は若いですが、元アメリカ空軍パイロットなので、パイロットの立場から販売に力を入れて頂きます。」と紹介して、航空機の説明をしました。
梅木は知識があった為に、「なるほど良く解りました。」と納得していましたが、他の社員はまだ良く解らない様子でした。
梅木は中途入社で、社員としての地位が不安定でしたので、早く社員として会社に馴染みたいと思い、自分の必要性を皆に訴える為に、自分にはこの説明を理解できる知識がある事をアピールしたかったようでした。
しかしマリは、「だからどうなの!」とこんな知識で航空機が売れる筈がないと感じていました・
藤田部長は、「これから販売する航空機の説明をしたのです。」とマリが何をいおうとしているのか理解できませんでした。
マリは、「そんなの資料に書いてある事ばかりじゃないの!そんなすっ呆けたような説明をしているので、全然駄目なんじゃないの!例えば他の航空機と比べて乗り心地はどうなの!飛行中、急に横風を受けた時の揺れ具合は?操縦桿の反応は?要は本気で航空機を購入しようとしている人は、安い買い物じゃないので、エンジンの出力や飛行速度など、資料を見れば解る事は事前に調べています。その説明を真剣に聞いている人は只のひやかし等、本気で航空機を購入しようとしてない人です。説明を聞いてくれる為に、その人達の相手をしていたので、今迄売れなかったのではないですか?それよりも、資料には記述されていない事を知りたい筈です。その当りの事が全然説明にないじゃないの!」とマリは鬼教官に戻りかけていました。
藤田部長は、「実際に乗って操縦してみないと、そのような具体的なことは解らないので・・・」とそのような事は調べていない事を強調しようとしました。
透かさずマリは、「じゃあ乗ってみれば良いでしょう!あなた方も例えば車を買う時に、資料を棒読みする販売店と、実際の乗り心地やハンドルの軽さなど他車に比べてどうなのか、など具体的に説明してくれる販売店とでしたら、どちらの販売店を選びますか?それを考えれば解るでしょう!資料に書いている事ばかり説明すると、航空機を購入しようと思っても、“この人は航空機に詳しくないようなので、この人に頼んでも大丈夫かな?”と疑われますよ。アメリカで売れている航空機を輸入し、日本で販売しても売れないのは、国民性だとか詰まらない事を考えてないですよね?この状態だと、この部署が解散するのは時間の問題ですね。」と指摘しました。
社員達は、「知識が乏しいと見抜かれないように資料を暗記して説明していましたが、お客様からは見抜かれていたのですね。」とうなずき、マリの説明を納得していました。
藤田部長は、「空港を手配するので芹沢さん、調査して下さい。勿論芹沢さんの操縦で。」と指示し、三日後に空港の手配をしました。そして、これから販売する航空機の事を営業マンは勿論、事務員も含めて、この部署の社員は全員知っておく必要がある為に、全員参加するようにと指示しました。
当日、全員空港に集合しました。
藤田部長は、「定員の関係上、営業マンと梅木さんが航空機に搭乗して、残りの社員は地上から、撮影などを行います。それでは芹沢さん操縦お願いします。他の社員も準備して下さい。」と指示したので、営業マンと梅木とマリが搭乗しました。
その後マリは管制塔と連絡を取りながら離陸しました。
通常飛行した後にタッチアンドゴーを行い、「これが通常飛行の感覚です。それ以外に今迄、顧客との電話対応のなかで、宙返りやアクロバット飛行という言葉が出てきましたが、実際に飛行してみますので、皆さん、感覚を掴んで下さい。」と予告して、翼が折れない程度のアクロバット飛行の連続で、営業マンらは感覚を掴むどころか、失禁する社員もいました。
着陸して、航空機から降りると、皆、足がガタガタ震えて、中には乗り物酔いで、気分が悪くなり嘔吐した社員もいて、真面に歩ける社員はいませんでした。
藤田部長が、「何であんな凄いアクロバット飛行をしたのですか?」と問い質しました。
マリは、「あの飛行のどこが凄いの?初歩的なアクロバット飛行じゃないの。」と航空機を点検していました。
マリの飛行を見た空港責任者は、超一流パイロットだと判断してマリの後に来て、「初歩的ですか?どこか調子の悪い所でもありましたか?」と確認しました。
マリは航空機の点検をしながら、数カ所バランスの悪い所を指摘しました。
空港責任者は、「可笑しいですね。飛行前にチェックしましたけれどもね。」と返答しました。
マリは、「誰が飛行前の話をしているのよ!私は今、調子が悪いと言っているのよ!」と振り返りました。
空港責任者はマリの顔を見た途端に態度が変わり、「今直ぐ点検させますので、暫くお待ち下さい。」と超一流パイロットだと解っていましたが、伝説の名パイロットだと知り慌ててベテラン整備士二名を呼び出しました。
マリが整備士二人と打合せしながら点検して、マリの指摘通りに、整備しました。
最後に整備士は空港責任者に、なんでこれが、ベテラン整備士が二人も緊急呼び出しされる仕事なのかを確認しました。
空港責任者は、「君達は、何を言っているのだね!彼女に見覚えはないかね?」とあのアクロバット飛行を見ても何も感じないのかな?と超一流のパイロットだと気付かない事に呆れていました。
ベテラン整備士はマリの顔を見ながら、「どこかで見覚えがありますけれども、思い出せません。」とマリの顔を見て考えていました。
空港責任者は、「今日は気になって仕事にならないでしょうから、帰って頭を冷やしてこい。」と指示しました。
整備士は帰宅して、明日は古紙回収の日でしたので、古い雑誌などを整理していると、伝説の名パイロットの記事が目に付き、暫く見ていると顔写真から、それがマリの事だと気付き、空港責任者の言葉が理解できました。
空港責任者だけはマリに気付き、「あの~失礼ですが、マリ芹沢さんですよね?サインお願いします。」とマリに会えて喜んでいました。
社員達は、この様子を見て、「おい、芹沢って有名人だっけ?タレントだったのかな?でも全然聞いた事ないし、あまり有名じゃなかったのかな?」と考えていました。
別の社員は、「芹沢さんは、アメリカに住んでいたと聞いたぞ。アメリカのタレントだから知らないだけじゃないのか?」等と雑談していました。
明朝、マリ達社員は普段通りに会社に出社しました。
藤田部長は、営業マン達を会議室に集めて、会議を始めました。営業マン全員に昨日の飛行の感想について聞きました。
通常飛行は兎も角、アクロバット飛行では全員、それどころではなく、死ぬ思いをしていた為に、アクロバット飛行に付いては、報告できる事は何もありませんでした。藤田部長は最後にマリに話を聞きました。
マリは、知識の乏しい営業マン達にも理解可能なように、専門用語の解説を含めながら説明して、マリの報告は終わりました。
業務は営業マンが顧客と商談して、専門知識が必要になった時に梅木かマリが同席する形で進められ、梅木とマリは固定の顧客を持たずに、営業もしませんでした。
展示会などでは、詳しい質問をされても即答可能な為に、女性のマリが説明員で、脈のありそうな客をマリが営業マンに合図し、営業マンが、その場で商談に持ち込み、展示会終了後営業マンが訪問して商談していました。
ある日、佳子が上司から、「今度警察で、犯罪の多様化にも対応可能なように、ヘリ以外に航空機を購入する事になったが、第一線の刑事として、何か希望はあるかね?」と聞かれました。
佳子は、「説明員をする私の知合いから聞きましたが、航空機の展示会が来週からあるそうです。その展示会の見学予定はありますか?」と質問しました。
上司が、担当部署に確認して佳子に、「今、担当警察官に確認すれば、この業界については詳しくなく、展示会についても知らなかった為に、知り合いがいるのであれば是非展示会に同行願いたいと依頼されたので、当日は頼むよ。」と頼まれました。
佳子は、そんなに暇ではないと不満そうに警察官数名と展示会に行きました。
マリは、まさか佳子が平日に来るとは思ってなかった為に、佳子に気付きませんでしたが、佳子はマリを捜していた為に気付き、マリの背後から、「あらあら、可愛いべべ着て、孫にも衣装とは良く言ったものね。」と声を掛けました。
マリは驚き、「ちょっと何しに来たのよ。」と佳子が何をしにきたのか疑問でした。
佳子は、「何しに来たはないでしょう。今度警察でも航空機を購入する予定なので、見に来たのじゃないの。」と仕事をさぼって遊びに来たのではないと不機嫌そうに返答しました。
マリは、「刑事の仕事も大変ね。こんな事までするの?で、どんな性能の航空機を考えているの?」と確認しました。
佳子は、「私は頼まれたので付いて来ただけで、こちらが担当警察官なので、話は、こちらとして下さい。」と担当警察官を紹介しました。
マリは、「営業マンも同席させましょう。」と営業マンに合図し、担当警察官がマリと営業と色々打合せして、「検討して後日連絡します。」と告げて佳子と帰って行きました。
次回投稿予定日は、9月4日です。