22.凍えない村③
2話投稿します。
その時、隣の凌霄が采蓮の手を引いた。
「針を探すぞ」
ぐいっと引っ張られて采蓮が戸惑う。
「でも……偽道士はもうこの村にはいないみたいですし……とりあえずこのままにしておいてもいいんじゃないですか?
芋の村はそうしたじゃないですか」
死と隣り合わせの冬。
それによって守られているというなら、せめて今だけは。
そう思わずにはいられなかった。
「あの時とは違う。私は針を壊せる」
「そうかもしれませんけど……
道士を探し出して、そいつに解かせればいいじゃないですか。
少なくとも私達が泥かぶる必要ないです」
そうだ。
わざわざ嫌われ役をすることはない。
悪いのは人の不幸に付け入って外法を使う偽道士なのだから。
「だめだ」
きっぱりと、凌霄は言いきった。
黒曜石の瞳が采蓮をまっすぐに見つめる。
「これは、自然ではない」
采蓮はぐっと詰まったが、それでも引き下がらなかった。
「……っ、だから、このままでいるべきだなんて私も言ってませんよ。
けど、一旦、ひとまず、そっとしておこうって言ってるだけです。」
「そなたの優しさはよいものだ。私はそれが好きだ。
……だが、私は仙人として、これを正さねばならぬ」
「……わからず屋」
「なんと言われようと変わらぬ」
説得が無理だと察した采蓮であったが、かといって割り切ることはできなかった。
村人たちに「この状況は不自然だから死んでくれ」というようなものだ。そんなこと言えるわけがない。それが采蓮の答えだった。
「わかりました……好きにしてください。
でも、私は手伝いませんからね」
「よかろう。これは私の信念の問題だ。そなたには関係ない」
関係ないと言われて突き放されたような気分にもなり、采蓮は苦い表情で凌霄から手を離し、振り返らずに村を出た。
彼女自身、少し意地にもなっていた。
村の入口を一歩出れば、冷気が全身を刺すように貫いて体温を奪ってくる。
それでも中には入らずに、その場に膝を抱えて蹲った。
どれくらい時が経ったのだろう。
凍えた采蓮の体は指先から感覚が消えていくようで、頭には雪がかぶさり、まつげには霜が降りてしまった。
(まずい……このままだと、凍死する……)
そんな思いがよぎり、村に戻ろうかと考え始めたその時、采蓮の頬を温かな風が撫でた。
(もしかして、)
采蓮は目元を袖で覆い、目を閉じる。
まるで、大量の蛍が飛び交っているような光景だった。
(きれい……)
一瞬それに見惚れていた采蓮だったが、ハッとして立ち上がる。
凌霄はどうしたのか。恐らくこれは彼が針を壊したということなのだろう。
「!! 道士様!!」
彼の小さな影が村から出てきたのを認めて慌てて駆け寄った。
その額には石でも投げられたのだろうか、額から血が流れ、口元は赤く腫れていた。
村人たちとどんなやり取りをしたのかは知らない。
だが、小さな子供に見える凌霄を殴ってしまうほど、ここの村人は逼迫していて、偽道士の外法に救われていたのだ。
「大事ない。やることは済んだ。村を出よう」
「怪我してるじゃないですか」
「これは私が負うべきものだ」
それを聞いて采蓮の眉がぐっと寄る。
違う。この傷を負うべきは偽道士だろうに。
「全く……不器用すぎでしょ、あんた」
そっと凌霄の頬を両手で包み込んだ。
彼の活性とやらが、少しでも和らぎますように。




