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死闘

暗闇の中、井戸に近づく人影に向かって、風に棚引く巫女姿のレナは


「そんな事を、それては困るな」


と声をかけた。

人影は振り向くと、どこからか、ふわっと舞い降りてくる巫女を見つめる。


「その井戸を生き返らせる為に

 どれだけの村人が苦労したか知っているだろ?」


月の光に人影の顔が見える。

その顔は、重病人の一人、騎士団の兵士セリックだった。


「まさか騎士団に王女を裏切る者がいるとはな」


「くっ」


男は腰の剣を鞘から引き抜くと、身構える。


昼間なら白雪の様なその白さも、

月明かりの中では黄金色に塗り替えられた巫女服は神々しく美しかった。


片刃の短剣を逆手に持ち、レナは身構える。


キィーーン、キィン、キィン


男の斬撃が、激しく放たれる。

交差し受け止めたせいで、男の顔とレナの顔が近づく


「やはり、セリック。なぜ、貴様が!」


「おや?

 巫女様に名を覚えて頂いていたようで、光栄ですな」


流石に騎士が振るう剣を受けるのが、か細い少女の腕。

しかも短剣では分が悪いと言うものか、次第に押され始めた。


「炎」


セリックは、正面に炎が突然現れ一瞬動きを止めた。

そのスキに後方に男の足で3歩ほどの距離を取り

本格的な攻撃呪文詠唱を始める。

しかし、おとなしく詠唱を待つほど愚かな騎士はいない。

すぐさま詠唱中に詰め寄り剣を払う。

詠唱中断が目的のものなので、力より早さが増す切っ先を避ける。


やはり、苦しいな、巫女のフリは・・・

なれない服。

なれない体形。

そして奥の手の尻尾もない。


自分を偽っての戦いが此れほど難かしいものとは思ってもみなかった

舞うように、避けるがうまく攻撃も出来ない。


「腐っても騎士と言う事ですか」


レナは踵を返し突如、森へ走り出した。

このまま村の内部での戦闘は不利と見ての行動である。


相手は騎士。そう騎士なのである。

よくも悪くも正攻法で相手を倒すことに特化した者である。

故に騎士が木の上を飛び回るなど、見聞きした事はない。


だが、レナは違う。逆に木の上を飛び回る事こそ本領発揮と言える。

ブーツが無い今は足は遅い。とは言っても常に遠出の際に馬に跨る騎士に後れを取るつもりはない。高低差は呪文詠唱の時間稼ぎにも一役買ってくれるだろう。

視界に入った木の枝に飛び移り、木から木へ移動しながら追手へ攻撃魔法を放つ。


「我が敵を打ち滅ぼせ、爆炎斬」

セリックが風魔法に対して、己の最大奥義で答える。

レナの足場が、切落ち炎が木々に燃え広がった。


(そ、そんな。まさか剣技だと)

冷汗がレナの顔に浮かぶ。

奴は剣技も持たず平々凡々なれど実直なタイプで騎士団に入った筈だ


ならば、私の知るセリックは、まやかしなのだろう。

脳裏にある彼のデータをクリア。

アレは別物だ。


落ちるレナに、さらにセリックの斬撃が迫る。

避けきれずに2発、突きが肩を貫き、払った剣が避けきれずに腹部に減り込んだ。


左肩と脇腹から血が噴き出す。痛みに耐えながら糸を引き木の上へと移動する。


細い糸を使って器用に、木々の中を飛ぶように走る。

もはや、森の中の移動速度だけがレナを救った。


装備の治癒魔術が発動し肩からの出血はすでに停止しているが、脇腹は何処かで

何とかしないと、その為にも今は距離を稼ぐ。


手頃な山小屋を見つけて中に入ると両手で脇腹を抑え治癒魔法を唱える。

アイテムの治癒魔術が自動で発動しなかったら危なかった。

少し眠くなる。指輪を確認する。


「やばい。指輪があるのに・・・」


指輪があるのに眠くなる。それは出血多量による意識の消失であり眠い訳ではない。

意識の混濁に他ならない。ここで自我を手放すのは拙い。


「解いて、全力で・・・」


そう口にした時、王女の震えた手が脳裏に浮かぶ。

何も言わずその目は『頼みます』と、そう言うかの様な

真っすぐに見つめられた、その思いに答えよう。


確か『諦めるのは、やれる事が無くなってからです』でしたか、

異世界の彼の方が言われた言葉は、報告で聞いた時には

気に入らないと思ったが、なるほど。

私は、この姿でやれる事が無くなっ訳ではない。


考えろ。何ができる。まだ相手は一人だ。

本来。剣士と魔術師。

まともなら普通、魔術師が剣士の間合いで戦う事はない

奴はそう、考えている筈だ。


この山小屋にある武器は、もぐり込む前に視界の隅に入った

真木割り用と思う手斧。

巫女服は袖が長い、隠すにはちょうどいい。

袖ごと叩き込む。


短剣を右手でに持ち、左手を後方に隠すように斜めに構えるのは

不自然さは無いはずだ。


あとは・・・タイミング。


計画の手斧を取りに立ち上がろうとした一瞬で視界が失われた。

出血多量による突発性貧血によって視力が奪われたのだった。


拙い


そして意識が遠のく・・・


・・・ああ、懐かしい風景が思い起こされる


最初の頃は王女が好きではなかった。

只、誇り高い一族の獣人としての血がそうさせる様に義務感によるものだった。

自分は、この女のせいで鞭うたれながら知識を叩き込まれる毎日。

知識だけではない。死なない程度に毒を飲まされ放置された。

壁の向こうの音を聞き、人数を当てられない時は食事を抜かれ

殺気の籠った木刀をかわす。それは失敗すれば容赦なく腕を足を

腹を胸を抉る。その痛みは獣人とはいえ小さな子供には苦痛でしかない、


「すべてお前のせいだ」


のほほんと、何んの苦労もなく平和をむさぼる様に

笑顔を見せる。この少女が嫌いだった。


この明るく作った様な笑顔。


反吐がでる。そう何度も思った。

王宮に仕える様になっても、義務以外の感情はなかった。

特にギレーとかいう騎士は王女に甘い。

寝室に入る事さえ許可された、唯一の男性。

どうせ貴族の事だから、あんなことやこんな事でもしてるのだろう

好奇心から、こっそり情事でも覗いて馬鹿にしてやろうと思った。


そこで見たものは違った。違っていた。

小便を垂れ流し全身を震わして、恐怖のあまり嗚咽を上げ

胃の中のすべてを、まき散らす少女をギレーは抱きしめていた。

虚ろな目で、全てを拒絶する少女を宥める様に

やがて意識が戻った彼女は、掠れた声で誰に言うでもなく

「目を閉じるのが怖い・・・」

もう何度も何度も何度も自分が殺される夢を見るという。

彼女は神子だ。夢は現実となる。そう言われている。

「姫。このギレーが、御傍に降ります」


作った様な笑顔。その理由がわかったような気がする

夢と言うから、殺される瞬間、もしくはその後も見るのかもしれない

死の瞬間の苦しみ恐怖を何度も経験する様なものかもしれない。

繰り返し、終わらない悪夢。

そして刻一刻と、その日は近づいていく。

夢に見た時刻。その時まで続くのだとしたら辛いだろう


明るく作った様な笑顔の意味を知った。


いや知ったかもしれない。それでもギレー以外には明るく無邪気な

そんな少女の仮面の奥を・・・


それから、その日までには10年という時間がある事を知った。

王女の見た夢を1つでも覆すことが出来ればあるいは

「この世界に運命を変える力がないなら別の世界の者に助力願いましょう」

そう彼女に告げると、翌日。

彼女は心底明るい本当の笑顔で夢を見たと話してくれた。

さっそく王女の許可も取らずに、私は夢を御告げとして内密に王に報告した。

すぐさま王は行動した。異世界からの召喚を可能にする魔法の調査研究を

そして今がある。


「最後まで御伴出来ずに、すみません」


自分のこの10年は無駄ではなかっと信じて「後は頼みます巫女様」

それは言葉にならず意識を完全に無くした巫女姿のレナが

ドサリと音を立て、その場に崩れ落ちた。


肩から脇腹にかけて赤く・・・赤く染まった服は赤黒く変色し始めていた。


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