表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/78

5月6日(金)放課後1

このサイトに初めて投稿します。

この小説は全78部に分かれています。

最後まで読んでくださったらうれしいです。

どうぞよろしくお願いします。


5月6日金曜日 放課後1


 新開ナギはイライラしていた。

 だから図書館に続く渡り廊下のスノコを乱暴に渡っていった。ダンダンと足で踏みつけるたびにスノコはガタガタ鳴り、夕暮れ迫る鞠山女子高等学校、通称「マリジョ」の校庭に響きわたった。


 話は30分ほど前にさかのぼる。終礼のあと、ナギはいつものように鞠山女子高等学校付属図書館に向かうため支度をしていた。

その日は図書委員会の当番に当たっていたからだ。すると背後で扉がするするとかすかにきしみながら閉まる音がした。それも前後の扉同時に。


「……!」


 嫌な予感がして振り向くとそこにはクラスメイトの大半が立っていた。女子校だからもちろん女ばかり。あっという間に取り囲まれ、皆一斉に口を開く。


「ナギ、おねがいっ!」


「あなたしか居ないのよ!」


「今回こそは8連敗中のわが2年C組、青組の勝利のために力を……!」


「ムリよ!」


 言葉をさえぎってナギはうわずった声をあげた。


「応援団なんて無理! 第一、さっきの体育の時……。」


「リレーの選手に選ばれたのは了解済みよ。みんなも一緒にいたもの。さっきチョーカイにお願いしたら、兼業オッケーだって。もち

ろん私たち応援団がフォローするから。」


胸を叩く応援団員の阿部さん。同じく団員の三津谷さんが脇でうなづいている。


「応援合戦の時だけちょっと真ん中に立ってくれたらいいのよ。」


「学ランもちゃんと用意するから。」


「あ、ハッピでも良いんじゃない? 青組だから、新撰組のイメージで! どう、作れないかな?」


 応援団でもないのに口を出してくるのは新聞クラブの歩川さん、でもそれは壁新聞のネタにしたいからに決まっている。


(それにしても、私なんかを指名するなんて! チョーカイも一体何考えているんだか……。)


 マリジョでは1学期に体育祭を行う。今年は6月3日、金曜日の開催だ。入学式に新学期、何かとあわただしい4月が過ぎても、マリジョの生徒には5月病を患っているヒマはない。この時期学校は体育祭一色になるからだ。

 女子校といえどもマリジョは運動部が充実しており毎年初夏に行われる体育祭は事実上3年生の引退前の花道となっている。

勢い、生徒達にも気合いが入るのだ。そしてゴールデンウィークが開けたばかりの5月6日金曜日、つまり今日。体育の時間に早速リレー選手の選抜が行われたのだった。


「ムリです!」


 さかのぼること3時間前、午後1番の体育の時間、有無をいわさずリレーの選手にしたのは何を隠そう担任兼体育教師の鳥海先生、通称チョーカイだ。その時もナギは同じ台詞を口にしていた。しかしチョーカイは一喝した。


「新開! おまえ普段の体育の授業、手を抜いているだろ。せっかく良い足を持っているんだから、たまには本気で走ってみろ。というわけで2年青組は、新開と陸上部の酒匂がリレーの選手だ。」

 

 ナギにとって体育祭はまさに鬼門であった。というのも、ナギはどちらかというと、おっとりした引っ込み思案の女の子だった。なので、部活には入っていない代わりに委員会活動、それも図書委員会に力を入れていたのだ。しかしそんな性格とは正反対に、ナギは体格が良く、さらに本人にとっては大変不本意ながら、走るのが速かった。

 それなのにいきなり体育祭で騎馬戦と並ぶ花形の種目、配点が高く、運動会の各チーム勝敗の大きな鍵を握るリレーの選手に選ばれるだなんて、重圧以外の何者でもない。それを今日、引き受けさせられたばかりだというのに、この上応援団の、しかも応援合戦のセンター役まで背負わされるなんて……。


「でもナギが立ってくれたら、みんな勇気100万倍なんだけどな。」


 後ろで声がした。ナギの親友、和戸アミだ。なんと彼女までもが皆の側に付いてしまったらしい。

この言葉に押されて人垣の包囲網が狭まってくる。みんな熱気むんむんで立ち上る湯気が見えそうなくらいだ。この暑苦しさがナギのイライラにさらに拍車をかける。


(このままじゃ押し切られちゃう、困ったな…。)


 頭の中で必死にこの状況からの脱出方法を探る。


「か、考えさせてもくれないの! 選択肢はないってこと?」


「じゃあ、1週間後待ってあげる。来週の金曜日までに返事をちょうだい。ねっ。」


「その、再来週の火曜日が青組の1回目の合同練習だから、それがタイムリミットよ。腹が決まったらすぐに応援合戦の練習、始めようね!」


 この言葉を合図に、包囲は解かれ、ドアは開けられた。各々が手を振りながらバラバラと解散する中、ナギは心のなかで舌打ちしつつ、つぶやいた。


(……みんな勝手なことをいうんだから。こっちの気持ちにもなってほしいわ。)


しかし、とにかく目の前の脅威は去ったのだ。さあ、急いで向かわなければ。図書館が待っている。


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ