プロローグ
よろしくおねがしいします。
プロローグ
「今年も、よろしくね。今年はバイト代はずむってパパが言ってたよ」
2人一緒に家路に向かう私のとなりを歩く幼馴染が、いつしか毎年の恒例になった巫女のバイトの話をしつつ、ぺこりと頭を下げられながら話しかけてくる。
「ほんとかな?」
「どうだろ?」
左手を軽く握り口元を隠すようにすると、ちょっとだけ斜めに視線を向け考えるポーズをとった彼女はクスクスと笑い出した。
この幼馴染は美香。正真正銘、巫女で霊力というか不思議な力をもっている。
彼女が『うんと、こっちは良くないから』と言いつつ遠回りして帰るのに素直に従う事にしている。小さいころから彼女の忠告を無視したおかげで悲惨な目に何度も会い、なんとなくという言葉通りにして後で良かったと思った事は数知れず、今では誰が疑っても私自身は、それは体験してないからだと内心で突っ込みつづけた。
「ねっ・・・今年は・・・」
彼女は今年は神楽舞の役を内緒で交換してみないと提案してきた。
もちろん。いつも2人で一緒に練習しているせいもあって互いのパートはお互いに踊れるようにはなっている。巫女服の上、面もかぶるから、そうそうバレる事はないのであるが、いつ気が付くかと、ほんのちょっとした他愛もない軽い悪戯のつもりでいた。
10年もの間ちゃんと巫女たる修行を積んだ幼馴染と違って、なんちゃって巫女に近い私はちょっと後悔しながら神楽殿の階段を登った。
ぴゃーと結婚式でよく耳にするような音が鳴る中、巫女服を纏った私は踊りを始める。
(ん?)
違和感を感じつつも踊りつつ蹴るも、いつもと違う雰囲気が漂っている。
巫女面を付けているせいで視界が覆われている事もあり、そう巫女面にはいわゆる覗き穴はない口で面の内側の突起物を咥え、視界を奪われた状態で神楽を舞う。
なにか変だなと思っていると、ある事に気が付いた。
私の周りにあった音が無いのだ。
人の騒めきも、神楽の音楽も、ただ微かな声が聞こえてくるだけで・・・
「巫女様・・・巫女様、どうぞ、わたくし達を、お助け下さい」
最初はボソボソとした声が、はっきりと、そう聞こえた時。私は思わず踊りを止めて面を取った。
(え?)
辺りは、まるで王宮の様な広間に変わっていた。
そして目の前には両手を交差し祈るような姿で、お姫様の様な格好をした少女が跪いていた。幼馴染のドッキリを真っ先に疑ったが、場所まで変わる理由と方法が浮かばない。
(え?)
私は突然重力を感じた。その時、初めて空中にいる事を理解し突然の降下に体が対応しきれずに尻もちをついてしまう。
「ここどこ?」
少女は王女であり、夢枕に立った人物より、未来を司る女神スクルドの寵愛を受けし巫女なる者を召喚する儀式を行い国の危機を救えと言われたとの事。
呼び出すタイミングなど詳細に指示され、言われた時刻に「巫女」と言う言葉は理解できなかったが、発音として「神子」の事ではないかと理解したらしい。
話を聞く限り、ラル大陸の東方に位置するギジェル王国の王女は、たぶん幼馴染の美香を呼び出すように指示されたのに召喚に失敗して彼女ではなく私を呼んじゃったんだろうと私は思った。
私は霊感も何もない普通の高校生であって、帰宅部だし・・・
「・・・あの」
「はい、巫女様。なんでしょうか?」
王女はややビクッと体を震わせたが、私は気に留めずにスルーして続けた。
「帰りたいんですけど・・・」
そう私が切り出すと、途端に見る見る王女の顔が白くなり、もう必死って感じで
「な、何か失礼が御座いましたでしょうか?
無作法をお詫び申し上げますので、何卒、怒りを御静め願い出来ませぬでしょうか?」
ちょっと震えてる気もする。
「あ・・・いえ、そう言う意味ではなく、あの人違いではないかと・・・」
と事情を話しだすと、王女は首を横に振った。
「この世界のどの国にもない、その御姿。御召し物。
お告げの夢で見たままの御姿で御座います故、見間違う事なぞ考えられません。
私の巫女様はあなた様で御座います」
あー駄目だぁ~
ほんとに霊感をもっている巫女の美香と私が入れ替わった事を説明しても無駄だった。
ありがとうございました。
次は19時頃になります