31. おっきな瓜がふたつ
***********************
大人の凌霄と景朔がうふふあははと追いかけっこをしている。
景朔が凌霄に向って「えーい」と饅頭を投げ、凌霄は「わん!」とそれに向って飛び上がり、口でキャッチしてもぐもぐ食べた。
饅頭を食べた凌霄はいつの間にか5歳児の姿になっていて、みるみるうちに幼児が巨大化していく。
采蓮は彼の尻に押し潰されて――
*************************
「うぅ……尻……なんで饅頭食うんだよ……」
「なんの夢を見ておるのだ?」
その声を聞いてぱちっと采蓮の目が開いた。
「夢か……」
発熱の影響か、体がぐっしょりと湿った感覚で気持ち悪い。
采蓮がゆっくりと体を起こすと、額に乗せられていた手ぬぐいが落ちた。
よく見ると、清潔な白い道服のようなものに着替えさせられている。
「急に動くでない」
凌霄が采蓮を窘め、その小さな手のひらを額に当てた。
「ふむ……熱は引いたようだな。無理が祟ったのであろう。もう少し休め」
「この衣は?」
「ここの女道士に頼んだ」
また随分と迷惑を掛けてしまったようだ。
「とりあえず、汗を拭きます」
熱を出し切ったせいなのか、頭もスッキリしているし身体のだるさも消えている。
自分で手ぬぐいを桶に浸し、硬く絞って身体を拭き始めた采蓮に、凌霄が眉を寄せ、背を向けた。
「そなた、少しは恥じらいというものを持たぬか」
「恥じらいを感じるような相手がこの場にいないので」
「私がいるだろう」
「ちょっと何言ってるかわからないです」
ムッとした凌霄が開き直ったように振り向いて胡座をかいた。
「せっかく温泉があるのだ。そなた元気そうだし、少し浸かってきたらどうだ? 私はもう3回浸かったぞ」
浸かったんかい、とツッコミたくなったが、まぁぶっ倒れたのは采蓮の落ち度なのだ。責めはしまい。
「私、どれくらい寝てました?」
外は暗いようだ。
この道観に飛ばされたときはまだ朝と呼べる時分だった。
「半日ほどだな。
安心せよ。景朔が3日後と言ったのだ。
それまでゆっくり養生するとよい」
「だといいんですけどね……」
あの食えない天仙のことだ。なにかあるに違いないと勘ぐってしまう。
かと言って身構えていても仕方がないのはその通りなので、凌霄の提案に乗ることにした。
渡り廊下をひとり歩きながら考える。
(温泉なんて初めてだ……)
采蓮はなんだかんだ言ってワクワクしていた。
一度は訳もわからず凌霄の手を引っぱって出てきた湯殿にもう一度足を踏み入れる。
下衣を着たまま、軽く体の汚れを流してから入るものらしい。桶で体にお湯をかけ、手ぬぐいで擦る。
(贅沢だなぁ……)
こんなにたくさんのお湯を使うことなんて普段ならとてもできない。少しの後ろめたさを感じながらも、そういうものらしいので遠慮なく体を流した。
ちゃぷ
足先をそっとつけると、一瞬熱く感じてぱっと離れる。
今度はしゃがみこんで、さらにそぉっと足を入れていく。
「ふあぁ……」
思わず変な声が漏れた。
体の冷えが一気にお湯へと溶け出して、代わりに熱が入ってくるようで、反射的にぶるっと体が震えた。
「ふふっ」
人の笑い声が聞こえてきて、采蓮はハッと声の方を向いた。
湯気の向こうに人影が見える。
「ごめんなさい。あまりに気持ちよさそうになさるので……
お加減はもうよろしいのですか?」
瓜が2つ浮いている。
思わずそう思ってしまった。
湯けむりの向こうから姿を表したのは、下衣からはちきれんばかりの素晴らしいものをお持ちの美女だった。泣きぼくろがなんとも悩ましげである。
思わず自分のまな板を見下ろしてからもう一度瓜を見てしまった。
「ええと……あなたは……」
「ああ、そうですわね、先程は眠ってらしたから。
私はこの道観の道士で、明華と申します。
采蓮様が倒れられた際にお着替えなどをさせていただいたので、私だけ知り合いになった気でおりました。」
「なるほど。先程はご迷惑おかけしました。助かりました」
温泉の中で互いに頭をペコペコ下げ合う二人。
とりあえず采蓮は世間話として温泉の話題を上げることにした。
「ここ、すごいですね。お湯がずっと出続けるなんて不思議です。これに日常的に入れるなんて羨ましい」
「ふふ、そうですわね……」
明華がにこにこした顔を一転、頬に手を当てて憂いを帯びた瞳で ほぅ、とため息をついた。
「でも……こんこんとお湯が出続けているのはここだけなのですよ。
実は、麓に庶民向けの温泉があるのですが……そこはお湯が出なくなったと騒ぎになっているようなのです」
(おやぁ……?)
雲行きが怪しい。
温泉が出なくなっている町。その近くに景朔によって送られたという事実。
「このような時に、天仙様が遣わしてくださった使者様がお二人。まさに天道ですわね。」
憂い顔が一転、晴れやかに うふふと笑う彼女。なぜだろう、なんとなく景朔と似た匂いを感じる。
ここの道観の道士は景朔に毒されているのか。あんな仙人を量産する道観なら滅んでほしい。
とりあえず明華には愛想笑いしながら明言を避けて湯船から上がり、そそくさと湯殿を後にした。
(とりあえず道士様には黙っておかないと……あの人なら絶対「調べにゆこう」とか言うに決まってる)
そう思いながら部屋の扉を開けた。
「委細私に任せよ! 不自然は正さねばならぬからな!」
「「「おおぉ〜〜〜〜!!!!」」」
パチパチパチパチ
偉そうな5歳児が胸を張り、その周りを徳の高そうな道士たちが囲んで拍手している。
(…………)
予感はしていた。
していたのだが……
(はっ倒したい……)




