4@下位世界到着
日付が変わり、ボク達は光に包まれた。
そして、光が収まり視界が開けると、周りには誰もいなかった。
それどころか、せっかく荷造りした荷物すら見当たらない。
そして、光に包まれる時はAW内の軍服だったはずなのに、今はショッピングモールで服が変わる前まで来ていた、黒いTシャツに裾を折ったジーンズになっている。
それに、辺りを見渡し見えるのは木、木、木ばかり。
木に生い茂る葉の隙間はそこまで広くなく、あたりは薄暗い。その隙間からは眩しい光がさしていることから夜ではないことは確かだ。
そして木と木の間から見える遠くの方まで木で埋まっている。
「森……?」
下位世界に移動って普通に下位世界の都市とかに移動すると思ってた……。
現実は甘くないようだ。
せめて荷造りした荷物があれば、非常食を食べることができたのに。
「落ち込んでいてもしょうがないか」
ぽつりと独り言を言う。
まずこれからするべき事は、第一にこの森から出ること。次に人がいるところに行くこと。
森から出ようと歩いていたら、森の奥に向かって歩いてました、なんて事もあり得る。
うーん、なにかいい方法ないかなぁ……。
「敵だッ!! ディアだ!!」
突然後ろの方から聞こえる人の声。
その声は敵が現れたことを告げており、その声が聞こえたボクはすぐにこが聞こえた方向へ走り出していた。
この声が聞こえてきた方向に行けば森から出られる。もしくは道に出れるだろう。
それに、今のボクの力で役に立てる敵かどうかは分からないけれど、手助けに行っておいて損はないはずだ。
木の根を避けながらでこぼこした地面を走りながら両手に短剣を武器召喚する。
防具の方はこちらに移動する前から着たままだ。
走り出して数十秒。男性の悲鳴を何回か聞きながら走っていると、木と木の隙間から道が見え、そこには馬車とそれにつながれた馬に、血だらけで既に死んでいるだろう男が3人いた。
血だらけで死んでいる男の二人は革製の防具を身につけており、武器を持っており、もう一人は布でできた普通の服に武器は持っていなかった。
その死体の近くに2匹のディジーが立っており、口から赤い液体が垂れており、馬車から少し離れた位置を見ていた。
馬車から少し離れた位置には檻があり、その中には裸の少女が閉じ込められていた。
やばい、このままじゃ檻の中にいる少女も殺される!
走るスピードを更に上げ、道に出た時には既にディジーは少女の元へ駆け出していた。
「速い!?」
目の前にいるディジーはAW内で戦ったディジーや昼間現実世界で戦ったディジーよりも動きが速かった。
追いついて短剣で攻撃は無理、もし追いついたとしても二匹を同時にはきつい。
魔法も普通のならあの速さに必ず命中させるという自信はない。
なら―――――と瞬時に思考しある魔法を唱える。
「『氷壁』」
詠唱を破棄して唱えると、瞬時に檻を囲むように厚さ10cm程度の氷で出来た壁が出来上がる。
二匹のディジーの内一匹は自分の攻撃に自信があるのか更に走るスピードを上げ氷の壁に鋭く角のように額に生えた黒い結晶を突き刺す。
もう一匹は氷の壁は無理と判断したのか壁の前で急停止する。
止まらずに更に加速したディジーは氷の壁に黒い結晶がぶつかり、そのまま折れることなく壁に刺さっていく。
それを見たボクは驚いたが、もうボクの勝ちだ。
「『氷結』」
一旦動きが止まってしまえば『氷結』で氷漬けにできる。
二匹のディジーはそのまま抵抗する間もなく氷像となった。
「風よ、見えなき刃となり、切り刻め『風刃』」
すぐに詠唱して『風刃』を発動させ、氷像となったディジー二匹を切り刻む。
ボクの知っているものよりも強かった。
そう、ボクの知っているディジーならば動いている時でも『氷結』も当てることができるし、氷壁に体当たりなどすれば、額の黒い水晶が砕け、自滅するような強さだった。
しかし、今戦ったディジーは一旦動きを止めさせないと必ず当てれる自信がないくらいの速さで動き、氷壁にぶつかっても黒い結晶は砕けず、壁に刺さった。
気を付けないと、と再認識し、檻に閉じ込められた少女の元へ向かう。
「リリース」
そう言うと氷の壁はすぐに光が散っていき、跡形もなくなる。
この言葉はAWで使われていたもので、自分の唱えた魔法の効果を解除、消去する効果がある。
「大丈夫かな? 君は……奴隷だよね?」
水色の髪のショートカットで容姿も千秋のように美しいというより可愛いといった感じで街で歩けばすれ違った10人の男のうち9人は振り返って二度見くらいしそうなほど可愛い。
そんな彼女は檻に入れられており、首には首輪、腕と手には金属製の腕輪風の手錠があり、どう見ても奴隷にしか見えないけれど、一応確認のため聞いておく。
「……は、はい」
彼女が奴隷ということはあの男三人の誰かの奴隷ということだろう。
多分三人の中で唯一武装していなかった男が主人で他二人はその護衛とかかな?
これも一応聞いておこう。
「君の主人はどの人だった? 武装してない太った人? それとも武装してた二人の方?」
「え、ええと……、私はまだ契約される前なのでまだ主人はいないです。一時的に奴隷商人が主人でした」
「ほむほむ」
となると……。
あの三人の中で奴隷商人といって納得できるのはあの太った人のみ。ならあの人で間違いないね。
「ちょっと待っててね、鍵探してくるから」
少女の返事を聞く前に走って奴隷商人だった死体に近づく。
「……うっ」
臭いが半端ない。しかし、鍵を探すにはどうしても死体を探らないといけないので我慢して死体を漁る。
ズボンのポケットに手を入れ探る、何もなし。
上着の外ポケットにもなし。
内ポケットに手を入れるとなにか硬いものが手に触れる。
それを掴み取り出すと、予想通りの鍵の束だった。
鍵を持って少女の元へ向かう。
「鍵見つかったからちょっと待ってねー、今檻から出してあげるからね」
なるべく優しく、不安にならないように声を掛け、檻の鍵穴に適当に鍵を順番にあくまで試していく。
10以上の鍵の内半分を越えたあたりで檻の鍵は開いた。
「よしっ、次はその手錠を外そっか」
檻と同じようにいくつもの鍵を試していき手錠を外していく。
少女の手錠が外したあと、ボクは心の中でメニュー、アイテムボックス、と念じるが、何も反応はない。
うーん……、AWの容姿や力は使えるのに、アイテムボックスやメニューは使えないのかぁ……。
アイテムボックス使えたらその中にある服着させてあげれたんだけど……。
まぁないものは仕方がない。
ボクは今着ている黒いTシャツを脱ぎ、少女に渡す。
「い、いいんですか?」
「うん、でも、下は持ってないんだ。ごめんね」
「あ、ありがとうございます」
少女はそう言うと黒いTシャツに腕を通し、頭を通す。
黒いTシャツが大きいおかげで、少し短めのワンピースのように見えなくもない。
太ももが大胆に露出されていて少し目のやり場に困る。
そして、ボクは千秋からもらった黒い無地のブラジャーにジーンズである。
千秋にブラもらっててよかった……。
もしもらってなかったらこの子にTシャツ上げれなかったしね。
「よし、最後は、首輪を外そっか。……ってあれ鍵なんて付いてないね。なのに外れない。うーん……」
少女の首にある首輪には鍵なんてついていなかった。なので普通に外せると思ったのだが、なぜか全然外れないという不思議現象が起きている。
とにかく、今はここから離れたほうがいいのかな。
血の臭いを嗅ぎつけてなにか来るかもしれないし。
「一旦ここを離れようか。ねぇ、ここから一番近い村か街ってどっちの方角に行けばいいかな?」
「あ、あの。助けていただきありがとうございました。ここからならこのまま馬車が進んでいた道を進んでいけば歩いて数時間程でつくとおもいます」
「お礼なんていいよ、ただボクが助けたかったから助けただけだからねー。それにしても歩いて数時間もかかるのかぁ……。あ、あの馬車は、って馬なんて操れないし……」
ボクが馬に乗れたら馬に乗っていくんだけど、ちょっと無理そう。
まぁいずれ乗れるようになっておいたほうがいいかもしれないね。
「仕方がない、歩こう。 君は……あ、名前はなんていうのかな? 毎回君って呼ぶのもあれだし……、よかったら教えてくれないかな? ボクの名前はユーリだよ」
「私の名前はシーナです」
それからこの道、街道をシーナと話しながら歩いていた。
なんでもシーナが住んでいた村が魔物に襲われ、なんとか逃げ出したといったところであの奴隷商人に捕まったらしい。
そして捕まったシーナは愛玩奴隷として今向かっている街にいる貴族に売られる予定だったとか。
今回その貴族のもとに売り込みに行く途中にディアに襲われ、そしてボクが現れたと。
「奴隷には3つの種類があります。戦闘奴隷、労働奴隷、そして私などが当てはまる愛玩奴隷の3つです」
今現在シーナに奴隷のことについて教えてもらっている。
「でも、売られる前でよかったよね。貴族って太ってて傲慢で気持ち悪いってイメージしかないけど、そんなのに無理矢理やられるなんて……無理っ!」
ボクは今は女だ。だから常に気をつけておこう。
「ユーリ様、私をユーリ様の奴隷にしていただけませんか?」
「……え?」
変更点
・下位世界到着時にAW内の防具着用から優の私服に変更
・シーナの髪の色を水色に
・シーナの登場時、シーナが裸に、
・一番近い街まで歩いて半日から数時間に
・ユーリが露出