小さな妖精の国 1 ≪旅立ち≫
私達、レオン、マユ姉、レナ、ルーク、パシェロ、ガナシュの7人は
王女ナール達を救い出し、如何にかエルフとドワーフとの協定を取り付けて
戦いを終わらせた。主犯のヴォルガの助命をエルバが願った事で幽閉となり、
その監視はドワーフと協議した結果王女ナール側で行う事でおさまった。
これにより王女ナールの村は国と認められ王女から女王ナールとなった。
また、エルフとドワーフは直接交易はしないものの。ナール王国を介する事で、
お互いの物資が行き交う事となり、その利益もまた王国を潤す事となる。
エルフからの木材とドワーフからの石材から独自の城壁を持つ国となって行く。
もっとも三国が最初に共同して作成したものがヴォルガの封印の塔だった事は
言うまでもない。それはヴォルガただ一人の専用牢獄でありドワーフの堅牢な
作りの塔にエルフが封印を幾重にも施して、ナール王国が管理する。
この塔は「和解の塔」と呼ばれ王国の西に聳え立っている。
ナール達に分かれを告げてから5日が過ぎた馬車の中に私は居た。
殆ど人が通らない道というより馬車が走れるような平らな場所を選んで
進んでいるだけではあるが、そんな場所だからか魔物は多い。
「レオンさん」
「ああ」
声をかけて来たパシェロに左手を上げて静止を促すと左手の指を二本
立てた後、掻き分ける様な仕草で左手を左右に振る。
パシェロを先頭に、マユ姉とガナシュが左手のの指す方向へと移動し始めた。
レナとルークはレオンの後ろ、さらに後ろに私。
「いくぞ」
レオンはおそらく、ここにいる人というより姿を消した三人に向けて
声をかける様にしてから魔物へと走り寄った。
「うおぉぉあぁぁぁ」
レオンが走りながら奇声を上げて魔物の注意を引き付ける。
私は弓を弾き絞り念じる「硬質貫通」矢先がいぶし銀色に変わる。
パシェロの放った槍を抜き去り、私が放った矢が魔物の肩に当たり
魔物が咆哮をあげ自分の肩に視線を移す瞬間。
横を向いた魔物の首へ槍が突き刺さる。
その時には、すでにレオンが正面に立ち、両手剣を魔物の腹に向けて
渾身の一撃を振り出していた。
その一撃を受け流そうと左に移動しようとした魔物にいつの間にか
現れたマユ姉の盾が動きを阻害する。
魔物がマユ姉を見る目が、訝しげに変わる。
遮られた事で、魔物の腹にレオンが食い込む痛みに、再びレオンの方へ
手を上げると背中にドスンと衝撃をうけて仰け反る魔物。
魔物の背にガナシュの斧が、深々と突き刺さり苦悶を表情しながら横たわる。
「これでもう14匹目ですね」
出番のなかったレナが魔物を見ながら言う。
「此れでは中々先に進めませんよ」
両手を広げてルークが、ぼやくとガナシュが同意して首を縦に振る。
魔物は今のところ、性質的に2種類いてある程度こちらに気がついても
こちらが無視すれば、相手も無視するものと襲ってくるものだ。
このクマに似た魔物は無視しても襲ってくるので発見次第対処する事になった。
まあ、最初は食料になるとかいろいろ役には立つので、倒すと焼肉だとか
喜んだりもしたが、毎日平均3匹も相手にしてると食料的意味は薄れる。
とは言え、この先食料となるものが何もない場合も考えて干し肉にする。
その作業も必要になり、さらに先へ行くのが遅れると言った具合だ。
「とは言え、迂回路があるわけもなしなんだがね」
マユ姉が腕組をしながら道の先を見つめる。
正確には馬車を置いて行けば無くはないのだが、それでも襲われる可能性が
無くなるわけではないので、それなら馬車はあった方が楽である。
まあ、最近馬車は干し肉に占領されつつあるけどね。
しばらくして、そんな事も杞憂に終わり、私達は森を抜けて草原に
出て久方ぶりの緊張が抜けていた。
そこから1日半。前方に村らしきものが見え始めてくる。
初め遠くに人影がを見たと思っていたが、それはさほど遠くでもなく
彼らが予想以上に小型の種族である事に、気がつくのにさほど時間は
必要ではなかった。
馬車が近づくにつれて、全身が腰ほどもない小人なのが分かった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
小人族の青年は走って村長の家にたどり着いた。
「た、たいへんだー」
「何を、そんなに慌てているのだ」
〖相変わらずだのぉ〗と言わんばかりの態度で青年を見た。
「きょ、巨人が村に向かってくる」
「巨人だと?」
ふと青年を見て村長は、この青年がこの地に来てから生まれた事を
思い出して、この者が本当の巨人を見た事がないのに気がついた。
「その巨人はヤブヤの木より背が高いか?」
「え?、いくらなんでもヤブヤの木と比べたら小さいですよ」
その答えに、満足したかの態度で言った。
「うんむ。ヤブヤの木より低いなら目は1つか?」
「目ですか?たぶん・・・2つ、少なくとも1つじゃないです」
「それなら巨人ではない」
「でも、明らかに巨人でしたよ」
「我らにも背の大きいものは居よう」
「そ、そんなレベルでは2倍。いや3倍近くかと・・・」
「ん、その程度なのか?」
「え!、えぇぇぇ」
村長の言い分に青年は驚きの声を上げる。
「ならば、エルフかのぉ。どれ、何用か尋ねてみるかのぉ~」
と立ち上がった村長は、家の外へと杖を片手に歩き出した。
二人して庭に出て行くと、村外に立つ巨人達が見えた。
ここからでも見える程の背丈なら家よりも高い事は確実だった。
「ほお~。珍しいの、人種のようじゃ」
村長は町はずれに佇む者たちが、予想と反してエルフではない事を
その服装と一人の獣人から判断して複数の種族の集まりであると
理解したうえでの人種という言葉だった。
「ヒト?」
「そうだな。ウィルよ。主はまだ人種を見たことなかったな」
「見た事より前にヒトと言う者がいる事もしりませんでした」
町はずれに向かって歩きながら二人は会話を続けた。
「人とは、運命の女神の住む大地に連なる囲まれた大地におる」
「はあ?」
「囲いは2重になっており、そこには虹の橋がある」
「はあ?」
「その虹の橋は天界と繋がっているそうじゃ」
「ほお?」
「虹の橋の袂は巨人がおり、その近くに知恵の泉があって」
「へえ?」
「知恵の泉の水が飲みたくて、近くの大木の枝を折り、ヘラを作って
柄杓がわりに飲んだところ、枝を折られた大木が、折られた場所から
くさりって枯れてしまったそうじゃ」
「あの、すいません。人はその話のいつ出てくるのでしょう?」
「せっかちじゃのう、今からじゃ
大木が枯れて倒れれば、巨人の国が押しつぶされてしまう。
困った巨人は支えようとしたが、無理だった。
そこに運命の女神が現れ大木に水と英気を与え続けた。
折られた場所から若芽が芽吹き、枯れかけた木に葉が
茂った事で、救われた事を知った巨人は、その女神に
巨人の仲間である称号を与え、女神の土地の庇護を約束した」
「出てきませんけど」
「その女神の土地に住む者が人種じゃよ」
「なるほど、それは何処なんですか?」
「ここじゃよ。
運命の女神に見守られた『死すべき定の者』の国とは
ここに生きて死ぬ者、全てを指す言葉じゃて・・・」
「ならば、私達も人種なのですか?」
「そうじゃ。我らも時と共に死を迎える事に変わりはない」
「だとしても、あれと同族とはおもえないのですが・・・」
「主はまだ若い。まだまだ先の事よ、ふおぅふおふお」
そう言って笑う年老いた村長がどういう意味でまだ先と言ったのか
考えながら、ウィルは『これがね』と内心思いながらも巨人と対峙していた。
村長は老いたとは言え、かつて妖精騎馬騎士として黒き甲冑を身に夢馬の背に
またぎて神代の時代、その身を戦いに置いた妖精の勇者であった。
何処からともなく現れる夢馬に跨る騎馬騎士軍団は、その姿こそ小さいが
戦果としては、大きくこの世の果てまで駆け巡った。
「さて、『我らより大きくトロールより小さき者』よ、何用で参られた」
村長は一瞥し、黒き大剣を背に持つ男に歩み寄った。
その男は胸に右手の拳を当て頭を下げて話し出す。
「我らは人の国に帰る途中です」
「ほお、旅の途中とな」
「はい。出来ればこの地を横切る事を許して頂きたい」
「うむ。ならば女王ターニアに許しを請うが良かろうて」
「その方は、どちらに居られるのですか?」
「ここより、2日西に進んだ場所におるが、あてもなく行かれても
会う事もままならんじゃろうて、このウィルを連れて行くがよい」
「え~」
ウィルが声をあげた。
「何事も経験じゃよ。ターニア様に此れを見せてディーナからだと言え」
そう言ってウィルの手に一枚のコインを乗せた。
「これは」
「ただの印だ。かつての約束のな」
そして再び、『我らより大きくトロールより小さき者』に向かって
「この者は勝手に帰らせる。許可をもらったら戻る必要はない」
と言うと、その者達はお礼だと言って大量の干し肉をくれたので
村の者、総出で肉を切り分けて全員で分ける事になった。
「ウィル悪いな。頂くよ」
「別に俺のもんじゃないし」
「あれ?村長が道案内の報酬でウィルがもらったものだと聞いたぞ」
村の者達は皆一応にウィルに礼を言いながら去っていく。
「報酬も気前よく前払いでもらったんならシッカリな」
「おお、いってくら」
村を出るのを村長は見送って「運命じゃな」と呟く。
「村長、何か?」
「いやなに、今日は分けきれなんだ肉をさかなに一杯行きましょうぜ」
「そうじゃのお。それも良かろうて・・・」
村長は村の者に、ひかれながら村の中央へと足を運び用意された
丸太に座ると、酒樽を担いでくる者達に目をやった。
酒の入ったコップが村の者達に渡されて行く。全員に渡ると一斉に
村長の方に顔を向け、村長は「ウィルに」とコップを空に掲げた。
「「「ウィルに」」」
全員の言葉が重なる。陽気な宴会が始まる。




