茜色の日記帳〜Missing Mean〜
何となく、自分の机の掃除をしてみた。
すると、小さい頃、縁日にお母さんにねだって買ってもらった日記帳が出てきた。
ビニールカバーで、当時好きだったアニメのキャラクターが表紙だ。
誰かに見られないように、鍵も付いている、本に指しっぱなしだった。
懐かしさを思い出し、私は机に座って、その日記帳を開いてみる。
茜色の日記帳〜Missing Mean〜
【8月13日/水曜日/曇り】
最後の日付はこうなっていた。
年は、いつなのだろう。
最初のページからめくってみたけど、どこにも書いていない。
とりあえず、読んでみれば思い出すだろうと、日記を読んでみた。
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【8月12日/火曜日/晴れ】
『今日は良い天気だった。きっと明日も晴れるかな?
そうそう。明日、司君と二人っきりで遊びに行く予定を立てちゃった。
スポーツがとくいで、やさしくて、女子のあこがれの的。うれしい、楽しみ』
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私は疑問に思った。
『司君?』
記憶にない、誰だろう……次の日付のを読んでみる。
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【8月13日/水曜日/くもり】
『楽しみで眠れなかった。えんそく前みたいだったなぁ。
早起きして、お母さんにお弁当作るの手伝ってもらった。ホントは自分一人で作りたかったんだけど……
りょうりなんて初めてだから、わたしのが美味しくなかったら、司君こまると思った。
二人で、じてんしゃにのってとなり町の公園に行った。
公園で二人でお弁当を食べた、わたしのを食べて、司君はこまった顔をしていた、もっとがんばろうと思った。
お弁当食べて、お話をして、その後帰った。明日は何をしようかな……』
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8月14日………無い。
次のページには、日付も、曜日も、天気も、書かれていなかった。
ただそこにあるのは、ほんの少しの紙のたわみだけ。
『………わたし、どうして書くの止めちゃったんだろう……』
司………司君……
誰だろう、思い出せない………
好きだった、わたしが好きだったはずの男の子。
つ…か…さ…
つぅと、頬を伝う、ぬくもり。
「あ…………つかさ………君」
気付けば、涙がこぼれ、日記帳の上にぽたりと落ちる。
涙は、乾いて、ほんの少しのたわみを作った。
思い出した。
どうして忘れていたのか。
好きだったはずなのに。
いや、好きだったからこそ、認めたくなかったのだろう。
もう、会う事が出来ないなどと。
死んでしまったという事を。
わたしはそっと日記を閉じて、鍵をかけた。
机の底の、小さな記憶。
鍵のかかった小さな思い。
わたしは、日記を、再び元有った、机の奥に仕舞った。
誰にも知られぬ、過去のわたし。
おやすみなさい。
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【8月14日/木曜日/雨】
『司君が死んだ……きのうの帰り道、事故で……司君が………』
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消しゴムの跡がかすかに残る、最後の日付。
涙でにじんだ、最後の日付。
―――さようなら――
―――そして――――おやすみなさい。