光のエルフと闇のエルフ 6 ≪戦いの後に≫
「それにしてもオークってもっと豚ぽいのかと思ってた」
そんな何気ない言葉に美香がガナシュの肩から顔を後ろに向けてくる。
「ああ、それは別物よ、海にいる方。まあ発音が似てるから混同されやすいけどね」
「そうなの?」
それに私が反応して言うと説明を続けた。
「人型で鼻がつぶれて豚みたいな顔して口から牙を生やしてるんだけど
全身ウロコでおおわれている海の魔物よ。
そうねイメージだと半魚人が豚ポイ顔してる奴的な感じ。
そっちはオルカっていうんだけど、
でも文字にするとオーアールシーとオーアールシーエーで1字違い。
それでオーアールシーエーのオルカの姿をオークとして広めちゃっただけ
陸のオークとは縁もゆかりもないんだけどね
本来のオークは黒緑の肌のはげちょぴんの事で牙も鼻もつぶれてないわ」
と締めくくった美香に
「へぇー、それ聞くとオークってゴブリンみたいね」
と私の感想を述べた。
「あっ!」
美香が納得した様な顔になる。
「大きい方がオークで、
小さいのがゴブリンだとすると、敵はホブゴブリンて事ね」
そんな会話にパシェロが食いつく様に
「あいつってのは、あのいけすかねぇ奴の事ですよね」
「急がなくていいんですかい」
それにルークが呟く。
「この状況なら、焦るほどあいつも悠長にしてないと思うけどね」
ルークの心配はもっともなんだけどって感じに、天井のクリスタルを指さして
マユ姉は続けた。
「これで対策なしに、そっちのけで何かしてる様な馬鹿なら楽だね」
「ホブゴブリンですか、ズル賢しこい卑怯者に言いえて納得です」
前を向きながらも、全方向に気を集中させているのだろうレナでさえ
あのドワーフに敵意を露わにして言った。
やがて、ドワーフの町の中へと進む。
いままで外敵が侵入する事もなかったのだろう。
城壁すらなく、忽然と増える、高層ビルといった感じに四角い棒の様に
聳え立つ街並み、その窓にはガラスなどもなく、ただ刳り貫いたような
窓からドワーフ達の顔が見て取れた。
斧を持ったドワーフが二人、こちらに向かってくる。
まさに、と言う感じのその風貌は、髭がや髪はもちろん腕にも
足にも体毛を生やして小太りな小柄な土色の肌をしたドワーフだった。
「治療≪ヒーリング・マラッティーア≫」
「彼の者に癒しを与えよ、サラスヴァティー」
レナが左のドワーフへ、美香が右のドワーフへ魔法を唱えた。
なんかもう笑える。
攻撃呪文じゃないのに、2名はひろっちいチビエルフになった。
自分で持ってた斧の重さで倒れ込んで下敷きになってバタバタしてる。
突然、前方の地面が捲れる様に開くとワラワラという感じで
ホブゴブリン、まあ、うちらで勝手に決めた名前だけど。
がダークエルフを従えて現れた。
「弱体魔法とは、恐れ入ったね」
ニヤニヤとホブゴブリンは笑いながら、ダークエルフ達に合図を送る。
しかし我々の目は彼の左側に集まっていた。
「「エルバ!」」
「一緒に来た5人も居ますね」
レオン達の声に、一人冷静に美香にレナが告げる。
太陽の光に照らされた、その姿はやや黒さが薄い者がいるのがそうなのだろう。
「魅了でしょうか?」
「ある意味。そうかもしれませんね」
美香が吐き捨てる様に小声で言ってから、ホブゴブリンに向かって
「私達の仲間を返してもらいたいのですけど」
「獣人共の事かね。それとも・・・」
「当然、両方ですよ」
レナがホブゴブリンの言葉を遮る様に叫ぶ。
「まあ、獣人共はお返しても良いんですけどね。
扱いが難しく子も、どうやら産めないようなのでね」
レナの目が怒りに燃える。今にも駆け出しそうな時、エルバが続けた。
「ヴォルガ様の子を産む大切な役割を放棄する愚か者なら
既に壺に落としてしまいましたが?」
ヴォルガは、不思議そうな顔で聞くエルバに頷く。
「ああ。そうだったな。忘れてたよ」
エルバの頭に手を伸ばして撫でる。
「お前たち」
「「「はっ!」」」
前衛に並んだ者達が、槍を構えて向かってくる。
すかさず、レナが呪文を唱えた。
「治療≪ヒーリング・マラッティーア≫」
しかし、何も変わらない。いや少しだけ肌の色が薄くなった程度だった。
レオン、マユ姉、ルーク、パシェロ、ガナシュが、それぞれ受け止める
「効かない」
レナが美香を見る。
「無理よ、おそらく洗脳は病気ではないもの」
「どうすれば」
その時、私の視界にヴォルガの後方に控えたダークエルフが
弓を引き絞っているのが見える。
(ま、まずい)
私はその場にいる全員に聞こえる様に「弓、来る」と声を上げた。
槍を使っていたエルフ達が、少し後方へ移動する。
降る矢を剣や盾で、それぞれ払うが何本かは掠ったり当たったりしている。
「治癒≪チェロット・ヒール≫、消毒≪ディジンフェツィオーネ≫」
レナが仲間に治癒魔法を施していく。矢じりに毒が塗られているかは
分からないが、用心の為に解毒も唱えているようだ。
「女性の後ろに隠れてないで手合せ願いたいものだな」
レオンはヴォルガに向かって挑発した。
「それも良いかもしれませんが、こんなのはどうですか?」
槍のエルフがヴォルガの指示で下がると地面から影が現れた。
その姿は、レナと同じ種族の獣人の様に見えた。
「カンナ!」
レナが叫ぶ。
「レオンさんでしたか、その子は実験に使ったんですが
抵抗するので、おとなしくさせるのに苦労しましたよ。
どうやら、この種では産ませられないと分った後も、
暇つぶしのお遊び用として取っておいたんですよ。
どうです、その子に勝ったら、考えて上げてもいいですよ」
「グルぅぅぅ」
口から泡と唾液を垂らして、首輪、手輪、足輪から鎖が伸びて
四つん這いになっているカンナの鎖の戒めが消えると、レオンに向けて
高速で移動してくる。右を振るい手輪に続いた鎖が鞭の様に襲う。
レオンは、その鎖を剣で払わずに避けて見せた。
「麻痺≪アネステジーア≫」
レナの呪文でカンナの動きが鈍る。
私は地面に手を置き、「牢獄変化」と念じる。
カンナを包む様に地面から棒が突き出て、彼女を囲む。
丁度、三角すいの様に閉じ込め、棒は鉄の棒へと変化する。
「おやおや、不思議な事が出来るのですね」
ヴォルガは私を見て、驚いた顔をして見せた。
「あれは明らかに自我がないわ」
美香がレナに言いながら、「眠らせて」と指示する。
「睡眠≪ソンノ・フォッグ≫」
カンナはレナの呪文でパタリと檻の中で倒れた。
その間、美香はトレントの白幣を翳して唱える。
「我が身を真の姿に」
水玉が彼女の周りに舞い始める。
ゴス服が砕け散り、再び集まる。体が伸びて幼女から少女へ変わる。
そして高校生までくると、ブレザーではなく巫女服姿の美香が現れた。
なんか、久しぶりな気がする。
美香が舞う。鈴もないのに白幣を振る度に「ちりん」と鈴の音が響く
「な、なに?」
ヴォルガが、阻止しようと手の平を美香に向ける
「フレッシュ・ヴィス」
その手から細長い黒いものが飛び出して美香に飛来する。
「はっ」
縦に振った白幣「チリーン」と、ひと際高い音色が響くと
細長く黒いものが目に見えない何かにぶつかって消え失せる。
さらに、見えない何かは音もなく周囲に広がっていくのが
感覚として理解できた。
まず槍を持つダークエルフを飲み込み、弓を持つダークエルフも飲み込み
ヴォルガの側にいたエルバと数名のダークエルフ達も含めて飲み込んだ。
やがて、それは暗黒都市全土を飲み込んで行く。
「体内悪素浄化結界」
巫女服が輝きを増して棚引くように美香が浮く。
まるで、メッキが剥がれる様に、周囲のダークエルフの肌の黒さが
砕け散り、白い肌を取り戻していく、髪は眩しいくらいの金色を
クリスタルを通して届く日の光に照らされて煌いていた。
1分?2分?それとも一瞬だったのか
巫女服が輝きを失って美香の体が地に落ちる。
「美香」
私は幼馴染に駆け寄ると抱き起して美香を見る。
「ごめん・・・沙依里、限界みたい」
そう聞こえた彼女の首元にあった精麻ペンダントが光となり霧散した。
その1つ1つの小さな光の粒が消えた時、また美香の体も光となって
私の周りを、包み込むようにして『帰って待ってるよ』と言葉でない
言葉で告げて消えた。
後には、巫女服だけが残っていた。
「巫女殿は・・・」
「巫女っち」
「巫女様」
「巫女さん」
それぞれの心配した声に、私は答える。
「大丈夫、帰っただけだから無事だよ」
そして巫女服を大切に持ち上げるとトレントの白幣が
コロンと地に落ちた。
それを拾って、大切に巫女服と一緒に抱きしめる様にして
「ヴォルガ様、ヴォルガ様・・・」
エルバは、もうダークエルフではなくなっていた。
それでも倒れているヴォルガを守ろうと私達に、あのレイピアを抜き向けてきた。
「ねえ。エルバ。
あのオークの事、覚えているの?
あなたが『エルバ』という名前だと分った時
本当に命がけで助けてくれたオークね。
そうね。あなたの言葉を借りるなら、私達が呪いを解いたら
本当はエルフの男性だったよ。
私達を騙したのも、そのヴォルガなのはもう解るよね
あなたを命がけで救ったあの人が誰か今なら私でも分かる。
だってあなたの今の顔、その人の面影があるもの
それでも守りたいって言うなら、きっとあなたの呪いは
美香の最後の力でも解けなかったのね」
エルバの目の前で、ヴォルガは拘束されてガナシュに担がれた。
「優しかったの・・・彼だけは」
しゃがみ込んだ、その目からは涙が溢れていた。
全て計画的な演技だった筈の優しさは、一人誰も頼る者もいない
彼女の支えであり、本物だったのかもしれない。
そう思う私は、彼女にそれ以上何も言えずに立ち上がった。
「沙依里って言うんだね」
マユ姉は私に、たぶん意味もなく
「そうみたい」
その後、意識を取り戻したカンナさんに案内してもらって王女ナールの居場所が
わかり、壺という場所がどんな所かと言うと、こっちの世界のケシの花が壁一面
に自生する場所と言えばいいのかな。
深緑の茎といった感じのものにいっぱい、だらりと球体が垂れさがっていて
その緑の球体先からピンク色の粘りけのある液体が滴る気持ち悪いもの。
この匂いを女性が嗅いでいると魔法の「魅了≪リーベストランク≫」みたいな状態に
なって幻覚や判断力を失い、最後は自我意識も無くす。
そこまで行くと、このピンク色液体を欲しがる様になり一定間隔で禁断症状を起こす
言わばあぶない薬みたいなものらしい。
元々ドワーフにも女性はいたのだが、鉱山病の悪化からか数百年前から生まれなくなり
たまたま、迷い込んだエルフと子供が出来た為に繁殖期になるとエルフの女性を狩る様になったが、エルフ達はドワーフと同じ食べ物を食べると肌は変色して自我を失う者や
残忍になったりと異常になるので、繁殖期を終えたら都市の外に出したそうだ。
そして、多くは都市の外で命を落としたが生き延びるものが現れた。
しかも、2パターンありオークの様になる者とダークエルフになる者に分かれた。
例外もあるものの、基本的には男性がオークに、女性がダークエルフになる。
そこでダークエルフになった者を繁殖期で利用する為に、ケシの花の実みたいなものを
品種改良して壺の中のこれが出来たと言う事だった。
まあダークエルフ用に改良された為か、他の種族には効果はあまりないので
王女ナール達は、そんな場所に入れられても平静を保ち、脱出を計画していたところに
私達が到着して、天井がクリスタルに突然、変わり太陽光に照らされた時に王女ナール
が、巫女や女神様が来てくれたと確信して計画を延期して待つことにしたそうだ。
来た時と違い美香がいないが、私達はミりスが待つ、ミりス宮殿に向かって出発した。
「では王女、これで失礼仕る」
レオンを先頭にルーク、パシェロ、ガナシュ、マユ姉、レナが続き私も馬車に乗る
ルークが綱を持ち馬を走らせた。
「何人かエルフは暗黒都市に残るそうだ。
まあ、今となっては暗黒都市って名前も変だがな」
後日談
暗黒都市は地下都市と呼ばれる様になり、そこに残るエルフを含め
森に戻ったエルフ達も、暗黒都市だった頃の記憶が薄れ完全に思い出せなくなった。
森のエルフ達は、地下都市の存在を忘れ、都市に残った方も森の事を忘れた。
互いが、互いの存在を忘れて行った。
ただ、獣人だけが、互いの存在を知り貿易を行っている。
王女ナール曰く、「これは巫女様の心遣いですね」と言って
互いの存在を知りつつ、互いには、その存在を明かす事はなかったという。
また、巫女の言葉から鉄の血を持つ者をアイラーンズ。
銅の血を持つ者をカッパーズと呼ぶ様になった。
光のエルフと闇のエルフは、これで終わりです。




