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5月9日(月)朝

5月9日月曜日 朝


 寝不足のナギは始業時間ぎりぎりになってようやくクラスの自分の席にたどり着いた。予鈴がせき立てるように鳴り響いている。

見ると、すこし離れたところに座っているアミが、自分の席から携帯電話を振り回していた。派手な携帯ストラップが揺れている。ストラップにするにはどう見ても大きすぎるプラスチック製の星形。色も派手なレモンイエローだ。

 

 アミは身振り手振りで昨晩ナギが自分にメールしてきたことをいっているのだ。昨夜ナギはアミに『明日くわしく話す。』とメールしたから、そのことをいっているのだろう。口が「どうしたの?」の形にパクパクと動いた。ナギも「あとでね。」と口パクで返す。


★★★ 


 そして休み時間、図書館へと続く廊下のスノコのところでナギはアミと落ち会った。

手には昨日借りたばかりの『レグルスからの伝言』。


「メールではすごい剣幕だったけど、一体何があったの?」


 アミは興味津々、といった顔で聞いてくる。ナギは無言で、昨日借りたばかりの本を取り出しページをめくった。とあるページのところで手を止める。見ると、そのページは大半が斜めに裂かれるように破れてしまっている。


「ありゃ、ここのページ、破れちゃっている。うわぁ、ひどいね!」


 アミはページを指でつまんで左右に振った。大きく裂けた紙はペラペラと頼りなく、アミの指のなすがままになっている。


「……で、最後まで読み終えたの?」


「当たり前よ!」


 ナギは口を尖らせて下を向いた。新刊書を不完全な状態で読むのは全くもって不本意だった。しかしあまりにも面白く、どうにも続きが気になってしまい、結局昨晩のうちに完読したのだった。序盤からテンポ良く展開し、至る所に張り巡らされた伏線、緻密に織り上げられた壮大な物語にナギはぐいぐいと引き込まれていった。


 恋人失踪の手がかりを求めてハワイを訪れたローズが、万感の思いで獅子座流星群を眺めるシーンはなんとも切なくて、つい涙ぐんでしまったほどだ。それがためいっそう前に借りた人に対する怒りがわき上がってくる。そんなナギの様子をみて、アミがあごに手を当てて、とんでもないことを口にしはじめた。


「もしかして、これはミステリーかもしれないわ。」


大げさにうなずいてみせる。


「破り取られたページに犯人につながる重要な手がかりが隠されていたと思えば……。」


ナギはあきれて思わずアミの方を見た。


(アミはミステリー好きなんだっけ。)


「なにいってるの、本の中の話とごっちゃにしないで。やっと借りられた本だったのよ!」


 図書館の本は公共の物なのだから大切にしなくてはならないはずだが、本の破損は残念ながら珍しいことではない。しかしながら、だ。


(真っ先に予約をいれて借りる位なのだから、きっと本好きの人だと勝手に思いこんでいた。とんだ思い違いだった……。)


と、ナギは淋しく思った。しかしアミはあごに当てていた手をこんどはパッと開いて顔の前でひらひらと振った。


「ああ、もうこの話はおしまい。この本は落丁ということにして牛尾先生に交換できるか聞いてみようよ」


そしてナギに向き直って、声をひそめて聞く。


「で? それで本題は? 本当は昨日、一体何があったの?」


「……もう! いいよ!」


 アミの同情的な態度は結局のところ本心からではなかった。この件をとても軽く見ているようだ。


「あ、いいの? ふーん……。

そういえば、今日はこれからリレーの練習があるんでしょ、がんばって!」


(よけいなことを思い出させて……。)


 目の前で無邪気にガッツポーズを作るアミの笑顔を、ナギはイライラとにらみつけた。と、校舎の方から休み時間終了を告げる予鈴が鈍く響き渡ってきた。


(つづく)

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