18.結局は
景朔が笑いながら消えた後、部屋にはなんとも言えない空気が残った。
「……仙人っていうのは変わり者じゃないとなれないんですか」
「どういう意味だそれは。私をあやつと一緒にするな」
「あんたが一番変だが?」
尻のくせに、と言いたいのをこらえながら、はぁと疲労感に満ちたため息を吐く。
「……それで、これからどうします?」
「うむ……まずは着替えたいな……」
凌霄が、着ている采蓮の衣を見下ろす。
本来は着るものに頓着などない凌霄だ。だが、今は散々景朔に笑われたせいで むぅと唇を尖らせている。
「似合ってますよ」
「知っておる」
間髪入れずに自己肯定感満載の返事をされた。
さもありなんである。嫌味にすらならない。
「では解決ですね。それあげます」
「娘よ」
「似合ってますよ」
「それとこれとは話が違う」
そこで、凌霄がずんずんと部屋の中を突っ切り、脱ぎ捨てられたびしょ濡れの道服を持ち上げた。
俯きがちに顰められた眉。
「これは……矜持の問題なのだ」
「それ今更言っても説得力ないです」
矜持云々というなら女物に着替える前に言えという話である。
「そんなびしょ濡れじゃしばらく乾きませんし」
凌霄が自ら暴発させた水球がぶっかかった衣はずっしりと重そうで、ぽたぽたと水滴が滴っている。
「それなら簡単だ。水気を飛ばすくらいわけがない」
「ちょっと待った」
何やら凌霄が仙術か何かを使おうとしたのを察知して止めに入る。
「なんだ?」
「今何しようとしました?」
「風で水気を飛ばそうと……」
「それ、ほんとにできます?」
采蓮に尋ねられると、凌霄はうっと詰まった。
さっきは水球だったからまだよかった。失敗してもびしょ濡れになっただけで済んだのだから。
「やめておきましょう。かまいたちや竜巻でも起こされたらたまりませんし」
「む……だがな、娘よ」
「似合ってますから、女装」
「女装と言うでない!!」
凌霄をひとしきりからかったあと、現実的なアドバイスをする。
「律儀に襴裙(腰巻き)まで着けるから女装になるんですよ。それ外せばいいでしょ。
多少袴は女っぽい意匠ですが、それくらいは我慢してください」
凌霄は目から鱗、といった顔をした。
「それもそうであるな」
いそいそと襴裙の紐をほどいて外し、晴れやかなした顔で笑った。
「これで一件落着だ。安心したら腹が減った気がする」
「そう言えば、もう食べなくても死なないんですよね」
「心が死ぬかもしれぬ」
謎の理論を展開しながら胡座をかいて座ろうとした、その時――
ビリッ
不穏な音が響いた。
「あ」
その声はどちらの声だったのだろうか。
恐る恐る凌霄がお尻を持ち上げると、袴のお尻がぱっくりと裂けていた。
おそらく、背丈的に合ってはいたものの、采蓮のお古ではやはり男女の体格差が出たのだろう。
「……また女装しといてください。」
「そんな……」
(尻仙人……)
泣く泣く襴裙で裂けた尻を隠す凌霄を見守りながら、ついつい思う采蓮だった。




