21.凍えない村②
「急に暖かくなりましたね」
その村に入ったとき、采蓮が一番に思ったことだ。
肌寒いくらいだった気候は村に近づくにつれて真冬並みに寒くなり、そこまで重装備なわけでもなかった采蓮は凍え死ぬかと思うほどだったのだ。
だが、村に一歩踏み込めば、温かな風が肌をなで、冷え切った身体にじんわりと熱が行き渡る。
「うむ。村に陽の気を満たしたのだろう。どうやら結界を張り逃さぬようにしているようだな」
凌霄が仙人ぽいことを言っている。
やっぱり”まじり”の目なんてなくてもやれるんじゃないかと言いたくなって隣を見た采蓮は、そこでふと違和感を覚えた。
「……なんか、また縮みました?」
「む?」
凌霄が袖を持ち上げた。
結局女装はやめて、旅立ちの前に采蓮が死んだ父親のお古を裾上げしてやったのだが。
ちなみに、元々凌霄が着ていた道服は戻ったときの為に家に干しておいてある。
「確かに、少し袖が余っておるな」
「10歳児くらいに見えますよ」
「む……」
よりショタ感の増した凌霄が難しい顔をする。
「陽の気を囲い込む村に入り、ただでさえ活性化していた身体がさらに活性化されてしまったのやもしれぬ」
そう言って凌霄は采蓮の手を握ろうとした。
察知した采蓮がひょいっと避けて空振りする。
「なんですか」
「手を握らせてくれ」
「嫌ですけど」
「なぜ」
傷ついた顔で采蓮を見上げる凌霄。
「なんか嫌です」
「えっ」
愕然とした顔で固まっている。
14歳くらいの見た目だったときより更に見る者の庇護欲をそそるであろう凌霄少年の顔面に、采蓮はげんなりした。
「なぜそんな事を言う……そなたに触れると少しばかり活性が抑えられると言ったではないか……なんか嫌とはあんまりな物言い……」
凌霄は更に付け加えた。
「……いじわるめ」
ボソッ
「ほぉん」
「嘘だ。冗談冗談」
慌てながらドサクサに紛れてぎゅっと采蓮の手を両手で握りしめ、上目遣いに小首をかしげてきた。
「な?人助け、いや仙人助けだと思って」
「なぜだろう引っ叩きたいのは」
そう言いながらも采連は結局折れた。
見慣れない年若い娘ととんでもない美少年が手を繋いで小さな村を歩いていれば、否応なく目立つ。
赤子を抱いた女が二人に近づいてきた。
「あなた達……こんなところに何しに来たの?誰かの親戚?」
姉弟にしてはあまり顔が似ていないし、この奇妙な二人組に対して不審な、というよりは好奇心に満ちた視線を向けている。
「いえ……この村に、道士を名乗る男が来ませんでしたか」
采蓮が代表して尋ねると、女はパッと表情を明るくした。
「ええ! いらしたわよ。名乗られなかったけど、きっととても高名な道士様なんじゃないかしら。
……あの方のおかげで、この子は冬を越すことができるんだもの……」
愛おしげに赤子を抱き直す母親。
よく見れば赤子も母親もやせ細っていた。
(ギリギリなんだ……この村は)
采蓮の顔が強張った。
自分たちは、偽道士を追うついでに異常を正常化しに来た。
だが……
(針を壊したら、この村はどうなる……?)




