35.わたし、天才?
「いやぁ〜、予想的中でしたね。私、天才?」
「あ?」
景朔は予告通り、采蓮達を道観に送ってからちょうど三日後に姿を表した。
その軽いノリに思わずドスの効いた声が采蓮から漏れる。
「予想的中とは、あの詐欺師めがここに来ることを予想しておったのか?」
意外と冷静な凌霄が短い腕を一生懸命組んで尋ねた。
「ええまぁ。彼の者の出没箇所を点で繋ぎまして、おそらく次はここだろうと当たりをつけましてね。
見事的中はしたのですが、私が思ったよりも少し早かったですねぇ……
今日あたりと思ったのですが。見逃してしまいました。」
「わかってたなら先に言ってくださいよ。あんたが最初からいたら捕まえられたんじゃないですか?」
采蓮の視線が冷たく景朔に突き刺さる。
「おふたりとも、奴には思うところがおありでしょ?直接対決したいかなと思いまして。
それに、やっぱりこういうことは先に知ってたら面白くないじゃないですか。
でもまぁ面目次第もございません。
凌霄が取り逃がしたのは、そこを計算違いした私の責任でもありますし。
凌霄が取り逃がしたのは」
「二度言う必要あるか?」
ひと通り二人を煽って遊んだ景朔が一息ついたようににっこりと微笑んだ。
「まぁまぁ、お二人とも落ち着いて。
かの詐欺師ですが、詐欺行為自体は小悪党のソレなんですがねぇ……
いよいよ地脈が乱れてあらゆるところで障りが出始めまして。
笑っていられない状況なのですよ」
「笑ってたのはあんただけですよ」
不機嫌に采蓮がツッコんだ。
本当にこの天仙はやる気があるのか。コイツが動けばすぐに解決するだろうに。そう思わずにはいられない。
「お嬢さんの言いたいことは理解しているのですがね」
珍しく景朔がふざけた空気を霧散させ、憂いを帯びた瞳で口元を袖で隠した。
「私は”理”に雁字搦めにされた存在なのですよ。
色々と、地上で動くには制約があるのです。
まったく、上はなんとかしろと言うくせにあれは駄目これも駄目と……
……あ、あと忙しいのも本当ですよ」
ちょっとかっこいい雰囲気を出したかと思えば、途中から中間管理職の悲哀を愚痴りだした景朔。
「そういうわけでして」
「どういうわけですか?」
「ちょっとお二人に見てきてほしい村があるのです」
「聞けよ」
遂に采蓮は鈍器を手にした。
部屋にあった文鎮である。
「ああ、ご乱心!」
後ずさる景朔に向って振りかぶった采蓮だが、凌霄にとんとんと宥めるように背中を叩かれた。
「気持ちはよくわかるが落ち着け、娘よ。
あの詐欺師を捕らえてぶっ飛ばすと言っていたではないか。
その憤りはそれまでとっておけ」
采蓮が文鎮を握りしめながらもその言葉を聞いて不承不承腕を下ろすと、景朔がほっと息をつく。
「いやはや、申し訳ありません。私の方も多少焦っておりまして。
お二人に行ってほしい村というのは、かの詐欺師がどうこうしたわけではなく、その影響を受けて自然発生的に生まれてしまった歪みなのです。」
「ほぅ……遂にそこまで来たか」
「ええ。地図はこちらに」
景朔が懐から地図を取り出した。
それを覗き込む凌霄と采蓮。
「ここからそう遠くないな」
「針の近くに歪みが生じるのは必定でしょう。
……で、この村はよろしくない噂が流れているようでしてねぇ……」
「噂?」
「ごろつきが寄せ集まって集落を形成したようなのです」
「行きたくないです」
そんな治安の悪いところに村娘の采蓮と幼児化した凌霄を送り込もうとしているとは、どこの鬼畜か。
「大丈夫大丈夫、今回は私もちゃんといますって〜」
「何も信用できない」
「そう仰らずに。必ずあとから合流しますので」
「ちゃんといるって言いませんよねそれ?」
「娘よ、大船に乗ったつもりでおればよい。私がいれば十分だ」
「あんたは黙っててください」
凌霄が会話に入ってきたことでさらにその場は混沌と化し、うやむやの内にごろつきの村に行くことになってしまった。
不安しかない采蓮である。




