2.出会い②
「ん? なんだ、そなた”まじり“であることを隠しておるのか?」
采蓮の硬い表情に納得した顔で、少し得意げに続ける。
「安心せよ。仙人たる私だからわかったことだ。只人にわかるようなものではない。」
男は顔を近づけたまま、クイッと采蓮の顎を持ち上げた。
穴にはまって土まみれ、木の葉まみれなくせに、香を焚きしめたような香りがふわりと采蓮の鼻を突く。
腰を屈めながら采蓮を覗き込む黒曜石のような瞳はどこまでも見透かすようで、さっきまでのふざけた男と同じとは思えない。
「……良い“眼”をしておる。」
咄嗟に、血が上った。
(…………っ)
パシッ
采蓮が男の手を払った音が鋭く響いた。
「仙人ってのは、他人の事情にズケズケと土足で入り込んでくるモノなんですか」
硬い声で睨みあげてくる采蓮に、男は目を見開き、戸惑うように払われた手を擦った。
「お、怒っておるのか……?」
つい今しがたの底知れない雰囲気があっさりと立ち消え、男はオロオロしながら采蓮の顔色をうかがっている。
そのあまりの落差に、采蓮の脳内の沸騰は急激に鎮火していった。
心の柔らかい部分に触れられ、ついカッとなった自覚はある。
采蓮は、気まずくなり目を逸らした。
「別に。すいません、仙人に失礼でしたね。あなたが空気を読めないのは尻だからでした」
「尻!? なんだ尻って!?」
「尻は尻です。尻仙人」
「尻仙人!?」
不名誉な称号を与えられ、涙目になる男。
「なんなのだ……」としょぼくれている。
しばらくして、ようやく自らの言動が采蓮の怒りを招いた事実と向き合うことにしたらしい。
小さくため息をついて采蓮に向き直った。
「すまなかったな。俗世を捨て長く生きてきたゆえ、人の心の機微というものに疎くなっておるのだ。
……ただ、そなたの目が美しいと思った。それだけの話だ。」
そこで言葉を区切り、くわっと目を見開いて詰め寄る
「だが! 私を尻仙人などと呼ぶのはよせ!
私の名は“凌霄”だ。
そのような不名誉極まりない呼び名はさっさと捨てろ!」
「はぁ、この先呼ぶ機会はないと思いますが覚えておきます」
「なぜ。」
「なぜ」が「なぜ」である。この男とこれ以上関わる気が采蓮にはないのだから。
采蓮は再び歩き始めた。
凌霄もまた当然のように並んで歩き出した。
「そなたの家までどれくらいだ?」
「その籠持ってやろうか」
「なぁ、なぁ」
うざ絡みしてくる凌霄。
「チッ……」
「えっ、いま舌打ちしたのか?」
「気の所為ですよ」
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暫くして集落が見えてきた。
采蓮の家は村に入ってすぐの小さなボロ小屋だ。
戸口はガタつき、たまに雨漏りもする。
「ほう……ここがそなたの家か。風情があって良いではないか。」
結局家までついてきた凌霄が何やらいい感じにボロを言い換えてキョロキョロしている。
穴で冬眠しようとするような男なので本気かもしれない。
「送ってくださりありがとうございました。では、お帰りはあちらからどうぞ」
采蓮は慇懃無礼に頭を下げて出口を指し示した。
仙人とか礼とか意味がわからないし、とにかく帰ってほしいのだ。
「何を言っておる。帰るつもりなどないぞ。」
対して凌霄はキョトンとしている。
むしろ、胡座をかいて床に座り込んでしまった。
「言ったであろう、礼がまだだ。私の力が戻るまではここにいさせてもらう。」
「は?」
小屋に不釣り合いなキラキラしいホームレスは床に根を張ったように動かない。
上等そうな衣が着る人とともに光り輝いている。
(ぶん殴りたい……)
拳を握りしめながら、口元を引きつらせる。
「いらないって言いましたが?」
「そういうわけにはいかぬ」
(話通じね〜〜〜〜〜~!)
「迷惑です」
きっぱりと言い切った。
この空気の読めない尻にははっきり言うしかない。
だが……
「諦めろ」
にっこりと、とろける様な笑みで跳ね除けられた。
2/23改稿しました。




