33.ついに対面
周囲にいた僧侶たちが不審げに采蓮たちを見る。旅の道士がなぜこんな子どもを気にするのかわからなくて困惑しているといった様子だ。
「あぁ、ちゃうちゃう。ちょっと気になることがあったさかい、この子らに聞こう思っただけや。ここの温泉には問題あらへん。
……ちょっと場所移そか?」
口調は軽いが、「逃さんで」という圧を感じて采蓮の背に冷や汗が流れた。
まさか件の偽道士といきなり鉢合わせるなどと想定していない。
チラッと凌霄に目を向けたが、何を考えているのか、ただ目の前の男をじっと見ているだけだ。
寺の敷地の中で、適当に腰掛けられる岩を見つけた糸目の男は座り込んだ。
「あの針壊したの、おたく?
バーっと派手に温泉で噴水でも作ったろ思っとったんになぁ……」
いきなり核心に触れられてゴクッと喉が鳴る。
なんと返すべきか……
采蓮が悩んでいると、凌霄が口を開いた。
「左様。針を壊したのは私だ。そなた、そこかしこで随分派手にやっておるな」
見た目にそぐわぬ口調で話し出した凌霄に男が目を見開く。
「なんや自分。随分顔のええガキがおると思ったらそっちが本命かいな。え、なに? どゆこと? 天才少年か?」
困惑した表情で采蓮と凌霄を見比べている。
凌霄はフン、と鼻を鳴らして胸を張った。
「私が天才であることは否定せぬが少年ではない。この姿は貴様のおかしな術のせいで陰陽が乱されておるだけで、私は正真正銘の仙人だ」
ぶっ
男が吹き出した。
「はぁ!? 仙人? ほんまもんの?
そないなちんちくりんが?」
「ちんちくりん言うな!」
ケラケラと楽しそうに笑う男に食って掛かるちんちくりん。
「俺の術のせいでちっさなっとるん? 仙人様が?
そら傑作やわ」
男は細い目の端に溜まった涙を拭いながら笑いをおさめ、にんまりと笑った。
「ええ気味や。俺は仙人とかいうお高くとまった奴らが嫌いやねん。
…まぁ、なんで俺の針が壊されたかわかったしもうええわ。仙人が関わっとるならしゃあなしや」
凌霄を煽るだけ煽って、そのまま立ち去ろうとする男に凌霄が立ちはだかった。
「このまま帰すと思うか。捕らえさせてもらうぞ」
「こないなチビにどうこうされるほど甘くないわ」
凌霄が札を取り出して男に向かって術を放とうとして、風が明後日の方向に飛んでいく。
「あはははは、何処に放っとんねん。やっぱ大したことないやん」
「くっ……娘よ! 抱っこしろ!」
「この状況で何言ってんだあんた」
「ぎゃはははははは」
陽の気に振れて力の制御の効かない凌霄が、まじりの血のせいで陰の気を内包する采蓮に抱っこをせがむ。
理屈はわかるが、どうにも緊迫感が感じられず思わず采蓮はツッコんだ。
仕方なく凌霄を抱っこしながら、時間稼ぎに男に話しかける。
「自分がしてることの悪質さ、理解してるんですか?」
「はぁ? なんや、いい子ちゃんか?
ええやん別に。俺は助けたってんねんで」
「困らせてるのもあんただろ」
「やとしても、や。俺がその後にもっと良くしとるんや。何が悪いん?」
采蓮が言葉に詰まっていると、凌霄がもう一度札を持って術を放った。
今度はまっすぐに男に向かって飛んでいく。
「そたなのしていることは歪みを招く。いずれ取り返しがつかなくなるぞ」
男は器用にひょいっと避けてみせた。
「あーあーうざいわ。歪みだなんだって、理が飯食わしてくれんのかいな。
……まぁええ。あんたらと話すだけ無駄やわ」
そう言って、今度は男は御札を取り出し、器用に風を蹴るようにして逃げてしまった。
「く……取り逃がしたか……」
「……」
なんとも言えない気分で采蓮は黙り込んだ。
あの軽いノリの男が、今まで出会ってきた救いという名の歪みをばら撒いていたのか。
そう思うと、今更ながらに沸々と怒りが湧き上がってくるのを感じた。
「あいつ、ぶっ飛ばしたいですね」
「同意だ」
二人の気持ちが一つになった瞬間だった。




