8 決意
8 決意
治療を終えてから少しして、俺達は無事に父様達と合流出来た。
喋る魔物の出現、それが発した不吉な予言は同行していた騎士達によって直ぐに父様とブラッドの父親に報告される。二人は一様に表情を硬くするが、不安そうにしている俺達に気がついて直ぐに表情を和らげた。
「よく頑張ったな、ノア。無事で良かった」
そう言いながら優しく頭を撫でてくれる父様の手に、じわりと涙が浮かぶ。
怖かったのだ。日本での生活も含めて、あんなに怖い思いをしたのは初めてだ。
急に強敵に襲われた事も、それに名指しされた事も、シナリオ通りに進もうとする世界も。何もかもが恐ろしい。
同時に小さな違和感を覚える。怖い。怖いのは確かだが、俺はこんなに臆病だっただろうか、と…。現代日本にいた時と状況が全く違うといえばそうなんだが、こんなに臆病ではなかった筈だ。これも何かの影響なのだろうか。
小さく息を吐き、滲んだ涙を拭う。いつまでもメソメソしていられない。
「父様、あの魔物は私を名指ししました。一体何なのでしょう」
俺の問いに、父様は少しばかり難しい顔をした。しかし、直ぐに小さく息を付いて口を開く。
「……お前には話しておいた方が良いだろう。ブラッドも、お前達も良く聞きなさい」
真剣な表情で子供達に向けて父様が話し始めたのはこの大陸にずっと昔から伝わるお伽話だ。
昔々から始まる物語は魔王によって魔物が発生して、人々が蹂躙されたところから始まる。追い詰められた人々が天に祈りを捧げると、厚い雲を切り裂いて、天から白銀の剣が現れた。
白銀の剣の名は「レーヴァテイン」。
天から贈られた聖剣は一人の少年の元へと降りてきた。そして、聖剣を手にした少年は仲間達と共に長い戦いの末に魔王を封じる事に成功する…。
ここまでは巷で流布している聖剣レーヴァテインと勇者の伝説だ。しかし、実は話には続きがあった。
勇者と仲間達によって大怪我を負って弱った魔王は、魔の山に封印される間際に予言を残していたのだ。
『いずれ余はこの地に帰る。その時はリフキンドの血を贄として、聖剣をも屠ってみせよう』
そう言って高い哄笑と共に魔の山に封じられたのだという。
父様の話を聞いて愕然とする。どこからどう聞いたってフラグじゃん!!
ゲーム内ではこういった事は語られていなかったように思うが、どうやらしっかりばっちりフラグが立っていたらしい。同時に、魔王に付け狙われるのはどう頑張っても回避不可能という事が判明してしまった。
思わず頭を抱える俺の姿に、父様は優しく俺を抱き締めてくれる。怯えたと思われたのだろう。しきりに大丈夫だと繰り返す父様の声を聞きながら、俺はこの先の事を考える。
どんな形で魔王が手を出してくるのかはわからない。しかし、こうして名指しで狙われている以上、何かしらの仕掛けてくるのは確定だろう。
対する俺はあまりにも貧相。魔法は扱えても父様や先生にはまだ遠く及ばない。剣も扱えず、体力すらあまりついていない。自衛出来る手段がないのだ。
どうしたもんかと悩む俺の肩を掴みながら父様は俺をまっすぐに見つめる。
「ノア、今からお前に告げる事はとても残酷な話かもしれない。だが、こうなった以上、お前は知っておかねばならない話だ」
これまでになく真剣な面持ちをした父様に、俺は頷く事しか出来ない。なんとなく予想は出来ているが、突きつけられるのはまた話が違ってくる。
「今現在この地に存在しているリフキンド一族の中でお前が最も幼く、また最も高い魔力を持っている。魔王は必ずお前を狙うだろう」
容赦無く話す父の表情と言葉に否応にも現実を突き付けられる。不安が押し寄せる中、知らず強く握り締めていた俺の手を取って、父様は優しく微笑んだ。
「だから、強くなりなさい。魔王なぞに屈せぬよう強く在りなさい」
優しい眼差しに、真っ直ぐな言葉に、自然と頷いていた。そうか、強くなれば良いのか。
不安を全て吹っ飛ばして、生贄に出来るもんならやってみろって笑って言えるくらいに強く。
少しだけ肩の力が抜けたような気がする。やる事はとてもシンプルだとわかったから。
魔王の手先になって故郷を滅ぼすのも、俺自身が乗っ取られるのも死んでもごめんだ。ならば、魔王を倒すまでいかなくとも撃退、或いは身を守る術を身につけないといけない。
魔王の復活までまだ時間がある。その間、俺は出来る限り強くならなければならない。
幸い、ここは最前線だ。手本になる人も教えてくれる人も自分を鍛える手段もいくらでもある。
決意も新たに、俺はぎゅっと拳を握り締めた。
これまでの俺は、まだどこかに油断があったと思う。この世界は俺の知るゲームに似てはいるが、魔王の復活なんて眉唾物だと思っていた。
しかし、現状は無慈悲にも俺に現実を突き付けてきた。魔王復活もノアが狙われる事も全て確定して、否応にも焦燥感と不安を煽る。
まだ時間はある。どうするか考えて、自分を鍛えるだけの時間はまだあるのだ。
「父様、私に魔法を教えて下さい」
強くなりたい。もっともっと強くなって、どんな魔物にも魔王にだって負けないくらい強く。俺は勇者になる事は出来ないが、それでも出来る事はある筈だ。
頭を撫でてくれる大きな父様の手に誓う。
俺は絶対に屈しない、と。
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