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小さな妖精の国 4 ≪アルヴィの決意≫

私は、ここ数日毎日同じ夢を見る。同じと言うのは、ちょっと違うのかもしれない。

何故なら、きちんと前の日の続きから始まるのだ。


夢の中の私は現実と違って行動的だった。現実(ほんとう)の自分は、この薄暗い

小屋の中で、刻一刻近づく死の恐怖で何も出来ずにいた。


夢の中では恐怖に打ち勝ち、運命に逆らおうと弓を作り腕を磨く練習をしていた。

イノシシやウサギを狩り、やがて来る暗黒の森に棲む主と戦うために。


いつもの様に練習に獣を狩り小屋に戻ろうとした所で彼に出会った。

まだ小さい少年である彼は、全身に傷があり特に胸には大きな傷跡があった。


私はすぐに彼の傷を癒す魔法を使った。本当は魔法はまだ覚えてもいない。

でも、夢と分かっている私は使えるのが当然と思って手を翳した。


手が光り彼の傷はすぐに癒えていく、外見的な傷は無くなっても彼は目覚めず

眠っているかの様な状態が幾日か過ぎたころ。


パチリと彼の目が開き、辺りを見渡すと「ここは、俺は・・・」と頭を抱えて言った。

おそらく、かなりの頭痛がするのだろう。


その後も彼の看病は続く、一体この夢は何なのだろうと思いつつも彼との会話は

一人きりの寂しさが薄れる楽しい夢だった。


「ああ、あと3日か・・・」


目が覚めた。


いつもの様に、顔を洗おうと起き上がる為に手を着いた。その手に何か硬い感触が

伝わって来て、その正体を確認しようと目を右に移動させた先に弓があった。


「なにこれ?」


それは綺麗な銀細工の紋様が、まるで場違いな、今の私の側に置いてあった。

その横には矢筒もある。


「うそ?」


私が夢の中で作った玩具の様な弓とは比べようもなく、しっかりとした作り。

すぐに彼の顔が浮かぶ。そう夢の中の彼、ウィルの事を真っ先に思い浮かべた。

手に取ってみると、まるでオーダーメイドの様に手になじんだ。


弓の美しさにマジマジと見つめて決定的な細工を見つけてしまう

『アルヴィへ贈る・勝利(シグルーン)の弓』と、そこに書かれてあった。

そして、その文字の下に小さく『感謝を込めて・ウィル』と・・・。


「ウィル・・・あなた、勝利の弓だなんて」


私は暗黒の森に棲む主への貢物として人身御供として、この小屋で死を待つ

それが、私の運命だと諦めていた。


「もしかしたら、違うのかもしれない」あえて言葉にしてみた。


その日から、私はシグルーンを手にして、夢の中の私の様に弓の練習をした。

矢筒を背にして矢を構え、まずは木に打ってみる。


それを5回行い、木に刺さった矢を丁寧に抜き取ると矢筒に戻そうとして

不思議な事に矢筒には矢が5本入っていた。

そう最初見た時に5本だったから、練習も5回で矢を取りに行ったのだ。

しかし、まだ矢筒には矢が5本あるのだ。


「魔法の矢?それとも魔法の矢筒かな」


引き抜いた5本も矢筒に入れて、引き抜くときちんと中には9本残った。

矢を戻し、背負ってから1本引き抜いた後、矢筒を確認すると10本だった。

11本になった矢筒を背負って、今度は遠くへ射る練習を始める。


「やっぱり」


その後、確認しても11本あった。つまり、見ながら引き抜くと減り

見ずに引き抜くと減らない。


矢が無くなる心配が不要と分かって、私は練習にひたすら1日を費やし

夜はしっかり眠る。何度か同じ部屋にいる夢は見るものの、続きなのか

そうでないのか、ウィルにはその後一度も会う事は無かった。


元々、彼女のスバルト族は森の狩人と呼ばれるほどに男女問わず弓の扱いは

優れていると言われるほどだったので2日もすれば、彼女の腕はそれなりに

扱えるようにはなっていた。


もちろんシグルーンの性能に助けられている部分は大きい。

しかし、きちんと狙い通りの場所に飛ばせるのは持って生まれた

資質なのかもしれない。


それでも暗黒の森に棲む主を倒すか撃退させることは、殆ど不可能だと

思えたが、どうせ駄目でも足掻こうと決めた。


暗闇が彼女を隠す頃。


小屋の森とは逆の泉の水面が波打つ。ズルズルと何か重いものが移動する


音を出す何かを見つめる目が暗闇に2つ浮かぶ。その目は月の淡い光に

反射して金色に見えた。


闇夜に光るゴールド・アイが見つめるものは、爬虫類の様な姿の魔物だった。


そして三日月型の綺麗な線が現れる。その中央部分が光るのを止めて


三日月型の綺麗な線が後方へと伸びる。その模様が淡く金色に輝く。


シュゴッ ヒュン


大気を切り裂くような音をさせて、魔物の左目にそれは突き刺さった。


突然飛来した、黒い何かに片方の視界を奪われ痛みで口を開く。


「ゴォォォォォォ」


魔物の喉の奥から不気味な音が周辺に響く。


一見、魔物はワニの様に四つん這いに進んできたが、ここにきて


後ろ足で立ち上がると、前足より太い後ろ足に尻尾を垂らして


上下に振り出した。地面を何度もたたく。


するとそれに呼応するかのように地震があたりを揺らしだす。


先制する為に木の枝に登っていたアルヴィは、咄嗟に弓を腕に通して


枝の上から、落とされないように両手両足を使ってしがみ付いた。


振動に手が緩む。『まずい』。必死に腕をフックの様に回し堪える。


こんな事なら、茂みに隠れた方が、良かったかも知れないという


考えが脳裏に浮かんでくる。


彼女の心臓はドックン、ドックンと波打つごとに激しさを増す。


意を決して枝に足で逆様に、ぶら下りながら2射目の矢を取り


弓にかけて強く、渾身の力を振り絞るように限界まで引く。


心臓とは裏腹に、冷静に狙いを定めて放つ。


怒りに尻尾を振る体制で2本脚で立ち上がった魔物は


硬い甲羅に守られた背ではなく腹の部分を此方に向けていた。


白いその部分。おそらく人なら心臓があるだろう位置へ


矢は真っすぐ進み、突き刺さった。


「ぐおぉぉぉぉぉぉ」


魔物は、口を大きく開け尻尾を振ると、辺りの空気がどんよりとした湿り気を


帯びだしてやがて、渦の様に大気が回り始めた。


それは死舞踊(デスロール)と呼ばれる。この魔物の特殊能力でアリジゴクの様に


自分を中心に大気の渦を発生させて、獲物を引き寄せる。


完全な渦が出来る前に、アルヴィは回転して地面に着地すると近くの木の後ろに


隠れる様に足を木の根元にかけて、風に逆らわず渦の中心へ流れる様に3射目を


放つと、連続的に射ちつづける。


やがて、風が暴風へと変わるころ、少し距離を置き渦の範囲から逃れるように


後退していく。もしも弓でなかったら、すでに死舞踊(デスロール)に吸い寄せられていた

事だろう。常にギリギリの範囲で弓を射ちつづける。


「もうダメかも・・・」


いくら射ちつづけても魔物は怯む事もなく、じわじわと射る指の感覚も無くなってきた。

いきなり目の前の木がが何かにぶつかって圧し折れて渦の中心へと移動する。


そして、今度は、その木が渦を回り始め、進行方向の木をなぎ倒していく。


『バキッ』


また、なにかに木が・・・よく見るとそれは石だった。さらに石は一つではなく


幾つも回っていた。


渦の中は、折れた木や石、木の葉やいろんなものが回り始めていた。


『ドスッ』


目の前の木に、自分が射った矢が刺さっていた。


『まだだ』


頭の中に突然響く声。


私は彼の声を知っている。そう彼はウィル。私の夢の世界で出会った。


まるで青いガスバーナーの様な炎に包まれたウィルが私を庇うように


目の前でユラユラと燃えていた。


彼を中心に3メートルほどの半球に覆われた部分だけが渦の風を無風に変えた。


『俺は守る事しかできないから、応援を頼んだ』


そういって、横を向くウィル。


そこに光の粒が、1つ2つ3つと集まりやがて泡の様に合わさり混ざり輝く


その中心から白いものと赤いものが回るような模様であらわれて次第に


形を変えていくと、幼女が立っていた。巫女服の幼女は玉の様に物が


連なる首飾りを手にしていた。


「リザードマンって言うから、もっと人間ポイの想像してたけど

 まるでワニが二足歩行して頭を下に向かせた感じなのね」


そう言って私の方を見て


「ふーん。あんたがアルヴィって()?」


「いやいや、幼女(としした)()とか言われても」


「言うわね。まあ、いいわ」


『人の巫女、奴の口を閉じさせないと止まらないんだが』


「わかったわ」


〖手伝おうか?〗


(ああいいわ。これ以上若返りたくないし)


「見た目ワニだし、氷結氷柱」


巫女の呪文で一時的に凍結されて渦は消え去ったが、すぐに凍った


部分を難なく破壊した。


『毒とか麻痺は使えないのか』


ウィルの質問に、巫女服が答える。


「無駄よ。ワニっていう生き物は血中に特殊抗体があるから効かないわ」


そう、ここは魔法世界。ただでさえ人とは違いガン細胞を植え付けても

自己回復するワニが、その手の魔法スキルが無いとは思えない。


『そうなのか、やっかいだな』


「一応、試してみる。毒おねがい」


巫女服が魔術ではなく魔法を唱える時は、なぜか呪文にすら思えなかった。


それは実際にはヴェルディが魔法を唱えた『毒素≪ブーゼ・プルガ≫』


しばらく間、リザードマンの足止めにはなったが倒れる事もなく

此方へと向かってきた。


「アルヴィさん、あれのお腹のやや下あたりに一発お願い」


アルヴィは巫女服に言われて、シグルーンを構えて向かってくる

リザードマンへ矢を放った。


「水の子供等よ舞踊れ、分子振動(レンジでチン)


リザードマンの体から湯気が立ち込めて、矢が刺さっている部分からは

激しい放電現象が起きる。

やがてブスブスと音を立てて湯気が激しく噴き出した体は炎に包まれた。


流石に体内からの100度攻撃と矢じりから矢じりへと電流が流れる事に

耐えきれなくなり、体内の水分が蒸発乾燥した処へ引火した。


「うん。やっぱり、これはエグイわ」


崩れ落ちるリザードマンの燃えカスが地面に打つかって粉々に粉砕される。


暗黒妖精(ダークエルフ)でいいのかしら?」


小麦色より黒い肌をしたアルヴィに向かって巫女服が質問した。


「種族の事ならスバルト族です。あと有難うございました」


生贄が捕食側を倒すことなど、今までなかった事であった。


「お礼なら、そっち」


夢の中とは違い青く燃え上がる半透明の体になっている彼の姿を見て

なぜと疑問は沸くものの聞けずにペコリと頭を下げた。


「あ、ありがとう」


「いえ」


ウィルは、アルヴィに向き直った。


「お聞きしたい事があります」


「はい」


「この場合。あなたは村に帰れるのですか?」


まだくすぶっている黒い物体の方を見てから、また彼女に視線をもどして聞いた。


「・・・それは、出来ません」


「そう・・・ですか。なら、一緒に私の村に行きませんか」


「はい」


彼女が出来ないと言った訳は別の意味でなのだが、それはウィルには判らない

事であり、どのみち結果は同じ事なのだが、かつてこの地はスバルト族が

統治する暗黒帝国(スバルトヘイム)と呼ばれた地であった。


スバルト族は義を重んじる種族で運命と戦う為の武器をもらい、さらに窮地を

救われた身としては、同等の恩を返すまで村には帰れない。


アルヴィは、最初。巫女服の幼女に恩を返す気でいたが、彼女から返すべき

相手はウィルであると告げられ、誘われるまでもなくついて行く気だった。


「ところでウィル」


巫女服はウィルに話しかけた。


「ん?」


「レオン達の所は、ここから遠いのか?」


「ああ、6日位だな」


「そうか、それは遠いな・・・お願いするか」


巫女服は何やらブツブツと独り言をいい始めた。そしてブツブツ言いながらも

彼女の方を見て何かに気がついた様に話す。


「けがをしているのか」


言われてアルヴィは肩から血を流している自分に気がつくと、忘れていた

痛みを思い出したように、ズキズキとした痛みに顔をしかめた。


「そうか、お前たちの血は黒いのだな。

 肌色に隠れて気がつかなかった」


彼女の傷口に手を当て巫女服は「治癒≪チェロット・ヒール≫」を唱えた。


「黒い血、黒い肌、暗黒の地か・・・なるほど」


また、ブツブツ言い始める巫女服。彼女の血が黒い事に気づいたのは

彼女の肌が、やや黒と言うより浅黒い色に変化して来たからだった。

おそらく、気持などが落ち着いてきたからなのだろう。


美香は、そっと彼女の治療した時に着いた血に魔法で熱を加えてみる。

すると黒い血は白濁したものへと変わりキラキラとした粉になった。

それを見て、自分の考えが確信へと変わる。





 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆





女王ターニアが目覚めると、インキュバスがウィルの止めを刺そうと近づいていた。


「・・・我が敵を凍てつかせよ。氷結」


「し、しまった」


インキュバスは彼女の言葉に気がつき振り返った姿で氷ついた。

侵入者のウィルに気を取られ、胸の上から移動した事で悪夢から解放された彼女が

目を覚ませば、当然の結果である。


それは、なんの攻撃技を持たないウィルのたった1つの勝算であった。


わざわざ声をかけ、距離を取った理由。夢馬であれば背後に突然、現れる事も可能で

あったが、彼自身にはインキュバスを倒す術を持たなかった。


女王の意識を取り戻す。その為の囮になる事が、彼の戦いだった。


「聖なる輝きよ闇に住まいし魔を焼き払え」


そして氷塊に閉じ込め、身動きできないインキュバスに対して呪文を紡ぐ

彼女の言葉に、魔法陣が部屋の天井に大きく広がっていく。


聖光臨熱波(サンクチュアリ・アブロンザトゥーラ)


朝日の光の様な、清々しい光が部屋全体に広がり氷塊の中のインキュバスに

火が付くが氷塊は溶ける事無く、内部の魔のみを灰へと変えた。


そして女王はウィルに魔法をかける。


「完全治癒≪アンティビオティコ・ヒール≫」


しかし、彼の体に青い魔法陣が現れた呪いによって魔法は打ち消された。

呪いはウィルの心臓に食い込み、取り除く事は死を意味した。


幸いな事は、それ自体は眠りの呪いであり命を奪うものではなかった。

しかし、この状態が良くない事も理解していた。


彼の体からは零体が見えない。おそらく眠らされる前に零体がどこかへ

いった。それは彼ならば夢の世界であろう事も分っていた。


そしてその頃。私達は、巨人になったなった化け物と戦っていた。

レオンの剣が巨人に目がけて振り下ろされた瞬間に私達は現実に戻された。


「くらえぇぇぇぇ」と両手に何も持たないレオンの必死の形相が「あれ?」


という顔にかわる。客室でレナの目の前で両手を突き出しているレオン。


「あの。お帰りなさい」


レナがレオンに戸惑いながら声を掛けた。


「えっと・・・た、ただいま」


レオンは片手をあげ頭をかく素振りで恥ずかしそうに答えた。


しばらくして女王ターニアが現れて事態の結末を私やレオン達に話した。

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