魔の森のトレント
私、今日も地上2メール辺りをふよふよ飛んでます。
御姫様に国を救ってほしいと頼まれ、今は旅の途中。
「疲れたぁ~、ちょっと休まない」
目の前にいる巫女姿の女の子は幼馴染の美香。
私達はこの世界ではない異世界からやってきた言わば異邦人。
「巫女殿。あの木の下までご辛抱下さい」
このお兄さんは、レオンさん。
私達を呼び出した御姫様の騎士団の一人。両手剣を背中に背負ってる。
騎士団装備と言うか、鎧にマント。ブルーの短髪が似合う感じ。
まあ凛々しいちゃ凛々しい。どうも美香はご熱心な気がするのが
非常に気になる。なんか貞操の危機感を犇々と感じるのは気のせい
ではないような気がする。
詳しい話は抜きにぶっちゃけ美香の体は私の物なのだ。
精神体は美香で体は私の体、そして私の精神体は外に飛出している。
貸してる体だって事忘れてないか心配だわ。
「着きましたら疲労回復に、甘いものでも用意致します」
あっ、この猫耳メイドさんがレナさん。
こちらもお姫様専用メイドで、私達の世話係として同行してる。
普段は隠している猫耳も尻尾も出して生き生きしてる。
なんと銀のテーブルナイフとフォークを武器に投擲が得意。
「あたいは、晩飯でも狩って来るさね」
パーティ内最年長の元冒険者ことマユ姉さん。最年長って言っても
まだ20代位らしい。女性として見たら、ちょっと横に・・・
いえいえ、普通です。
革の胸当て革のスカートと騎士団装備と比べちゃうと見劣りしますが、
肩にある盾はレオンさんも舌巻く程の腕前らしい。
旅の途中、時より手合せみたいなものを2人でしている。
まあ、そこにちょっかい出してるのが美香なんだけどね。
魔の森に入って7日。入り口近くの場所に幻術をかけて馬車を隠して、
馬たちは野に放って、おいても呼べば戻って来るとか、なんかすごいね。
魔の森の木々たちは、目を離すとその在りようを変えてしまう。
つまり、過ぎ去った後ろから、横を向く度に少しづつだが確実に変化して
森に拒まれた者が、目的地に着くことはないと言われている。
そんな森の中にも、常に変わらず移動しない木がある。
それが、先っきレオンの指さした木だ。
そう言った木を知っているかどうかが1つの試練なのかもしれない。
それ以外はいたって普通の森でもある。鳥や獣。魔物さえ普通にいる。
そこで生活する者には、寝る場所と食料が在れば見た位置が変わろうと
関係ないのかもしれない。
目的地に着くとレオンは辺りを見渡し警戒を始める。
マユ姉は火の準備。レナさんはテントを張る。
「ねぇレナさん」
「なんでしょう」
キャンプの用意をするレナさんの手が止まる。
「ああ、続けてたいした事じゃないんだけど」
張ったテントの中にテーブルとソファを用意して
中央にクッキーの様なお菓子をのせてティーカップを5つ並べた。
「魔族と人族の違いってなに?」
「魔族ですか。
端的に言えば血の色が違います。
人族は赤。魔族は緑。そして魔物は青です」
「はい、はーい。先生しつもーん」
後ろから席に着きながら美香が片手をあげて質問した。
「はい。巫女様なんですか」
レナちゃん。エアメガネを掛けなおす素振りをする。
「ゴーレムは青くなかったというか、血そのものがなかったような」
「そういやぁ、そうだったな」
マユ姉が同意する。
「ゴーレムは魔物ではありますが植物系です。
植物系は無色透明ですね」
レナは話しながらティーポットに手を翳すと茶葉を入れた
ボットにお湯が満たされていく。
そして蓋をすると、みんなのカップに注いでいく。
「ウッドゴーレムが長い時を重ねて石化したものが
ストーンゴーレムです。
更に化石化してロックゴーレムとなり
炭素化して更に硬化したものがアイアンゴーレム。
重く黒光りする為、多くの人が鉄と思っていますが
実はダイヤモンドに近い性質を持ちます」
そこまでで、いったん話を区切り、手元のカップに紅茶を注ぐと
自分も席に着く。そして少し思案し再び口を開いた。
「生命は零体と肉体を持ちます。
零体を失っても、肉体がなんらかの理由で滅ばなかった場合
ゾンビになります。
意思がなく、記憶だけの動くもの。それがゾンビです。
本来ウッドゴーレムは湖の側に生息する生命で
怪我をすれば樹液で傷を塞ぎ、根にあたる足を失えば
食事である水を補給できずに枯れ、一定量の怪我をすれば
患部が腐るなどし、やはり枯れ死に至ります。
そんな彼等が体が石になって生きている筈がなく。
ストーンゴーレム等は、ゾンビなのです」
紅茶を口に運び一息。
「また、肉体を失ったものはゴーストになります。
ゴーストは記憶がなく意思だけの存在となり
やがて言葉も失い、最後につよく念じた思いに
捕らわれて、漂う物となります」
話を終えて、美香の方に顔を向けた。
「うんうん。なるほど。それが答えなのね」
なにか納得した様に美香が首を縦にふっている。
「あたいにも、わかる様に言ってくれよ」
え~と、ちょっとまって、その話を聞くと私って
大丈夫なの?
美香の方を見てから、肉体はまあ無事だよね。
記憶はっと、昨日なにしたか思い出す。
ウサギみたいな獣を狩って食事にして
残りは干し肉に『アレはなかなか、うまかったな』
うん。ちゃんとある。
ただ、分離してるだけで、それぞれ元気だ。
なんか言い知れぬ不安は残るけど・・・
「だから元々魔族なんていないのよ」
美香が投げやりに説明する。
「200年前の退魔大戦は事実なんだろ」
「ほとんど大まかな予測なんだけど。
200年前、何にが原因かはしらないけど
おそらく、あなたの種族でゾンビが
大量に発生した。ちがう?」
そう言い放った視線の先はレナだった。
「恐れ入ります。その通りです」
「おそらく、死亡は溺死。
理由は何であれ、人も近寄らない
岩ばかりの間歇泉が噴き出すような
過酷な環境に生きるしかなかった。
そして病気になる」
「病気?」
「ええ、硫黄の大量摂取。
ほかにも、ろくな食べ物がなかったのも
考えられるわね。
そして最悪にも、災害規模の間歇泉が
発生したんじゃないかしら。
病気で弱った処へ100度の熱湯地獄。
死んでも肉体は残った。
おそらく勇猛な戦士だったんでしょうね。
溺れて死んだのだから、ぶくぶく太とり
毛がほとんど抜け落ちて、緑色の肌になった。
その姿は伝説のオーガと酷似していた為
人にはオーガと認識されたんでしょうね」
紅茶を飲む。
「そして最悪な事に、そんな地に
彼らを追いやったのは人なんだと思う。
当時の人に、その認識があったかは分からない
でも、恨みの記憶だけで動く死体。
間違いなく人を襲うわね」
苦虫をかみしめた顔になる美香に
クッキーをつまみながら頬杖をついて
マユ姉が、うーんとうなりだした。
「巫女ちゃんさ。
あたい馬鹿だから、ごめん。
なんで、それで血が緑になるんだい」
レナから視線をマユ姉へ移動した美香が続ける。
「硫黄と血が混じると緑色になるのよ。
生きてる以上は完全な緑にはならないけど
硫黄をたっぷり含んだ熱湯に浸かってた
死体の方は、完全に浸食した硫黄で
緑色に変化したでしょうね」
「あー。なるほどさねぇ」
あっ絶対、マユ姉、理解してないな。
「今。あなたが目の前にいると言う事は
その時、生き延びた獣人達は
人に協力して、かつての仲間と戦った。
そういう事なんでしょ?」
再び、レナに向き直る。
その手は、テーブルのクッキーへと進み1つ掴んで
クイとレナの方向へ突き出した。
「ええ。ご明察、恐れ入ります」
もぐもぐと、クッキーを紅茶で流し込むと真剣な顔を作った。
「で、本題に入るけどいい?」
話が終わったのだと思ったていたのか2人は、びっくりした
顔をしたが、レナは納得した風に見えた。
「もちろん」
それから、すこし間をおいて美香は聞いた。
「あくまで仮説なんだけど。
死ななかった零体が、他人の中にはいって
体を奪う事はありえるのかしら?」
何言っているの? 美香ぁぁぁぁ
仮説も何も事実じゃあ、ありませんか
今まさに、あなたが私にしている事でしょ
と内心突っ込みまくっていた私。
「あまりにも御変りになられた義母様をみて
姫様も、その疑惑の念をお持ちになったとの事です」
ああ、でも私から美香を追い出して戻った試しないな
そっかもし、そうなら自力で戻るのは義母様としては
厳しいのかもしれないな。
「その方法をトレント族は
知っている可能性があると言う事ね」
「はい。
可能性ですが、高いと思います」
「この事を事前に言わなかったのは?」
レナは頭を下げて事無げに言い放った。
「用心に、すぎません」
明日はトレント族の縄張りに入る、この時に
こうして打ち明けるのは、最初からの予定だったのだろう。
いつどこで何者かが聞き耳を立ててるか判らない。
下手すれば妨害ではなく、義母様の方が危ない。
あくまで仮説が本当なら義母様の零体がどうなっているのか
素直に考えれば、捕らわれているか・・・最悪。
それは誰も言葉にはしなかった。




