39. あられもない
朱雀の首根っこを掴んでいた景朔は晴れやかな笑みを浮かべて采蓮と凌霄に向かって口を開いた。
「いやぁ、お二人ともお見事でした。おかげさまでこちらの詐欺師を無事捕獲できましたよ」
「あんた、この男がここに来ること読んでたんですか?」
采蓮の疑わしげな視線をどこ吹く風で受け流す景朔。手をぱたぱたと振ってみせた。
「いやいや。流石にそこまでは予測はしておりませんでしたよ。
……ただこの男、あなた方から逃げた後もこの辺りに留まっていたことだけは掴んでいましたので、試しにお二人をここに送ってみたら……
いやぁ、ほんと。我ながら神算鬼謀?」
「相変わらず腹立ちますね」
「うむ。そもそも私一人でも何とかなったのだが」
凌霄が不満げに口を挟んだ。
それはそうだろう。あれだけ圧倒的な力があれば、搦め手など使わずとも朱雀を真っ向から捕らえることもそう難しくはなかったはずだ。
「捕まえられれば何でもいいじゃないですか」
そうぶった切った采蓮は、極寒の視線を凌霄に向けた。
「それよりあんた、いつまで素っ裸でいる気ですか」
「ハッ……」
言われてようやく、凌霄は己の状況に気づいたらしい。
謎の原理で大事なところは光に包まれ隠れているが、赤ん坊からいきなり大きくなったせいで今の凌霄は生まれたままの姿である。
「おや、私は凌霄に見せつける趣味でもできたのかと思っていましたよ」
景朔が面白そうに目を細め、朱雀に至っては値踏みするような視線を送る。
「ええ体しとるやん。それだけで稼げそうやで。」
三者三様の反応に晒され、凌霄は慌てて虚空を掴んだ。
召喚されたのは、采蓮の家に保管されていたはずの道服だ。
「色々あって……その、忘れていたのだ!」
ほんのり頬を染めながら、いそいそと内衣に袖を通し始める凌霄。
その背中に、采蓮の溜息が突き刺さる。
「というか、疑問なんですが。なんでいきなり戻ったんです?」
采蓮はずっと気になっていたことを尋ねた。
陽の気に振れ続けて活性化が限界まで進み、赤ん坊になってしまった。
そこまではいい。
なぜ戻ったのか? それも突然。
「あぁ……恐らく、“物極必反”の理が働いたのだろう」
「なんですか、それ?」
采蓮は首を傾げた。
中単に袖を通し、帯を締めながら凌霄が説明する。
「物極まれば必ず返る、だ。
陽の気が私の中で限界まで極まったせいで、陰の方向に反転する力が働いたのだろうよ」
「……なるほど」
よくわからん。
これ以上聞いても難しいことはよくわからない。采蓮は割り切った。
そこで、パン、と手を叩く音が聞こえて振り返った。
「いやぁ、めでたしめでたし、ですねぇ」
景朔である。
「まだ片付いておらんだろう。此奴を捕らえても、気の歪みが正されたわけではないぞ」
凌霄が真面目くさって景朔に指摘した。
「それはこの諸悪の根源に尻拭いさせますよ。大丈夫、大丈夫。私がちゃぁんと監督しますので」
「……俺、自分より胡散臭いヤツ初めて見たわ。あんたええ詐欺師になれるで」
「あはははは。君は詐欺師を名乗るには素直すぎますねぇ」
詐欺師が詐欺師の面倒をみると言い出した。
「どうでもいいですけどおたくらとは二度と関わりたくないです」
ススス……と采蓮は景朔達から距離をとった。
「ふふふ、まぁそう仰らず。私はあなたとはこれからもお付き合いしていきたいと思っているのですよ、采蓮さん」
采蓮の名前を呼んだ景朔に、ピクッと凌霄が反応した。
采蓮はそれには気づかず、嫌そうな顔をするだけだ。
「ではでは、私はこの男を連れて後処理に向かいますので。
あとはお二人でごゆっくり〜」
しゅるんっ
朱雀を後ろ襟を猫のように掴んだまま、またもや景朔はあっという間に消え去った。
「娘よ」
しばしの沈黙の後、きっちりと隙なく道服に身を包んだ凌霄が采蓮に向き直った。
「なんですか?」
「とりあえず帰ろう」
胸のあたりを擦りながら凌霄が采蓮を急かすように腕を掴んだ。
「え、あ、はい……」
特に拒絶する理由もない采蓮が頷くと、それを合図に凌霄は術を発動した。
二人の周りに風が吹き上がり、次の瞬間采蓮の視界が真っ白になった。




