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忘却

「そういえば航さんはどうして此処にきたの?」

「それは―――」

言えない。

真実を話せば凛は航を止めるだろう。何故静香がこんな事をしたのか、何故航がそれを知っているのか、そして

何故静香を殺すのか…と。

理由はある。筋道もある。だが他人に分かるものではない。

これは彼らの問題。常人が関わっていいものでは…否、関われるものではない。

それは既に人間の範疇を越えている。

そう、彼らは人間ではない。

人間ではないが故に人間に戻ろうとする。

片や自分以外のモノを全て犠牲にして、

片や全ての因果を受け入れ、

許されようとする者と救われないと悟る者。

人間では無くとも相反する者は衝突する。

これもまた必然なのだから。

しかしその争いは当人たちの間で行う事。何も知らないこの友達を巻き込む訳にはいかない。

「……見回りだよ。千尋ちゃんに言いつけられてね。こうして島中を歩き回っているのさ」

さっさと凛を遠ざけようと言い訳をする。

「そうですか、大変ですね」

「まあ千尋ちゃんが結界を張ったみたいだから大丈夫だと思うけど、それより佐々木さんを知らない?千尋ちゃんについでに彼女を捜してこいって言われているんだけど…」

とりあえず必要な情報を入手しようとする航だったが、

「じゃあ私も手伝います!その方が安全だし、何かあった時でも対応できますから」

目をキラキラさせて航を見る凛。

(…………マズイ…………)

「いやいや、これは僕が千尋ちゃんから頼まれた事だから…」

「学園長だって一人より二人の方が良いって言うに決まってます」

「じゃあ僕は西側に行くから浅上さんは東側に…」「いえいえ、二人で回るから良いんじゃないですか。もし何か問題があったときもその方が対応が早いですし」

(………返す言葉が見つからない…)

致し方ない。彼女には少し乱暴な方法で身を引いて貰おう。

航がその腰に日本刀を具現化させ、凛に向けて抜き放ったはまさに一瞬の出来事だった。




「学園長、静香さんがもし本当に『咎人』だとしたら彼女の罪は何です?」

学園長室、そこにいるのは数人の教師と千尋、それに涼だった。

咎人なら当然何らかの罪を背負っている。静香がその罪のせいで今回の事件を起こしたのだとしたらその罪に解決策が有るかもしれない。

「ん?そんなこと私が知るわけ無いだろう。まあ大方見当はつくがな」

千尋が手元の紙切れを一枚、涼に渡した。

「……………学園長、これって…」

涼がその双眸を大きく見開いて千尋をみる。

涼がその手で少しクシャクシャにしたのはついさっき千尋が月影から取り寄せた静香が所属していた学年の生徒資料だ。

涼が何度探してもそこに佐々木静香の名前は無かった。

「どういうことです?静香さんは月影から転入してきたんじゃないんですか?」

そこで千尋からもう一枚の紙切れが渡された。

「私が佐々木静香が転入して来た時に月影から取り寄せた資料だ」

そこには明確に佐々木静香の名前があった。

2つは同じ資料、違うのは佐々木静香の名前が有るか無いか。

それが物語るのは、

「じゃあ静香さんの罪は…」

「ああ、恐らくは―――」



甲高い音が響き渡る。

音源は2つの金属、ぶつけたのは一組の男女。

男は右手に日本刀を持ち女の首筋に当てる。

女は両手剣を持ち日本刀と自分の首筋の間に剣を構える。

男の瞳は金色に輝き、女の瞳はしっかりとその瞳を見る。

「………よもや俺の抜刀術が受けられるとわな」

「………もしかしたらと思っていつでも具現化できるように準備してましたから」

「どうしても付いて来る気か?」

「航さんが私に言えない何かをやろうとしている事は分かりました」

「ならば尚更―」

「だからです!だからこそ一緒に行くんです」

「ダメだ。君をこれ以上巻き込むわけには―」

「静香さん。が関係しているんですよね?」

「………………」

「答えられませんか、だったら尚更ついて行きます!!」

凛が航の刀を弾きその反動を利用して距離をとった。

「………そうか…ならば仕方ない」

瞬間、凛を取り巻く空間が張り詰めた。「カハッ…」

呼吸が苦しい。その原因は航が放った莫大な殺気だった。

いくら帯刀者といえども航はあくまで学生。ここまでの殺気を放てるとはとうてい…

気付いたら目の前に航の姿があった。

「一つ、勘違いをしているな、お前は。俺が放てるのは殺気ではない。そんなモノを放てるほど俺は熟練していない。俺が放てるのは」


死の気配そのものだよ


航の振り下ろした凶剣が正確に凛の体を捉えた。



静寂の中に少女は一人。どこかのお嬢様を思わせる黒く長い髪がその清く美しい雰囲気を一層引き立たせる。

少女は学園から少し離れた公園にいた。

時刻はとうに子供は寝ている時間。当然この公園には少女以外誰もいるはずがない。

さっきまでもう一人いたがソイツは既に「モノ」になった。

「………結界…ですか…」

少女は少し変わった島の空気に気がついた。

この結界は自分の計画に大きな支障をきたす。そう判断した少女は結界の基点へと歩き出した。

傍らにあった赤く無惨な死体を残して。



「おっと」

倒れ込む凛を航が受け止めた。

多少の流血はあるが命に関わる程ではない。

右手の刀の具現化を解き、瞳が金色からいつもの東洋人らしい色に戻る。


腕の中で眠っている凛を見て安堵の表情を浮かべた。

日本刀は通常の剣と違い片刃の為、反対側は刃側よりも厚くできている。そのため相手を最低限の負傷で気絶させることができる。

「悪いね、君をこれ以上傷つける訳にはいかないんだ」

凛をその場に静かに寝かせながらそう呟いた。

もう一度凛を見てから再び歩き出した。

「……き…傷つける訳には…いかないって…どうゆう事ですか…」

背後から声がした。驚いて航は振り返った。

そこには剣を支えにしてなんとか立っている凜がいた。

「なんで…」

立っていられるんだ。

――見たこともない治癒力――

いつか千尋が言っていた凜の体質。

「ほんと、驚きを通り越して呆れるね」

「静香さんをどうする気です?」

凜が剣を両手に構えそね切っ先を航に向けた。

「君には関係ない」

「大ありです!私たちは友達ですから」

その返答に対して航は少し黙り込んだ。

そして今までの態度が嘘のように、どこまでも冷たくどこまでも暗い、そんな声だった。

「…じゃあ友達って何?腹を割って話せる相手?困ったら助けてくれる相手?いいかい、そんなものは存在しない。誰にだって人には話せない秘密はある。そこから嘘が生まれ、そのため人間は心のどこかで疑心暗鬼になる。本当はだれも信用なんてしていないのさ」

それが現実。壬礼航がこれまでの人生で勝ち取った唯一の答え。

「確かにそうかもしれません。でもそれでも…いえ、だからこそ人は努力するんです。相手を信じようと、理解しようと。だからこそ人間は友達を作るんです」

それが希望。浅上凜がこれまでの人生で導き出した唯一の可能性。

この2つの決して相容れない道はどこまでも悲しく、どこまでも儚かった。

「…だったら仕方ないね」

凜を襲った突然のブラックアウト。その直前に見たのは、突如目の前にあった金色の瞳と自分の胸に突き刺さった漆黒の日本刀。

「……航…さん…」

瞬間、凛は強制的に意識を刈り取られた。

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