5月9日(月)放課後2
5月9日月曜日 放課後2
バトンパスの練習が終わると、ナギは運動部の集団から逃げるように着替えをすませ、足早に立ち去った。足はいつしか図書館に向かう。バトン練習が上手く出来なかったのは事実だから仕方がない。ナギは運動不足だ。それは認めざるを得なかった。しかし、まだすると決めたわけではない応援団のことまであげつらわれたのは気に障った。
愚痴でも聞いてもらおうとアミの姿を探したが、もう帰ってしまったらしく図書館にも居なかった。1人、うなだれた頭で無理矢理考える。なにか楽しいことを、前向きなことを。
……と、昨日読んだ単行本のストーリーを思い出そうとして、ついでにページが派手に破られてしまっていたことも思い出してしまい、最悪な気分にさらに輪をかけてしまった。
斜めにびりびりと引き裂かれて失われたのは、単行本のページは丁度1ページ分。
面白くて結局最後まで読み通したから、結末はもう知っている。しかし欠けてしまったそのページにが気になるあまり、いつまでも強制的に本のそのページのところに立ち続けているような感じだった。
(さっきのバトンゾーンと同じだ。いつまでも抜け出せない……逃げ場もない。)
ナギはとぼとぼと図書館の棚のあいだをあてもなく歩き回り、何となく行き当たった棚から黒っぽい表紙の写真集を1冊引き抜いた。タイトルは『マウナケアの空を見上げて〜ハワイの天文台』。カウンターで貸し出し手続きをすませるとカバンに入れ、図書館を後にした。
★★★
家に帰って夕ご飯を食べながら、両親にリレーの選手に選ばれたことをようやく告げた。しかし反応は予想通り。開口一番、父親はいった。
「そうか。……やっぱりおまえにも新開家の血がながれていたんだなぁ。」
しかしそれは褒め言葉ではない。その証拠に父親は話を続けた。
「まあ期待はしていなかったが。そういえば従兄弟のカイト君は、去年インターハイで……。」
と、今度は延々と親族の、それも何人もの「俊足自慢」が続いた。さらにはナギが運動部に頑として入らなかったことを引き合いに出して嫌みをいう。そして最後に一言。
「まあ、がんばりなさい。」
それっきり一方的に話は打ち切られた。『がんばりなさい』……この言葉が激励に聞こえるのは幸せな家の子供だけだ。ナギにとってこの言葉は重苦しいプレッシャーそのものだった。
(つづく)