複雑な気分なんですけど
とうとう、私は美香が、元の世界に戻って体に入ったあと、再び体から飛び出すとニケバージョンはデフォになってしまっていた。
完全に実体化して固定されてしまったみたいですぅ。しくしく・・・
これは、あれよ。はずい。
リアルコスプレ、女神的な。頭の上に輪っかがないのが、ある意味救いかも・・・な、わけあるかー と一人突っ込み
まあ、実体化に伴い声が出るようになったんだけどね。
「女神様」
庭をフヨフヨと進んでいると、声をかけられた。ああ元零体だけに軽いのか実体化しても空中に浮かぶのは変わらず、歩けるけど飛んだ方が楽なので・・・
「はい?」
声をかけてきたメイドの目の前辺りに降りる。
「お食事の用意が出来ましたので、おこし願います」
実体化した弊害。お腹が空きます。どこに入っていくのやら零体だけに・・・
味もわかるので、それはそれで良いけど、これってどうよ!
「どこ向いて誰に話しかけているの?」
美香に突っ込まれて「ふっ」と笑われた。
私たちは、食事が用意されている席に着くと、メイドが飲み物をもって注ぎに来る。
ワイングラスの様なものに、これまたワインの様な色の甘い匂いのするそれはとても、おいしいグレープジュースみたいなものだった。
「やっぱり、異世界と言ったら冒険よね」
白身魚のムニュエルみたいなものをホークで口に運んでいると美香が突然なにか言い出した。アレだまた、突発的な事を・・・
「御馳走様でした」
私はと言っても今、中身は美香だけど相変わらず速さで終わらせて私の腕をつかむと引きずるように部屋を出る。
「ああー。まだサラダがぁ~」
私の声はむなしく、引きずられる。
「さあ。剣を出して」
はぁいぃぃぃ。
「ど、どんな?」
「そうね。オリハルコンあたりでいいわ」
またまた、無理難題をいくら具現化といっても知らないわよ。
「オリハルコンって何?」
ジト目で見られた。
「使えないわね。じゃあチタンで良いわ」
「チタン?」
あっすごく信じられないって感じの馬鹿にされた目してる。
「ちょ、私に何、期待してるのよ」
「しょうがないわね。鉄ぐらい知ってるでしょ。鉄剣でいいわ鉄剣」
鉄剣ってきっと騎士さん達が腰に下げているやつかな?
両手を開いて鉄剣、鉄剣、鉄剣、鉄剣、鉄剣・・・
「これなに?」
彼女の声に目をひらくと、ぐにゃぐにゃした剣のような取っ手だけ綺麗なものが、そこにあった。
「んー失敗?かな」
なんか、とんでも武器を期待してたらしいけど、何度か挑戦した後、諦めた顔で幼馴染の美香は「王女に頼むわ」と言って、部屋に私を置いて出て行った。
「おじいちゃんが大切にいつも見せてくれた日本刀なら出せるんだけどね」
大好きなおじいちゃんが自慢げに見せて、鞘から抜いて何度も見続けた、日本刀を思い浮かべると手に、それは現れた。
今出せる武器って此れくらいなんだけどな。まっ、いいか。私が消えろと願うと大気に溶け出すように日本刀は掻き消え、手元には何も残らなかった。
王女からもらった剣を美香は腰紐にさしてる。私は王女いわく弓以外あり得ないらしい。矢筒を背に回して弓を肩にかけた私は、巫女服の剣と私の姿を想像して内心(逆じゃね?)と思った事は内緒である。
「では、例の件よろしくお願い致します。
レオンも・・・いいですね」
「はっ」
レオンと言われた男は、歳は16。騎士見習いの中では有能らしい。紫の鎧に黒い両手剣。青い短髪にブルーの瞳が凛々しい感じだ。
王女は口数少なく、頭を下げると王宮の中に戻っていった。
用意されていた幌馬車の先頭にレオンは腰掛に座り、私達が荷台に乗り込むのを確認して手綱を引いた。ゆっくりと進みだした幌馬車の荷台はと言うと木製の車輪が4つ付いていて、その木箱の上に、小さな布製のビニールハウスが乗っかている感じと言えばわかるだろうか?
中は4畳半ほどの広さで縦長。
後方は旅の道具や食料等で埋まっているので空間としては2畳ほどだと思う。
「で、そろそろ目的地とかは、教えてもらえるのかな?」
私は、ガタゴトと揺れる荷台の中で目の前に座る美香に話しかけた。
まあ、外見自体は私なんだけど、もう最近なれた。
「わたしも余り詳しくはないんだけど。
話が出来る木がいて、それがトレントって種族ね。
彼らは木だけあって長生きなのよ。
人が知らない事や忘れてしまった事も知っている可能性があるって訳。
ここまではいい?」
私は頷いた。
「問題はローラさんが突然人が変わった事」
「ローラ?」
「第一王子のお母さんよ。
ミりスが言うには、彼女の弟。トリスね。
話を戻すわね。
ローラさんはとても温厚な人で、
下手すれば内戦を引き起こすような事をすると思えないかったらしい事。
トリス暗殺未遂では、明らかに首謀者だった事が判明してる。
それらを考えると、何かの呪いとかではないかと言う事になって
詳しそうな話ができる相手がいないか聞いた結果が今。
わかった?」
わかんない と言いたいけど
なぜってのを抜かせば、話の流れから
トレントって言う・・・人?魔族?魔物?精霊?
良くわからないけど、とりあえず、
そんなとこに言って知ってる?って聞くって事よね。
「まあ、なんとなく。それと彼は?」
私は出入り口の布で隠されて見えてはいないが、馬車の運転しているだろう人がいる方向を指さして聞いてみた。
「ミりスの騎士団の一人らしいわよ。口ぶりからかなり信頼してたわ」
どうやら、予定では丁度ララホウルの村。
ちょっと前まで診療村と呼ばれてたとこね。
そこに補給がてら寄って様子を見てから、トレントさんに会いにいく事になったらしい。
その後、ひたすら馬車に揺られ、日が落ちると馬車を止めて街道脇の木に寄せてキャンプの用意をする。馬車の近くで火をおこして食事を作る。
食事を終えると、馬車の中に入って
美香は毛布に包まってスヤスヤと寝息を立てた。
そんな彼女を見て、私は自分の姿を見ても、
すでに美香だと思ってしまうところに何とも言えない
複雑な思いを懐きつつも、もう一人の同行者が気になって馬車から降りた。
彼の方は、焚火の側で火にあたりながら、まだ起きていた。
「こんばんわ」
「ああ、女神殿か。なにか御用ですか?」
声をかけると、彼は顔をあげる。
焚火の光が光と影を作りすこし不気味にも見えた
「いえ。そちらは寝なくてもいいのですか」
「よ・・・、夜眠らずに済むアイテムを付けています」
と手をあげて見せてくる。指には赤いルビーの様なものが、はまった指輪が焚火の光に反射してゆらゆらと輝いていた。
「街道付近は、魔物が出難いので普通より安全と言えますが、
代わりに人が出ますので、やはり警戒は必要です」
「それは?」
「異世界の女神様に言うのは恥ずかしいのですが、
我が領地内と言えど、強盗や人攫いは少なくありません」
なぜか、彼は自分のせいだと言う様に、下を向いた。
しばらくの沈黙。
それを掻き消す様に、顔をあげた彼は少し戸惑うよに口を開いた。
「あの・・・め、女神様は・・・いえ。巫女様は高2だと聞きましたが」
「はい」
バチッと焚火が音をだして火の粉が跳ねる。
「高2というのは、何かの称号なのでしょうか?
その場では聞き直すのも、失礼かと思いまして、
流してしまったのですが」
「ん~。
称号?ある種の称号かな。
でも多分、年齢的な意味で言ったと思いますよ」
「そ、そうですか。
高というと、低とかもあるんですか?」
「小、中、高があります。
小は6年。中と高はそれぞれ3年です」
「では巫女様は、11歳と言う事ですか?」
「6歳からなので17になりますね」
「そ、そうですか」
何やら考え込む彼を後にして、そろそろ眠くなったので私も馬車に戻って毛布にに包った。まあ、後2日もすれば村の皆に会えると思うとちょっと楽しみな気にもなってくる。
マユさん元気かな?
そう思いながら、瞼が私の視界を塞いでいた。