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0017.寒そうな月

列車が駅に着く頃には 僅かに日の光を残していた西の空も すっかり暗くなっていた

乗客たちは手元のスマホを眺めるか 紙の書籍を静かに読んでいて 

車輪が線路の繋ぎ目を 乗り越える音だけが響いている


やがて車両が停止してドアが開くと ホームに降りて足早に階段へ向かって行った 

人波に乗って改札を抜けると 広々としたコンコース

天井からは眩しいくらいの照明の光 

多くの人たちが軽い足取りで 地下街へ向かう階段を下りていく


Welcome.  

階段の上の大きなディスプレイに表示され 波打つように色が変化していく

きみと最後にここに来たのは もう20年以上前のこと


あの頃はただ毎日が楽しくて 先のことなどほとんど何も考えていなかった

真剣に考える必要があるとも思っていなかった というのが正しいだろうか

それなりに明るい未来が 当然のことのように思っていた

だからあれこれ考える必要もなかった

明日になればまた約束された明日が来る それをただ楽しめばいい

それが当然のようにずっと続く そんな感覚だった


地上に出ると 街路樹のイルミネーションと商業施設の照明

漆黒の夜の空に対比して 輝いて視界一面に散らばって見える

岸壁沿いのモールまで続く道 この道も二人で歩いた頃から 

変わったような変わっていないような



人前で手をつないで歩くのは なんとなく気恥ずかしくて

人通りが少ないと手をつなぐのに 表通りに出るとそれを放すから きみからたびたびつっこまれていた

日本人はあまり人前でべたべたしないんだよ 欧米とはちがうの

前の二人なんて腕組んで歩いているじゃない 頭を彼氏の腕に寄せちゃったりなんかして

よそはよそでうちはうち なによ照れてるだけでしょ


真冬の空気は 大掃除したてのガラス窓のように 冷たく曇りなく澄んでいて

ねえ見て 寒そうな月

彼女のこの表現が とても印象的だった

澄んだ冬の夜の 天高く真っ白な光を放つ月をみて 

こんな情緒的な言い方をする人は ほかにいなかった



最後に会った時はもう 二人の気持ちは離れていた

それでもお互いまだ何かが 心の中に残ってはいたのかもしれない 

もう一度会えばまた何かが始まる そんな期待なのか興味なのか 

だけどそこまでの何かは起きなかった

もうこれ以上は無いことに 何も言わずとも二人とも納得していたと思う


それ以降はきみと会うことも 連絡を取ることも無くなった

きっともう二度と接することはない それぞれの人生に お互い存在しなくなる

それでも記憶の中には 残り続けるだろうけど



何かのきっかけで過去が思い出されるとき

それはもう手の届かない 遠い遥か彼方のことであって

再びそれを現実として 捉えることはできなくて


いまその場所に行っても いまその人に会ったとしても

それは過去のそれとは違う別のもの

記憶にあるのは 過去のその場所で過去のその人であって 

いまはもう失われたもの 遠い過去とはそういうもの


記憶の中のそれでさえ 夕暮れの残光のように おぼろげに掠れていく

時間が流れるとはそういうこと あの時のきみもぼくもあの場所も 

夜空に寒そうな月だけは 変わらず残っていたとしても

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