17.景朔②
「ああ! そうですかそうですか! あなたならそう言ってくれると思ってました! さすが凌霄。頼りにすべきは友。」
パン、と手を打って一件落着と言わんばかりの景朔。
采蓮はひしひしと嫌な予感を感じていた。
「道士様、完全にのせられてますよ。あなた今万全じゃないんでしょうが」
その指摘に凌霄も少し平静を取り戻した様子で頷いた。
「う、うむ……」
「……だがな、娘よ」
すぐに拳をぐっと握り直してやたら凛々しい顔をする女装男子。
「ここまでコケにされて黙って引き下がるわけにはいかぬ。その詐欺師とやらにもこの屈辱の報いをしかと受けさせねばなるまい」
そして、采蓮の方をじっと見つめたかと思えば、彼女の手を取っておもむろに握った。
「なにしてんですか」
「それがだな」
(嫌な予感……)
「どうやら、そなたと触れ合うと安定しやすいようだ。」
「なんで」
雲行きが怪しい。
美少年に手を握られて照れるとか、そんな甘酸っぱい気持ちになる余裕は采蓮にはなかった。
この先の展開を予想して手を引き抜こうとする。
そのやり取りを見ていた景朔が口を挟んだ。
「なるほど。妖というのはそもそも陰の気が強い生き物ですからね。
そのまじりであるあなたに触れると多少なりとも陽の気の活性が抑えられるのでは?」
「…………」
さらっと”まじり“であることを取り沙汰されて景朔を睨む。
「そもそも、なんであなたは縮まないんですか。方法があるなら戻してやってくださいよ」
「それは無理なのだ、娘よ」
意外なところから景朔への援護が飛んできた。
手を抜こうとする采蓮の手を、外見からは想像もできない力で握り続ける凌霄である。
「先程も言っただろう。景朔は天仙なのだ。天から気を供給されておる。地脈の気を体内に取り込んでいる私とは違う」
采蓮は、なんともいえない顔になった。
あからさまにエリートである景朔と、小娘のヒモと成り下がっている落ちこぼれっぽい凌霄。
だが前提として二人とも仙人様であり、高次の存在なのだ。
ただの小娘である采蓮がツッコミを入れるのもおかしな話になってしまう。
「……なるほど」
その一言に尽きた。
「でも一応言っておきますけど、私は詐欺師とかどうでもいいですし、関わりたくないですからね」
「そこをなんとか」
やっぱりか。
ぐぬぬ……と手を引き抜こうとする采蓮としっかと握りしめて離さない凌霄の静かなる攻防が繰り広げられる。
「なんで私がそんな面倒事に巻き込まれなきゃならないんですか。私にはなんの力もないんですよ」
「何を言う。今こうして私を助けておるではないか」
「知らんがな」
「まぁまぁ、お嬢さん。私からもお願いできませんかねぇ。
あなた達二人、なかなか面白……息のあったいい組み合わせですよ。」
「面白いって聞こえてますよ」
采蓮は仙人二人から説得されて折れるしかなくなった。
完全に面白がっている景朔にジト目を向けながら、渋々了承した。
「わかりましたよ。でも何も期待しないでくださいよ。」
景朔が合わせた両手を頬に添え、小首を傾げながらにっこり微笑んだ。
「それは良かった。これで一安心です。
では、あとはよろしく〜」
「待て待て待て」
つい采蓮の口調が雑になる。
「天仙様は?」
「え? 言ったじゃないですか。私、忙しいんです」
「…………」
「道士様、こいつぶん殴っていいですか」
「うむ、許す」
「あっははははは」
采蓮と凌霄から殺意を向けられても腹を抱えて笑っている景朔。
「はぁ、面白い。
……まぁ、私も勿論動きますから。分業と思っていただければ。」
ついに取り繕うことすらやめたらしい景朔は、お気持ち程度に二人をなだめにかかった。
さらにもう用は済んだとばかりに立ち上がる。
「時折顔は出すようにしますので。活躍期待していますよ。では」
「え、ちょ、」
さすが天仙というべきか、次の瞬間には景朔の姿はたち消えていた。




