14.衝撃②
采蓮の目が大きく見開かれた。
「……は……」
「力が戻ったと申したのだ」
「え、」
「予兆はあったのだがな。
私が力を使えなくなっていたのはこの場所が陰の気に満ちていたせいだ。
それが、かの村の陽気に触れ、私の中で陰陽の均衡が変わり始めていた。」
采蓮が口を開こうとするが、喉が引き攣れたようにうまく声が出ない。
無意識に、声が硬くなった。
「っ、そういう大事なことは、早く言ってください」
「う、うむ……」
何やら気まずそうな凌霄の様子に気づかず、采蓮は顔を背けながら早口で言った。
「良かったですよ。私の目はもう使わず済むってことですし。
力のある道士様なら、この村もどうにかできるってことですよね?」
ウェーーーーーィwwwwww
フーーーーーーーゥwwwwww
二人の背後では相変わらずオッパッピーな狂乱が続いている。
「うむ、今ならできる。うむ、そうだな。今やろう。今がよい」
凌霄はどうにもそわそわと落ち着かない様子だったが、気を取り直したのか すっとその手を天へと掲げた。
どこかで見たことのある光景……
そう、初めて出会ったときも、こんな風にしていた。不発だったが。
ぶわっと凌霄の足元から円を描くように風が吹き上がった。
風と共に土埃が巻き上がったが、それさえも彼の神秘的な雰囲気を盛り上げる舞台装置のようだ。
風がやんだ頃には、彼の指先に一本の針が摘まれていた。
「……あ、それ、触ったら、」
ぼんやりとその光景を見つめていた采蓮が、その針を見て声を上げた。
「大丈夫だ。力さえ戻ればこの程度のちゃちな術、どうということもない」
凌霄はそう言ってパキン、と針を壊した。それはまるで砂でできていたのかのようにサラサラと崩れ、そのまま風に流れて消えた。
(……本物だったんだ……)
信じていないわけではなかったが、その力を目の当たりにすると圧倒的な存在としての差を感じる。
(なるほど、289年、か……)
ずっとネタのように扱ってきたその年月を、確かに歩んできた超越者。それが凌霄という男だったのだ。
「…………娘よ、」
その超越者たる彼は自らの胸にそっと手を当てた。
采蓮の方に顔を向けたかと思えば、困ったようにへにょりと眉尻を下げる。
「なんですか、急にしおらしくなって。別れの挨拶ですか?」
采蓮の言葉がつい刺々しくなる。
彼の力が戻ったのはいい事だ。頭ではわかっている。
だが急すぎたのだ。
采蓮は今回の旅で、この男に孤独という概念を自覚させられたばかりだというのに。
「いや、そうではなくな……
この村は、ほら、陽の気で満ちておると言っただろう? つまりな、その……」
もじもじしている自称ではなかった本物の仙人にイラっとする。
力が戻っても、彼があの”尻仙人”のままであるように見えることが、逆に采蓮を虚しくさせた。
「なんなんですか。はっきりしてください」
「……恐らく、私は――」
ポンッ
間抜けな音が響き渡り、凌霄が煙に包まれる。
「えっ……なに――」
何事かと混乱した采蓮は声を上げたが、煙が晴れた凌霄の姿を見た瞬間言葉を失うことになった。
――そこには絶世の“美少年”が立っていたのだから。




