12.芋の村
凌霄の異常なほど玲瓏たる見目のせいで、村に入った瞬間から村人の視線を集めまくっている。
だが逆に、このいかにも田舎の農村といった中、一人で浮きまくっている天上人のような見目の男に関わる勇気もないらしい。遠巻きにされていた。
その中から、意を決したように一人の男が近づいてきた。
「あのぉ……もしかして、お貴族様でしょうか……?」
凌霄を見て高貴な身分と勘違いしたようだ。男の顔に怯えと警戒心が滲んでいる。
「ふふ、そなたが勘違いするのも無理はないが、私h」
「この人は無駄に顔がいいだけの職なしなので。お気になさらず」
凌霄の「俗世を捨て289年云々、」といったいつもの口上が始まりそうだったところを姚連が食い気味に遮る。
「それより、この村、やたら芋だらけじゃないですか?特産品とか?」
付き人か何かだと思っていた少女が貴人らしき男をバッサリ切り捨てた光景に若干引きながらも、村人の男は頷いて答えた。
「あ、ああ……いや、そういうわけじゃないんだがね。」
男は「なんなんだコイツら」という雰囲気を醸しながらも、こんな話をしてくれた。
――今年は不作でしてね。
こりゃあ今年は厳しい年になると覚悟しとったら、旅の道士様がふらっと現れなすった。
そのお方が自分ならなんとかできるからと祈祷を行ってくれましてね……まぁちぃと寸志はとられましたが後払いでいいってんで。
……そうしたら、信じられないが芋がポコポコ大量に取れるようになったんです。
いやぁ、道士さまさまですわ――
その話に、采蓮も凌霄も難しい顔をした。
「……胡散臭いにもほどがありますね」
「うむ。そのような怪しげな術を使うものが道士を名乗るとは嘆かわしいものだ」
「…………」
あんたも大概だろ、と心の中でツッコんだのが顔に出ていたのだろう。凌霄が采蓮に対してムッと反論した。
「私はちゃんとしているぞ!」
「何も言ってませんよ」
采蓮は顎に手を当てて考え込む。
「……とりあえず、あの針の犯人はその自称道士様の線が濃厚ですね。
探せば、この村にも針があるんじゃないですか?」
「私もそう思う。娘よ、頼めるか?」
「はいはい」
采蓮はもはや慣れきった様子で目を袖で覆い隠し、目を閉じた。
なるべく見えないように生活してきたはずなのに、采蓮の中で“視る”ことへの抵抗感が徐々に薄れてきている。
なんだかなぁと複雑な気持ちにもなるが、難しいことは後で考えればいい。
「……うわ。めちゃくちゃ荒れてて視づらいですが、あっちですね」
さすが気の乱れを辿った先に行き着いた村だけある。
一見して平和そうに見えたが、気の流れがめちゃくちゃで、顔をしかめてすぐに目を開いた。
采蓮が指差す先には、畑があった。
「なるほどな……」
凌霄が何かに気づいたように、もう一度自分の胸を撫でた。
「これは中々に、厄介だ」
「何かわかったんですか?」
「うむ……念の為確認するぞ」
そう言って畑に近づき、地面に這いつくばって針を探し始めた凌霄。
真面目に探している本人には申し訳ないが、犬だ。
「衣が汚れますよ、道士様。私がもう少し視てみますから」
「いや、そなた先程視づらいと申しておったろう。あまり目を凝らすのは疲れるからな」
その言葉に、采蓮の目が軽く見開かれた。
別に、使えるものは使えばいいのに。
(そこは気遣うのか……ほんとによくわからない人だな)
苦笑してから采蓮もしゃがみこんだ。
そして偶然、少し離れたところにキラッとしたものが映り込んだ。
「あ」
近づいてみたら当たりだった。
細い針が地面に刺さっている。
「おお、見つけたか。
……わかっておると思うが触るなよ」
「わかってますよ」
凌霄が珍しく黙り込んでもの思いに耽っている。憂いを帯びた黒曜石の瞳は翳り、紅を引いてもいないのに赤い唇を、その長い指が撫でた。
「……娘よ。一旦村に戻るぞ」
その言葉に采蓮も同意する。
「そうですね。いつまでもここにいても仕方ありませんし、収穫はありました」




