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5月10日(火)夕方1

5月10日火曜日 夕方1


 次の日、ナギは図書館で宿題をしながらアミの図書館の当番が終わるのを待っていた。


「ねえ、一緒に帰ろうよ。私ここで待っているから。」


 5時15分、カウンターで終了業務をしているアミに、ナギは声をかけた。その思い詰めたような声にアミは軽く息をのむ。


「もちろん、オーケーだよ。ちゃっちゃっと終わらせちゃうから、待っていてね。」 


★★★


 西向きの道路は全体に燃えるような金緑色に輝いていた。夕風がほほに心地良い。桜の花が一通り終わった道を2人で並んで歩きながら、ナギは咳払いをして、こう切り出した。


「……ねえ、気がついている?」


「何を?」


「最近本棚が変なことになっていること……。」


 かいつまんで本棚の本の配置がイタズラされていることを説明する。そして、ナギの考えた解釈を付け加えた。もしかしたら今回ページを破いた人と何か関連があるかもしれない。根拠は図書館の異変が始まった時期と、ナギが借りようとした本が先に借りられてしまうことが始まった時期が一致していること。


「えーっ、なにそれぇ? 根拠は『時期』だけなの! 考えすぎじゃない?」


 一通り聞き終えたアミは盛大に吹き出した。大笑いしながらナギの背中をバンバンたたく。その反応にナギはむしろ驚いた。


(そ、その反応はないでしょう? こんなに重大な事が起きているのに、そんなのんきな!)


「…だって! 私の考えが本当に当たっているとしたらだとしたら、これは図書委員に対するなにかのメッセージよ! ……もしくは挑戦状かもしれないわ。」


「おおげさねぇ。本の場所とか順番とか向きがちょっと変えられている位で。そんなに目くじらを立てなくてもいいと思うけど。」


 アミはナギの推理を一笑に付した。


「その、イタズラされている本って、『医学』やら『産業』やら『百科事典』やら、どちらかというとマイナーなジャンルばかりなんでしょ。じきに収まるのじゃないの? そうしたら年末にする大掃除の時にでも気をつけて作業すれば、そんなささいな『荒らし』は一網打尽だわよ。」


 「ささいな? なにいっているの! 確かにただ本を借りに来ているだけの生徒にとって、これはたいしたことではないかもしれない。でももし犯人が私たち図書委員にしか分からないようにわざとやっているのだとしたら? それも私はこの半年くらいで急に回数が増えているような気がするのよ。

 ……ほら愉快犯って、相手が気づかないと、どんどん図に乗って悪さをするって聞いたことがあるわ。エスカレートしたその結果があのページを破られたことだとしたら? 今回は私が見つけたから良かったようなものの、マイナーな本でページ破りされたらいくら図書委員でも気がつかないかもしれないじゃない。私はいやよ、痛んだ本が修繕もされずに書庫にずっと眠ったままになっているなんて!」


「そんな。『犯人』って、……。」


「じゃあ、『誰かさん』でもいいわ。もしかしたら『誰かさん達』かもしれないけど。」


 たじたじとなっているアミにお構いなしにナギはまくし立てた。


「つまりこれは図書館にとって重大な事件の前兆なのかもしれないのよ。それがこんなに分かりやすい形で出ているのにそれを見過ごせというの?!」


「もうわかった、分かったからちょっとお・ち・つ・い・て!」


 だんだん声が大きく荒っぽくなってきたナギを制し、アミは押しとどめるような仕草をした。そして肩で息をして本気で怒ってい

るナギの様子をまじまじと見ていった。


「ナギがそんなに怒っているの、初めて見た。すっごいね。」


 そしてみるみるうちに目が輝きだす。


「私なんだかわくわくしてきたよ。」


(え? 何いっているのアミ。ここは怒るところであって、わくわくするところじゃないでしょ。)


「アミ? 私のいいたいこと、ちゃんと分かってる?」


「いや、分かってる、分かってる、分かっていますよ。要はその『誰かさん』を捜し出して謝らせたいんでしょ。『ごめんなさい、2度とこんなことはしません』って。ま、確かにあたしも図書館でもめごとはごめんだわ。それにしても面白そうじゃない、要はミステリーだわね。それならこのワトソンならぬ和戸さんの出番だわよ。その話、乗った!」


 アミはちょっと真剣な顔になり、続けた。


「でも、1つだけ条件がある。」


「何……?」


 ナギの目をひたと見あげてアミはいった。


「応援団員、引き受けなさいよ。そうしたら協力してあげる。」


(なんで、ここでその条件を持ってくるのよ!)


 心の中でナギは頭を抱えた。とたんにしどろもどろになる。


「ああ、……それは、まだ考え中。なんていうか、……。」


心の中で踏ん切りがつきかねているナギはいい淀んで必死に言葉を探した。


「……お、応援団員については、みんなとの約束した日までに決める。だから今は返事しない。とにかく! 図書館の危機はいま、そこにせまってきているのよ! まずそれをなんとかしなきゃ。」


(こんな返事でごまかされてくれないかなぁ。)


「……ナギのこういうところ、なんかズルいのよね。引っ込み思案もたいがいにしてほしいな。だって、要は応援合戦のときの『客よせパンダ』みたいなものなんでしょ。もっと気楽に考えればいいのに。」


(やっぱり見すかされている!)


 ナギは言葉につまって思わず下を向いた。しかしアミは続けた。


「まあ、でも約束の日にはちゃんと返事をするってことで。じゃ、決まったも同然だね。オーケー。協力しましょ。」


 こうしてナギとアミの間で、密かに図書館探偵コンビが成立したのだった。


(つづく)

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