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【完結保証】蓮池に霄(そら)は揺蕩う〜ツッコミ少女はポンコツ仙人をどつきたい〜  作者: サキハナ月子


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10.おにぎりときのこ

「はぁ……はぁ……娘よ、ちと休もう」

「だめです」

「えー……ずっと歩きづめではないかぁ……」

「今日中に野営地までたどり着きたいんですよ」


重い足を引きずりながら泣き言を言う凌霄を采蓮は一刀両断した。


「あなたが道草ばっかり食うから予定より進んでないんです。」


凌霄という男は、3歩歩けば

「娘よ、これは食えるのか?」

とか、

「あ、この葉は人面に見えるぞ」

とか言っては足を止めるのだ。


(そもそも、だ)


采蓮は振り返ってこの愚か者を睥睨した。


時間は朝に遡る――


「娘よ、早速術者探しに行こう」


凌霄が意気込んで采蓮に迫った。

もはやこいつのせいでデフォルトになってしまいそうなジト目を向ける采蓮。


「行こうって……まずは準備しないと」


その言葉に目を瞬かせる美丈夫。

キョトン顔なんかムカつく。


「散歩に行くんじゃないんですよ。食料とか水とか、火起こしの道具とか色々あるでしょうが」


それを聞いて初めて思い至ったという顔で凌霄は手を打った。


「なるほど、そうであったな。只人の感覚を忘れておった。腹が減ったり寒くなったり、なかなか趣深いな」


そういえばこの男は穴倉で冬眠しようとしていた尻仙人であった。

極限サバイバーである。


「そうと決まれば、にぎり飯を50個作ろう。それだけあれば足りるだろう」

「それツッコまなきゃだめですか?」


采蓮の意識が遠くなった。


その後一悶着あったが、このバカは「保存食はいやだ、握り飯がいい」と駄々をこね、結局行李に入るだけ握り飯を詰め込んだのだ。

霞しか食わないとほざいていたあの頃が懐かしい。


――そして、今である。


パンパンの行李を背負った駄々っ子は、はじめのうちこそ道草を食いまくっていたが、もうそんな元気は残っていないようだ。


采蓮オカンの視線も冷たくなるというものである。


「早くしないと置いていきますよ」


采蓮は自業自得な奴を甘やかすほど優しくはない。凌霄を引き離す勢いでスピードを上げた。


容赦のない采蓮に絶望しながらも、なんとか凌霄は握り飯を背負ったまま野営地まで到着した。

野営地と言っても、先人が水場に近い草地を少しならしただけの開けた空間である。

この辺りの人間ならみんな知っている野宿ポイントと呼ぶべきものだ。


地面に座り込んで使い物にならないヒモを放って、采蓮は着々と枝を拾い集め、火起こしの準備を始める。


「いつまでも座ってないで、水くんできてください。

あっちの藪の奥に小川があるので」

「私は疲れているのだが……」

「あ?」

「よし、行ってこよう」


自称苦節289年の仙人は、小娘のドスの利いた声に慌てて立ち上がった。

水筒を抱えて走り去っていく。


一人になった采蓮は、小さく息を吐いた。

本当に騒がしい男だ。情緒なんてあったもんじゃない。


遠ざかっていく凌霄の足音が聞こえなくなった途端、あたりに静寂が満ちる。


(……1人って、こんなに静かだっけ)


あの男が仙人の力とやらを取り戻して、采蓮にお礼を果たした時のことを考えてみた。

采蓮は、また一人に戻ることになるということだ。


狭いボロ小屋で、一人で食事をするのだろう。


『誰かとともに食事をするなど仙人となってからはなかった。これはよいものだ』


凌霄の言葉が蘇った。


「ああ……いやだな、この感じ」


想像したら胸に風穴が空いたような虚しさが広がって、胸元をぎゅっと握りしめた。

一人でいることに慣れていたはず。寂しいなんて思っていなかったはずだ。


あの脳天気な自称仙人は、采蓮が無意識にずっと抱え込んでいた孤独感を自覚させてしまった。


采蓮は、孤独”だった”のだ。

ならば、この先は?


(……考えるのやめ。火起こしに集中)


「娘よ、見ろ!」


パチパチと燃える炎の前で保存食の準備をしていると、凌霄がにぎやかに戻ってきた。


「松茸を見つけたぞ!」


じゃーん! という効果音がつきそうなほど自慢げにそれを掲げて見せる。


「毒キノコですよそれ」

「なに!? そんなはずがなかろう、よく見ろ」

「こんなところに松茸が生えてるわけないじゃないですか。松生えてないでしょ」


納得いかない、というようにキノコを握り締める凌霄。


「食べちゃだめですよ」

「えー……しかし娘よ、これ、近くで見ると実に美味そう……」

「だめ」


凌霄は子供のように唇を尖らせた。

渋々といった様子でキノコを地面に置いたが、その手はいつまでも名残惜しそうにキノコの笠を撫でている。


結局、未練がましくキノコに視線を送りながら、ゴソゴソと行李から握り飯を取り出した。


諦めたか、と采蓮も保存食を口にしながら炎をぼんやりと見ていたが……


「ふふっ、」


突然笑い声が聞こえてきた。


「ぷくく……っ! 娘よ、何だその踊りは!」


は? と思い凌霄の方を向くと、目が”イっちゃって”いる。


「ふはははは、やめてくれ、腹がよじれる!」

「ヒーッ、ヒーッ……!」


あんぐりと口を開ける采蓮の目の前で、腹を抱えて笑い転げる凌霄。


「まさか……さっきのキノコ、食べたんですか?」

「ファーーーーーwwwww」


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