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失恋は新たな恋のはじまり

作者: 巽 玲也

あーあ、またこのパターンですのねー。


私は小さく溜息をはいた。

夜の幻想的な美しい庭園でこれまた麗しい美男美女が笑っている。

美女の方は私の2こ上のお姉様で、美男のほうが私の想い人。元がつくけれど。


まぁ、どう考えたってお姉様を選ぶわよね。

白く美しい肌に、整った顔、ふわふわと揺れる金色の艶やかな髪。まるで絵画の女神様のような姿形をしたお姉様はいつも殿方に囲まれ、求められる。

対して私は、日傘をさすのが苦手な為に日焼けした肌、のっぺりした特徴も整ってもいない平均以下の顔、艶のない硬い黒髪。

そのため、お姉様から妹ですのと紹介されるたびに冗談でしょ?マジないわーみたいな顔をされるが定番ですの。もはや慣れましたわ!


今まで、数人の殿方に想いを寄せましたが、全てお姉様に求婚なさってましたの。イケメンも普通くらいの方もみーんな、です。

まあ、自分が男だとしてもこんなブサイクより、美女を狙いたいですもの。

だからしょうがないとしか言えませんわ。


お姉様に惚れない稀有な殿方が何処かにいらっしゃらないかしら?

いえ、いませんわよね。


また小さく溜息を零し、バルコニーから化粧室へと移動する。

舞踏会だけでも嫌なのに失恋もするだなんて・・・

今日の舞踏会は王子様の結婚相手を探すためのもの。でも王子様とお姉様は良い雰囲気でお話しされてたから、王子様もお姉様を選ばれるに違いない。

わたしの想い人には申し訳ないけれど、お姉様は王子様を選ぶでしょうね。

決してざまぁなどと思ってはおりませんのよ。断じて。


だから王子様に選ばれることがない私なんて、今すぐ帰らせて欲しいですわ!

お父様に相談してみようかしら?

王子様に挨拶はしたわけだし、きっとお父様も帰っていいとおっしゃってくれるに違いない。


そんなことを考えながら長い長い廊下を歩いていると、とてとてーと小さい子供特有の軽い足音がする。

え、舞踏会に子供?

慌てて周りに目をやると、右横に軽いものがぶつかった。


「え?」

「ねぇ、カーシャ、僕のこと好き?」


茶色の長めの髪をした、まるで女の子のように可愛い男の子がエメラルド色の瞳を瞬かせて尋ねてきた。


「まぁ、ルド!どうしてこんなところにいるの!」

「内緒!ね、ルドのこと好き?」

「大好きよ!」

「ほんと!?じゃあ一緒に遊ぼうよ!」


なんかさらっと告白させられたような気がするが、気のせいですわよね!

このルドとは2年前から友達ですの。

公爵の父と共に王宮へ行くと、どこからともなくこの小さな天使、ルドがやって来て、いつも一緒に遊んでくれとせがむのだけど、舞踏会の時にルドと会ったのは今回がはじめて。

小さい子供がこんな時間に一人でいるなんてあぶないわ!

ルドは可愛いから攫われたら大変!


「いいわよ?でもお母様を見つけてからよ?」

「ホント?遊んでくれるの!?」


まあるいスベスベしたホッペを真っ赤に染めてルドは叫んだ。


この子は本当は天使なのではなくって!?


あまりの可愛さに思わず私も心の中で叫んでしまった。

心の中とは言え、淑女が叫ぶだなんではしたない。私もまだまだですわね、なんて全然思いませんの!

どうせ結婚なんて出来ないのです!

ですか私の好きなように生きてやるのですわっ!


って、違う違う違う!

ルドのお母様を探さなくては!


「ルド、遊ぶ前に貴方のお母様を探しましょう!」

「じゃあ、おいかけっこねっ!」


突然のセリフに慌てて手を掴もうとしたが、ルドはスルリと身をかわし、軽快に駆け出してしまった。


なんてこったい!


あまりの驚きにキッチン担当のマリアの口癖がつるんと出てしまいましたわ!


早くあの子を捕まえなければ!


ひらひらと揺れるドレスの裾をむずと掴み、淑女という言葉を蹴っ飛ばすように私は廊下を走り出す。


よく考えたら、ここは王宮なのですが・・・。王宮の廊下を全力で走るって結構よろしくない感じがするのですが・・・。

流石に衛兵に見られても捕まえられないですわよね?


「ルド!どちらにいますの!?」

「カーシャ、こっちこっちー!」


ルドの声を頼りに廊下を駆けずり回る。

あれ、なんかどんどん高貴な感じが強くなっているのだけれど・・・。

もしかして王族の方の部屋に近づいてたりしてないですわよね?


だんだん怖くなってルドを小声で呼ぶ。


「ルド!どこにいるの!ルド!早く出てらっしゃい!」

「ここ、ここだよ、カーシャ!」

「この部屋ですのね!おとなしくしているのですよ!」

「イヤ!カーシャが早く来ないと暴れるよ!」


なんですって!?


これは大変と慌ててルドの声が聞こえる部屋のノブに飛びつく。


「えっ」


違う。私はノブに手を置いただけですのに。

ノブが勝手に動き、扉が開く。

私は勢いを殺しきれず、前につんのめる。

ぶつかるっ!


「きゃっ!」


ふわりと暖かい何かに柔らかく受け止められる。


「遅かったね、カーシャ」


低くて甘ったるい声に全身が震えた。

何がなんだかわからなくて、誰かの胸に手を置き、顔を上げる。


「え・・・、ゲラルド王子・・・様ですの?」


目の前にいたのは茶色の髪を緩く後ろで縛った20代の精悍な顔つきの青年。

エメラルド色の瞳に、王家の紋章が入った首飾りはまさにタチアナ王国の王子である証ですの。

何故、ゲラルド王子がここにいらっしゃるの?

あとルドはどこにいますの?


ショートしそうな思考を抑えつつ、ゲラルド王子に尋ねる。


「えと、ルド・・・いえ、小さい男の子を見かけませんでしたか?」


すると、王子はクスクスと笑った。


「ったく、俺を目の前にして、知り合いの男の子の心配か。あはは。流石、カーシャだな全く!」


何故私は笑われているのかしら!

あんまり会ったこともないし、話したこともないゲラルド王子に笑われる筋合いはございませんの!

なんだかイラッとしましたので、不敬だとは思いましたが、胸をドンドンと強く叩いてやりましたわ!

全く効いていませんでしたけどね!


「私は男の子を見ましたか?と聞いているのです!早くお答えくださいませ!」

「あぁ、よく笑った。男の子って茶髪の子?」

「ええ!」

「あれね、俺だ」


さらっとゲラルド王子は意味のわからないことをおっしゃった。

『何を言ってるんだお前』という、料理長のフィリップのお気に入りのセリフをうっかり言いそうになったのは秘密ですの!


「冗談はおよしになって!」

「ひどいな。冗談じゃないぞ。」

「へっ」


ゲラルド王子は真剣な表情で私を見る。


「ルドは俺だ。」


エメラルドの様な深緑の瞳が私を捉えて離さない。


「俺には呪いがかけられていた。好きな女性に出会うと子供の姿になってしまう呪いが。呪いを解く為には好きな女性と相思相愛にならなくてはならない。」

「相思相愛・・・」


はっ、もしかしてさっき告白させられたのって・・・


「思い出したみたいだな。そう、お前のさっきの言葉によって俺の呪いは解けた。」


「え、でもあれはゲラルド王子に対して言ったことではないですし、そもそも私はあなたのことなんて好きじゃないですわ・・・」


やけにバクバクと音を立てる心臓を不安に思いながら言葉を重ねる。


「いや、カーシャ、お前は俺のことが好きだろう?だって、この前『ルドのこと、大好きよ?ルドが大人だったら結婚したかったくらい』なんて素敵なプロポーズをしてくれたくらいだしな。」

「なっ」

「それに・・・」


勿体ぶるように、ゲラルド王子か言葉を切る。

そして私の頬に手を当てた。

端正な顔立ちに見つめられて、私正直倒れそうですの。


「心臓が破裂しそうなくらいに音を立ててるし、なにより顔がりんごみたいに真っ赤だ。」


うわぁ、恥ずかしいですわ!

私の認めたくないこのもしかして恋心?がバレていますの!?

もうこの際ありのままを話すしかないですわね・・・。


「なぁ、どうなんだ?カーシャ。俺のこと嫌いか?」

「・・・いいえ。」

「俺を好きなのか?」

「好きかどうか良くわかりませんの。ですが、ルドがゲラルド王子だと聞いて、内心とても安堵し、そして胸が高鳴りました。私は本日失恋したばかりです。新たに芽生えたこの気持ちに名前を今すぐつけることは出来ませんわ。」


私の答えに王子はクスリとわらった。

そのなんとも言えない甘さ含んだ笑みに、私は完全に見惚れましたの。


「早く俺に堕ちて来い。俺の愛しいカーシャ」


私の唇にそっと彼の暖かな唇が触れた。

甘い甘い口付け。


失恋と共に始まった恋。

それはなんとも強引で甘くて、運命の恋ですわ。


ちょっと王道ぽいものを書いてみたかったのですが、どうしてこうなった・・・

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― 新着の感想 ―
[一言]  面白いです。  まるで現代もののようなタイトルに、スパイスみたいなファンタジー要素。 読んでて楽しかったです。  ルド、子供時代は小悪魔で、今は堕天使ですか?  溺愛モードで口説いてる彼と…
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