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小さな妖精の国 3 ≪ウィルの冒険≫

ウィルにとっては、妖精として大冒険であった。


女王自身からの依頼ではあっても女王の夢に入るという禁忌を犯すのである。


しかし、これがディーナの様な古い世代であれば難しかっただろう。


神の時代も、黄昏の時代も、ましてや滅びの時代も経験していないウィルは


女王に対する忠誠心と言うよりは価値観が少し違っていた。


その価値観の違いが、目的の為の手段として選択させたと言える。


「ねえ、ウィル。女王の夢まではどの位?」


夢馬は今、草原のような所を風の様に滑っていた。


たしかに足は動いているが、上下運動は感じられず、スケートリンクの上を


滑るソリにでも乗っている気分だった。体が前に持っていかれる感じと言えば


いいのか、体重がない零体では、その表現も疑似的になるのだけど私はふわり


とした、その感覚が楽しくなってきていた。


「そうですね。そろそろ夢馬を止めて待ちますか」


「どういう事」


「夢の世界には距離は、ないんですよ」


そう言った傍から、辺りが変わり始めた。


突然の砂漠に女性が一人で歩いているのが見えた。


「あれは」


「女王ですね」


砂漠の中から、彼女より大きなサソリの様なものが現れた。


毒の尻尾を、彼女目掛けて突き刺してくるのを必死に彼女は


応戦し始めた。いつの間にか彼女の左手には盾を右手には


剣をもって、鎧らしき物も見えた。


「さすがですね」


何がと聞こうとして、私は横を向くと、そこにはジャングルの


様な熱帯雨林があった。


女王の方を見ると、サソリだったものがライオンのようなものに


変わっていた。そして女王と一緒にウィルとレオンが戦っていた。


「沙依里、あたい達もいくよ」


後ろから声を掛けられ、私は夢馬に「あそこに行って」とお願いした。


夢馬は「ヒヒヒン」と嘶くと、瞬時に女王の側に来た。


既に、景色は荒れ果てた荒野に変わり敵は巨大な鬼のような物になっていた。


「いくよ」


マユ姉が私の肩をポンと叩き駆け出して行った。


そのまま私は夢馬に跨ったまま、弓を取る仕草をしていた。


持っていなかった筈の弓の感触を感じて、そのまま掴むと前へ向ける


背にはいつの間にか矢筒があり矢を引き抜くと「燃える矢」と念じて


弓を引くと矢の先に炎が揺らめき始める。


巨大な鬼の様な影に向かって、引き絞った手を放つ。


影はミノタウロスに姿を変えた。


突き刺さる矢の炎が、ミノタウロスの体を焼く。


「任せてもよろしいでしょうか?」


突然、ウィルが横に現れた。


「えっ」


「さっきの矢、逆のは打てませんか?」


「出来ると思う」


炎の逆って事は、氷って事だよね。


と、考えていると私は夢馬から降りていた。


代わりに、夢馬にはウィルが乗っていて


「俺は、あれの本体に向かいます」


そういって彼は、私の鎖骨と鎖骨の間を指で触ってくる。


えっえええ、ちょっと・・・


びっくりして、彼を見上げた時には彼は消えていた。


困惑のまま、振り返ると、今度は一つ目の巨人と皆は戦っていた。


レオンが振るう剣は、なぜか、いつもより大きく見える。


攻撃を受ける瞬間のマユ姉の盾も、大きくなって見える。


私は、「絶対零度」と念じて弓を引くと、彼が最後に教えてくれた


巨人の鎖骨と鎖骨の間を狙って、矢を放った。


矢が当たった場所から、巨人を徐々に凍らせていく。





 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆





ウィルは女王の寝室に現れた。


女王の胸の上に胡坐をかくインキュバスを確認して声を掛けた。


「目的は、なんですか」


驚いた様に、インキュバスは女王の体を弄る手を止めて声がした方向に


視線を移す。そこには小さな体長50センチもない小人が馬の様なものに


跨り、こちらを見ていた。


森妖精(グレフリー)如きが・・・」


その指先から、闇の力が噴き出して彼の胸を貫いた。


まるで意思のない人形の様に、夢馬から崩れ落ちて床に静かに倒れた。


インキュバスが彼に呪いをかけたのだ。


そしてウィルは悪夢の夢幻回廊へと落ち込んでいく・・・。


彼の目の前に、美しいエルフがまっていた。


「大丈夫?」


目を覚ましたウィルに、彼女は優しく微笑んだ。


「ここは?俺は、なにを・・・」


彼女はウィルの顔に手を当てながら話し出す。


「闇の森に倒れていたのを私が運んだの」


彼女の手から何か光の泡の様な輝きが、ウィルに安らぎを与えた。


「何があったかまでは知らないけど、森の泉の側の木の根の所に

 横たわる様に倒れてた時は、全身ボロボロだったのよ」


彼女は手を戻すと、立ち上がり部屋の隅に行き何かを持って戻った。


「食べれたら、食べた方がいいわ」


枕元に置いたものは、お粥のような雑炊だった。まだ作って間もないのか


横を向くと白い湯気が雑炊から立ち上っていた。


「なるほど」


ウィルは上半身を起こして(スバルト)のエルフを見つめた。


「俺は、東の丘のウィル。おまえは?」


「わたし?南の闇の森のアルヴィよ」


彼女はそう答えて、また自分の作業に取り掛かった。


壁にある弓、そして矢じりを巻き付けている事から狩人なのだろうと


ウィルはぼんやりと考え、女王の事を思い出した。


夢馬もなく、ここが南の闇の森だと言うなら、急いでも6日はかかる


しかも体調も万全ではない。予定通りの日数ではとても付けそうもないな。


「アルヴィは一人なのか?」


「え、ええ。そうよ・・・」


なぜか彼女の顔がより暗く感じた。


「ここから、東南に半日あるけばレレナの村があるわ」


それだけ言うと、彼女は口を噤んで下を向いた。


矢じりを縛る事を止めて、矢筒に出来たものをしまう。


「連れて行ってくれないか」


「近くまでなら道案内くらいするわ」


そう答えて矢筒を背負い弓を手に彼女は部屋の外へと出て行った。


彼女の感情のない返事にウィルは詳細はわからずも何か理由があると


理解して、それ以後村に行く事も言葉にすることもなかった。


そして、ほぼ丸二日目ウィルはやっと立ち上がれるほどに回復していた


『良かったは、間に合って・・・』


彼女がそう小声でつぶやくのをウィルは聞き逃さず、しかし何も


聞かなかったような素振りで思案していた。


「あと3日程度ここに居てもいいか」


ウィルは、そのつもりもなく確認の為にそう聞いた。


彼女はしばらく、かるく握った拳を顎に当てて考えた後で


こちらを向いて答えた。


「その位なら、でも3日目の夜までには旅だった方がいいわ」


「了解した」


そう言うとウィルは、その日の夜、彼女が寝静まるのを待って


壁に掛けてある弓を取ると、昼間用意していた木材を並べて


眺めていた。改めて見てみると、手製のしかも弓とは名ばかりの


反り返しもなくただ、それっぽく紐で両端をつなげた様なものだった。


これと同じサイズというと横長弓であるが、まともに引くには力がいる


彼女の腕力で引けないものでは意味が無いので、コンポジット・ボウにした。


まずは、三枚の板を張り合わせて紐で縛り、紐に三角木材を打ち込んで行く


左右からやや片方に湾曲させる様にして三角木材を複数打つ混んでいく。


三角木材が紐に食い込む事で孤の字に少しずつ曲がって三枚の板は合わさり


固まって行く、固まった板を曲がっ方向とは逆に反らして紐を付ける。


形が出来た処で、手になじむ様に細工をしていく。


銀の水をたらしてメッキを施して装飾を施すと、次に矢を一本引き抜き眺める。


やはり、少し手直しが必要だった。曲がりを治してから


セルシュラの木の葉を取り出すと、全ての矢を葉に差していく。


『幸運の女神よ。セルシュラの木の葉を射抜いたものに祝福を』


これは村に伝わる(まじな)いで、狩人が使うには気休め程度のものだが


初心者にとっては、ビギナーズ・ラック呼ぶものだった。


それから五本の矢を作り矢筒へ入れて、彼女の傍まで来た。


「世話になった」


そして寝ている彼女の脇に銀細工を施した弓と五本の矢が入った矢筒を置く。


まだ暗い森の中へと、ウィルはその家を出た。


星空を見つめて「はっ」と羽を広げたイメージで飛び上がった。


彼の姿は、高く高く舞い上がり、雲を貫く。その先へとさらに昇り続け


やがて明るい大地に立つウィルが、そこにいた。


暗闇の中に居た彼は突然の明かりに目が馴染めず、しばらくその場に


止まって慣れるのを待った。


辺りは瓦礫の山となった廃墟があった。


既に風化した廃墟は、まるで忘れ去られた過去のように続いていた。


ウィルは、別に方向を定めず気の向くまま歩を進めた。


「小さき者よ。何故(なにゆえ)この地に踏み入れた」


見上げると、噴水の白い石造が話しかけてきた。


「ん・・・。

 質問に質問を返すのはどうかとは思うのですが

 なにせ、あなたとは初対面なので、あなたは?」


白い石造の女神は石にも関わらず口が動いた。


「ならば、そちらから名乗るのが礼節というものでしょう」


「これは失礼した。噴水の女神よ、東の丘のウィルと申します。」


「ウィルか。なるほど分かりました。私は、噴水の女神像(ゲフィオン・ケニング)


「先ほどの質問ですが・・・」


「必要ない。そなたがウィルならば、ここへ来るのは分かっていた事。

 そなたは、ここより西へ向かうと良い」


「失礼ながら、ここには太陽もなく明るいので西とは?」


「私が向いている方に行きなさい」


石造の見る方角を確認して、指さして「あちらですか?」と見た。


ウィルは言われた方へ、噴水の階段を降りて向かった。


何か柱のようなものがあり、奥に薔薇の花が見えた。


そして彼は門の中に入っていった。あまりにも彼のサイズからは分からなかった


2本の柱程度に思っていた、それは彼が行き過ぎると、まるで、この日の為に


耐えて来たかのように、門が音を立てて崩れ去った。


先ほどまで見えていた彼の姿は崩れた門の向こうに、その姿を


見つける事は出来なかった。そう・・・薔薇の花さえも。


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