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ジョン・ドゥ

たぶん小学三、四年生のころ。

夜中に夢を見た。知らない男の子が出てきた。私と同じくらいの年齢のその子は母親の背中に隠れて半分だけ顔をだしていた。私は母と手を繋いで立っていた。

私の母と相手の母親はお互いに話していて私たちは手持ち無沙汰だった。だから私はAに遊ぼうと誘った。

「ねぇ、なんかしよう」

Aはそれに頷き母親の背からでてきた。でてきたAの手を私は掴み引っ張っていく。


私の家のの近くには公園と野原みたいなところがあった。だから、二人で手を繋いで公園の遊具で遊んだり虫を捕まえたりして思う存分走って遊び回った。


いつの間にか私がAの手を繋ぐのではなくAが私の手を繋いで主導してくれた。そして遊び終わって帰らなければならなくなった。Aは母親に手を引かれて帰る。お互いに手を振りバイバイした。


そこで夢から覚めた。


夢から覚めたあとはとっても楽しい気持ちで嬉しくて胸がいっぱいだった。でもすぐその後に夢を見たこと自体忘れた。


次は高校生のころ。

夢を見た。前回の夢の内容をはっきりと思い出した。Aは私と同じくらいの年齢に成長していた。Aは私をおぼえていた。私もAを覚えていた。私はAを当たり前かのように受け入れた。なんの不自然もなかった。そしてまた日が暮れるまで二人で遊んだ。ただ一緒に歩いたり走ったりした。ずっと話してた気もする。でもAが私の手を引っ張ってくれることは変わらなかった。よく分からないしあまり覚えていけどとても楽しかった。凄く楽しかった。ずっと笑ってた気がする。


また、日が暮れて遊びの時間は終わる。そこで目が覚めた。とても嬉しくて楽しくて幸せな気持ちだけが残ってた。そして一回目と同じようにすぐに全て忘れた。


大学に入ってから、2年生の頃に夢を見た。Aはまた私と同じくらいの年齢に成長していた。

再び夢を見るまでこの夢のことは日常生活で全く思い出さなかった。そんな夢を見た記憶すらなかった。


夢の中でAを見ても「誰だこいつ」しか思わなかった。Aは私を見ていた。どんな表情なのか思い出せない。

Aの顔を見ていくうちに1、2回目の夢の内容を全て思い出す。

私が「あっ」と声を出すとAはまた私と手を繋いで私を引っ張ってくれる。それがとてつもなく嬉しくて私は笑いながらAに手を引かれる。


3回目の夢は現実感があったりゲームの世界観に近かったりでとても楽しかった。感覚も全てリアルに近かった気がする。Aの他に何人か現れて一緒に遊んだ。でも私の傍にずっとAがいたことだけは変わらなかった。理由もなく楽しいし嬉しかった。ずっと笑ってた。この時間が永遠に続けばいいと本気で思ってた。


日が暮れる。3回目は1、2回目と違って夢から覚める感覚がした。世界は白ばんでいき、Aの存在感が遠くなった。だんだんと目の前が真っ白になっていきとうとうAの姿も見えなくなる。だから私はAに聞いた。

「ねぇ!名前なに!?」

夢の中だから名前を言わなくてもAには通じていた。通じなくても私とAしかいないから声をかける時も「ねぇ」で問題なかった。


私はなぜAに名前を聞いたのだろうか。

理由はわからないけどAの名前を急に知りたくなった。名前がわからないと次は会えない気がした。だから私はAに名前を聞いてしまった。

「ねぇ!名前何!?」

「──ン。─────ジャ、、」


途切れ途切れで聞こえなかった。


「はぁ!?聞こえん!なんて!!!???」

「ジ、ン、───ド。、、、──ジョ、」


聞き返しても全く聞こえない。夢から覚める感覚はすぐそこまで来ていて私は焦る


「ジャン!?ジョン!?聞こえん!!!」

「ジョ、、─────」


「はあっ!!??」

「────ジョ、、ン・ドゥ」


とうとう夢から覚めてしまう。その間際Aの声が1番はっきりと聞こえた。


目が覚めた私はいつも通り楽しくて嬉しくて幸せな気持ちで溢れている。


やっと彼の名前をしれたことに喜びが止まらない。もしかしたら運命の相手かもしれない。そんな妄想ばかり膨らむ。

そしてスマホで名前を検索する。ジョン、ドゥ。何それ。どこの韓国人だよ。何人だよ。外人なら探して会いに行ってやるよ。そう思いながらスマホで検索した。


そこでヒットしたのは

「ジョン・ドウ」は、身元不明の男性や、仮名として使われる架空の男性名を指します。また、日本語の「名無しの権兵衛」に相当する言葉です。


という言葉だった。

私は思わず鳥肌が立ちゾッとした。まさか、名無しとは思わなかった。まあ、驚いたが夢なのだからそんなこともあるそう思い夢の続きが見たくてたまらなかった。私はジョン・ドゥを愛したままだしドキドキが止まらないし、胸の内が幸せで溢れている。


そこで走ってリビングに行く。たまたま起きていた母親に先程見た夢の内容を話す。話している最中から夢の内容を忘れていく。夢から醒めたばかりの頃はジョン・ドゥの見た目も声も仕草も覚えていたはずなのに今では何も思い出せない。手を引いてくれたことしか覚えていない。

私は大雑把な出来事とジョン・ドゥの名前の意味を母に教えた。伝えられた内容だけはなせか忘れることなく記憶に残った。


話している私は笑顔でとても楽しそうだったらしい。話終わったあともジョン・ドゥにまた会いたい。なんて言う。


私は母に夢の内容を全てを話し終えた。すると、なんとなくだが二度とこの夢の続きは見れない気がした。胸がスースーしてすきま風が吹いているように冷たくなっていく。とても悲しい気持ちになる。


そこで母が私に言った。

「良かったね。うちに話して。悪い夢は人に話したら正夢にならないから」


私はその言葉に不思議に思い質問した

「今の悪い夢なの?めっちゃ楽しい気持ちしかないんだけど。」


母は続ける

「本名無いのか名乗れないのか知らないけど偽名はおかしい。お前の話聞いてるだけで鳥肌立ってくる。」


そう言われた。母にそんなことを言われても私はジョン・ドゥへの気持ちは覚めなかった。


後日、母が霊感のある知り合いで霊媒師?みたいな人にその夢の話をしたらしい。すると、その霊媒師?は私がそのジョン・ドゥに夢で攫われないで、連れていかれないで良かったね。と言ったらしい。何より気持ち悪いのが私と一緒に成長していることがとても気持ち悪いのだと。


私は今でもあの夢を幸せな楽しい夢だったと思っている。ジョン・ドゥへの気持ちは少しずつ風化してきている。


愛しいジョン・ドゥに会いたい気持ちと恐ろしくて会いたくない気持ちがある。


あの夢から数年、まだ夢の続きは見ていない。たぶん、二度と見ることはないだろう。


もしあの夢の続きを見たらどうなってしまうのか考えるだけでも恐ろしい。

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