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desire world  作者: ジュン
4/4

1-2 忘却系少年

ゆっくり読んでいってね!

「よーし着いたぞ」


歩くこと数分、特に何事もなく家にたどり着いた

もう遅いのでさっさと中に入ってとりあえずリビングへと向かう。



「風呂と食事、どっちがいい?」

「えっと…じゃあ食事で」

「オーケー、すぐ作るからちょっと待ってろ」



少年をソファーに座らせて台所で料理を始める。料理は出かける前にある程度作っていたからすぐできるはずだ。


シチューの入った鍋を火にかける。量に若干不安はあるが、いつも多めに作ってるから大丈夫なはずだ。


買ってきた野菜でサラダを作って、パンも用意。シチューを器に入れて―



「よし!できたぞー」

「っ!!は、はい!」



何か考え事でもしてたのか、顔を伏せていた少年はハッと顔を上げてこちらに小走りで向かってくる。



「飯は逃げないし冷めないからゆっくりでいいぞ」

「ご、ごめんなさい…」

「いや怒ってないからさ。

じゃ、いただきます」

「…いただきます」



スプーンで一口シチューをすくって口に入れる。うん、我ながら美味しい。


ちらりと少年に目を向けると恐る恐るスプーンを口に運んでいた。が、一口食べると途端に顔が輝き美味しそうに食べ始めた。


…さて、いろいろ訊かないとな。



「君、名前は?」



いつまでも脳内呼称が「少年」なのもあれなのでまず名前を訊く。


すると少年は食べる手を止めて口を開いた。



「…わからないんです」

「…なるほど『ワカラナイン』くんか。斬新な名前ってええええ!?」



一瞬思考が仕事放棄しかけたが、何とか理解しきった。



「…もしかして、ひょっとする?」

「…何も覚えてないんです。名前も何もかも」



…子供一人で宿に泊まろうとする辺り訳ありだとは思っていたが、これはかなり予想外だった。というか予想できてたまるか。


さて、どうするか…。



「ま、今日はとりあえず泊まるだろ?君が良いならしばらくここに居てもいいからさ」

「ほ、ほんとですか!?

…あ、少ないですけどこれ…」



そう言ってポケットから銀貨10枚を差し出してくるが、受け取らずに変わりに金貨1枚を握らせる。



「良いって、逆に持っとけ。銀貨の20倍の価値あるから」

「す、すいません」

「謝るなって。何も悪くないんだからさ」



まあこうなると訊きたいことも全く訊けないのでしばらくは面倒見た方が良いだろう。



「…えっと、名前、訊いてもいいですか?」

「ん?ああすっかり忘れてた!

俺は『ロイ』だ。よろしくな」



そうこうしているうちにお互いの皿は空っぽになっていた。



「「ごちそうさまでした」」

「あ、この皿をそこの流し台に運んでくれないか?風呂用意してくるからさ」



そう頼むと俺は風呂場へと移動する。


そして張りっぱなしの水に手をかざす。



「…『インクリーズ』!」



呪文を唱え集中すると水から湯気が出始めた。つまりお湯になったのだ。

本気を出せば沸騰するはずだが勿論しない。


そうこうしていると片付けが終わったらしくこっちに来た。



「終わりました〜」

「こっちもできたぞ。早速―って、着替え用意しないとな」



自分の寝室に行って探すが…まあ当然ない。

仕方ないので適当な下着とジャージを取り出す。



「悪いけど後でこれに着替えてくれるか?」

「大丈夫です。す―ありがとうございます」



また一瞬謝りかけたが、さっき言ったことを思い出したのか、直前で止めた。


先に風呂に入らせて、俺はリビングに戻る。

ソファーに勢いよく座って一息。

…正直いろいろありすぎて疲れたというのが本音だが、放っておけずに連れてきてしまったあの子について考えないといけない。




まず記憶喪失が本当だとして―まああの様子だと嘘ではないだろうが―なぜそうなったのか、だ。

外傷はないから「頭打った」とかいう理由ではなさそうだ。他に考えられるのは「魔術的な呪い」か「精神ストレスの自己防御」とか…か?



…かっこつけて考えてみるが専門家でも何でもないからわかるはずがなかった。

とりあえず明日は魔法に詳しい知り合いのとこにでも連れていくとするか…。


「お風呂あがりました…!」

「お、早いな。

じゃあ俺も入るからちょっと待ってろよ」

「はい…!」



少年と入れかわりで風呂に入る。


風呂の中はいつもと変わらず使ったものも全部定位置に戻っていた。…素直、なのか?


…まあ男の風呂なんざ描写しても誰得なので閑話休題。



風呂から上がると少年は何故だかお金とソファーとを見比べるように見ていた。



「…何してるんだ?」

「あ、いや、貰ったお金の使い道考えてました」

「…ソファーでも買うのか?」

「ち、違うよ!いくらぐらいなのかなーって考えてただけだもん!」



言い切ってからハッと自分の口を押さえる。



「ご、ごめんなさい…」

「…?あー、敬語じゃなくて大丈夫だぞ?俺もそんなに大人じゃないからな」



そんな彼を苦笑しながら話す。

なにより俺が堅苦しいのに耐えられない。



「…わかった。ありがとう、いろいろしてくれて」

「どういたしまして。

…君はこのあとどうするつもりなんだ?」

「えっと…朝になったら一人で外で―」

「やめとけやめとけ、子供一人で生きられるほど甘い世界じゃないからな」



街の中はある程度安全だが外にある森には獣も住んでいる。それにあれだけのお金じゃとてもじゃないが持たないだろう。



「しばらく面倒みてやるから変なことは考えるな、いいな?」

「…はい」



やはり申し訳ないとか思ってるのか小声で返事をする。



「さて、寝る前にもう少し訊いておかないとな…。

記憶ってどこからあるんだ?」

「えっと…夕方から、かな?その時街の外にいて、道に沿ってこの町にたどり着いた…はず」

「記憶がないって言ってたけど、常識とかその辺りは覚えてるんだな?」

「多分…。シャンプーとかの使い方もわかったし…、この部屋のものもある程度わかるし…」



…『ある程度』?



「んー?待った待った、ある程度ってどのくらいだ?何がわかって何がわからない?」

「えーっと、この部屋のソファーやテーブル椅子、コンロや冷蔵庫なんかはわかる。

でもあの丸い物とかあの紙とかはわからない」



わからないと言った二つの物を見る。

丸い物―黒く手のひらサイズのそれと、いろいろ文字が書き込まれた縦長の紙。



「ああ、あれは『携帯型魔術通信機』、通称ケータイ。あっちは魔力のこもった身体強化のお札。両方魔術関係だな」

「…魔術?」



…ああ、そこから説明が要るのか。思ったより事は複雑かもしれないな。



「さっき言った冷蔵庫なんかは物質的な技術、『科学』で動いている。

逆にさっきのケータイは概念や意志による力、『魔術』で動いている」



昔は二つの学者たちがどちらが正しいのか争ってた時期があったらしいが今は両方皆から認められ、生活に欠かせないものだ。



「…科学は少しわかる。けど、魔術は全然わからない」

「…つまり自分の過去と、魔術の常識が抜け落ちてるってことか…?」



うん、やっぱわからん。



「まあ明日魔術に詳しい知り合いのとこにでも行こう。いろいろわかるかも知れないしな」

「…わかった」

「…そうだ、あとさっきは話忘れてたけど名前、どう呼べばいいかな」



ずーっとここまで呼称が「君」とか「彼」とか「少年」とか「あの子」だったのだが、もう今日のうちに決着をつけるべきだろう。



「…何でもいいかな。どんな呼び方でもいいよ」

「何でもかー。

…じゃあ『アレキサンドリアブロンド』とか「やっぱ嫌です」冗談だよ冗談」



そんな名前のやつ多分この街には居ないだろう。つーか居たら驚くな。



「じゃあ、『アム』、なんかどうだ?」



別の国の言葉で記憶喪失を意味する言葉、「amnesia」、だから『アム』



「…アム…アム。アム…」



彼は何度も口に出して言ってみる。何度も何度も繰り返して。



「…うん!僕はアム!よろしく、ロイさん!」

「よろしくなアム。…いい笑顔だな」



そう言う彼の―アムの笑顔は今日一番のものだった。輝きそのままの純粋な笑顔。


そんな笑顔を見せたあと、ソファーにもたれて伸びをするアム。



「眠いか?」

「うん…ちょっと疲れちゃった…」



確かに目を擦って眠気に耐えようとしている。かくいう俺も大分眠い。



「ベットでさっさと寝るか…。1つしかないから同じベットでいいか?」

「うん…大丈夫…」



ということで二人で寝室に行ってそのままベットに入る。



「…ロイ?」

「何だ、アム?」



二人でちょっと窮屈なベットでアムが話しかけてくる。



「最初は凄く不安だったけど…ちょっとだけ安心できた…。ありがと」

「…よかった。どういたしまして」



その言葉で、こっちの気持ちもも安心した。



「………なぁ、アム」

「…………」

「…アム?」

「…スゥ」



…眠りに落ちるのが早いことで。

訊きたいことは山ほどある。


が、今日はもう寝よう。


時間なら、たっぷりあるはずだから。

通貨早見表


金貨1枚=一万円くらい

銀貨20枚=金貨1枚

銅貨5枚=銀貨1枚

銀貨1枚=500円

銅貨1枚=100円

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