王宮の珍事
そして今、ミりス王女は父王の横に立つローラ第2夫人と対峙していた。
「さがりなさい。
審議中ですよ。たとえ王女と言えど、場をわきまえよ」
ローラの声が、室内に、こだまする。
現在、王女の前には罪人として捕まったセリックの横に
シャラル王妃が立っていた。
セリックは王暗殺実行犯として、王妃は首謀者としてである。
ボートワル伯爵家令嬢レイチェルことセリックの婚約者は、
王族パーティ会場にて、王がじっと見ていたことから
彼女を見初めたのだと思ったローラ第2夫人が
伯爵に御令嬢を薔薇宮へと、お誘いした。
後日、色よい返事をもらい受け入れの準備をしていた。
しかし、期日になっても現れず兵が確認に向かった処
セリックへの手紙を残し、レイチェルは自害。
この事が公になる事を恐れた王妃は、自害した彼女を手の者に
何処かに運ばせ、事故として処理しようとした事。
そしてセリックが今日。王の命を狙って王宮に侵入して
あわやと言う処で、騎士団に取り押さえられた事。
この一連の流れから、王妃の関与は疑いない事実と主張する
ローラ第2夫人とその一派の尋問中だった。
「その御言葉、そのままお返し致しましょう」
王宮内部に聖騎士達が駆け込んでくる。
「私が、この衣装を纏った場合の意味を知りませんか?」
神子直轄の聖騎士が、元老院や、その場のすべの前に立つ
「何を・・・無礼な!離しなさい」
ローラの目が怪しく光るが、次第にその光は消える。
「・・・?」
「逃がしはせんよ」
王女の後方から、杖を突いた老人がハッキリとした口調で
ローラの方へ杖を突きだした。
「さて女神殿、よろしいかな?」
声を掛けられ、天井に張り付いていた私はゆっくりと
下降して、戸惑う彼女の首に白い紐を掛ける様にした。
「な、にぃ」
ローラの首に掛けた白い紐。それは、精麻ペンダント。
「いけぇー美香ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
私は幼馴染の名を呼んだ。
その途端。ローラは苦悩の顔にかわり、顔を手で覆いながら
よろよろと後ずさる。
諤々と震える体の中では、おそらく美香が戦っているのだろう
そして前かがみになった。
「ふぅ。はぁ~い。かちぃい」
体の主導権争いは、おわった様だ。
代わりに、ローラの体から半透明な獣人が飛び出す様に現れた。
私はすかさず、近寄ると、その半透明な獣人に触れて叫ぶ。
「実体化せよ」
ほんとは口に出す必要ないんだけど、のり的に・・・。
半透明な獣人は、みるみる色を持ち実体化していく。
その姿を確認した、レナが納得した様に近づいてくる。
「やはり、あなたでしたか」
「何者だかしらないが、我を知る者よ。
我が一族の恨み。
滅亡の仇を邪魔する者め」
「我らは滅亡などしておりません」
レナはメイド服を脱ぎ棄てた。あらわになる肢体に民族衣装の
ような布が所々存在するものの、それは下着の様な面積しかなく
レオンは視線をやや下に反らした。
「ば、ばかな。おまえは・・・」
「我が一族は、この国の助力により、あの大戦の後、
秘密裏に保護され、ある場所の所有と生存を助けてもらいました。
その見返りとして、この国に1人の戦士が仕える事となり
私がその子孫です」
「・・・」
「あなたは、王女ナール様ですね」
「・・・そ、そうじゃ」
全てを悟った、かつての獣人達の国の王女ナールは力なく呟いた。
「な、何のために・・・」
実体化させた、おかげで王女ナールの体。つまり新しい体には
良くも悪くも200年前の記憶はない。
それは私に、その記憶がないので彼女の体を作った元から無くなっていた。
零体が肉体と同化していく度に、彼女の記憶にない恨みは矛盾となり
何か、しこりの様な物としてだけになって消えていった。
「ここはどこ?」
王女ナールは、完全に同化した後、復活した事も忘れ
ただ、なぜか自分と同じ種族らしいものがいるので
その名も知らない同族に対して聞いた。
「ここは、オーディス王との謁見の場です。
王女ナール様。
そして我が一族を救ってくれたお礼を言いに来た所です」
この事はトレントの爺さんとミりス王女そして私達が
記憶が無くなる事を前もって知っていた事から話し合って
取り決めていた筋書きにそったセリフだった。
「そ、そうですか。失念しておりました」
まったく記憶にもない筈なのに、流石にナールは王女であった。
咄嗟に王らしき人物の前に跪き礼の言葉を述べた。
そして、王も今の一瞬ですべてを理解し、演技して見せた。
「余も王女ナールよ。
此度の不幸、今後の両国の良い足がかりとなる事を切に願っておる」
沈黙の元老院達はなにか言おうとしていたが、聖騎士たちが
その発言を許さなかった。
この国において神子は絶対である。時に王よりも上なのである
その神子が直属の聖騎士を動かすと言う事は、王女としてではなく
神子としてここにいる。その神子が、穏便に王国の未来を救う
手伝いをしてくれと頭を下げて頼まれたのだ。
命令で良い筈の神子の願いを、脅かすものは聖騎士とって
許しがたい存在として射殺すような殺気で「黙れ」と見つめられて
黙ってしまっている。
「さてのお。どうしたものか」
私は、ローラの体から精麻ペンダントをとってみる。
ただ、眠っている様な、そんな風に見えた彼女にはもう零体はない。
やはり、同じように意識が無い美香の体・・・いや、ちがう。
私の体にペンダントをさせて待つ。
しばらくすると美香は目を覚まして、一緒にローラの元へ行く。
「トレントの爺さん。どうだい?」
マユ姉が、聞く。
「結界はすでに解いてあるんじゃがな」
「何日持つ?」
剣の鞘に手をかけてレオンはトレントの爺さんにそう聞きいた。
「ゾンビの事を心配してるなら、寝てる間は平気じゃ。
おそらくじゃが、何かに封印してあるじゃろ
賭けになるが、起こしてみるのも手じゃな」
「それはどういう事?」
「ゾンビになれば、零体はもはや無い。
起こしても、ゾンビ化しなければ、どこにあるかわかるじゃろうて」
「ねね」
「今は後にして」
「そうじゃなくて」
「うるさいわね」
「聞いてよ」
「なによ」
「ゾンビって心臓動くものなの?」
「「「ん?」」」
その場の全員が私の質問に声を揃えた。
「ど、どうなのよ」
「止まるもんじゃな」
そうゾンビは動く死体なのだ。心臓は止まっている
そして、ローラの体は寝ている様に心臓もちゃんと動いていた。
それから、3日後、赤薔薇宮殿内で1つの壺が発見された。
呪術が掛かった、その壺の中を無事に開けるために
2日かけて調べ上げ、事件から6日後にやっとローラは
ローラの体に戻された。
※
後日談。
レイチェルは自害する毒をシャラル王妃から入手していたが
もちろん、毒ではなく睡眠薬で寝た処を王妃の息がかかった場所で
保護されていた。もちろん騙されたとは言えセリックは国外追放と
なりナール王女に付いていく事になった。
噂だと、こっそり誰かそっくりな女中が、その中に増えていたとか
ナール王女の事は、内々に現在の一族が住む場所に送られたが
そもそも肉体を無から作り治したことは、秘密となった。
事の真相をしったものが、良からぬ事を考えないようにとの事だ
どのみち女神がって私だけど、協力しない事には実現不可能だしね。
これでお役御免となった訳だし帰れると思ったら、あっさりと
「言いにくいですけど、返え仕方は・・・も、申し訳ありません」
とミりス王女が、ごめんなさいポーズで言ったので
相変わらず、私はこちらの世界にいる。
そんなある日。
「わしは、そろそろ帰るとするかの」
トレントの爺さんが、帰る際にボソボソと美香に耳打ちしたら
うんうんと何か嬉しそうにしている美香を見つめて
どうせ私も巻き込まれるんだろうな的な、何を予感しつつ。
今日も、ふよふよと私は空を飛んでいる。




