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「おっ、職業の所に勇者ってあるぜ。」


 加藤がドヤ顔をしてそう言った。


「ほほぅ、そなたが勇者か。なるほど、その様な覇気を(まと)っておる。」


 加藤が勇者?ってそんな事より僕の暗殺者って何だよ、って叫びたい。


「あの、私は職業の欄に賢者とあるんですが・・・。」


 控えめな声で安藤が手を肩迄上げて言った。


「そなたは賢者か。勇者の仲間としては申し分ない。」


「いえ、あの、そんな勝手に職業を決められても・・・。」


「それは神がそなた達の資質に合わせ授けたもの、何かあればそう決めた神に言ってもらうほかない。

 そなた達が魔王と戦うためどうすれば良いか指針を与えるものだ。

 賢者の職が与えられられたのであればそれを活かす様に研鑽(けんさん)を積めば直ぐに強くなることが出来るはずだ。」


「はい、その通りでございます。

 賢者という職業に就かれた方は魔法を操ることに長け、覚えも早く強力な力を行使できるようになるでしょう。」


 王様の言葉に隣のおじさんが続く。


「もうすでに何かのスキルを発現されているのではありませんか?」


「スキルですか?スキル欄という項目には無詠唱、魔力上昇という項目がありますけど。」


「えぇ、それです。無詠唱のスキルを覚えているとは流石賢者様です。

 そのスキルがあれば魔法の呪文を唱えることなく行使することが出来ます。」


「例えどんな力を貰えたからと言って私達が魔王を倒さなければいけない理由にはなりませんよね。」


 三枝が怒った口調で会話に割って入った。


「そなたらは魔王と倒すためにこの地に呼ばれたのだ。

 魔王を倒す気がのであれば今後どうするつもりだ?

 魔王を倒してくれるのであれば援助は惜しみなくするつもりだが、その気がないのであればこちらとしてもそなたらに何かしてやる義理はないぞ。」


「そんな身勝手な、勝手に呼び寄せておいてから意に沿わないから後の事は知らないって。」


「お前達は神に選ばれこの地に来たのだ、文句があるのであれば神に言ってもらおうか。」


「まぁまぁ、話がいきなり過ぎましたね。王も落ち着いて下さい。いきなり見知らぬ土地に呼ばれたのです、混乱もするでしょう。

 勇者方も一度落ち着いてお話をしましょう。

 今この世界の現状とあなた達が今後どうするのが一番良いのかを一緒に考えましょう。」


 王様と三枝の言い合いに口を挟んだのは王様の隣にいた別のおじさんだった。

 もう一人のおじさんとは違い人当たりの良さそうな顔をして、着ているものも白い簡素なローブだった。


「そうであるな。勇者一行を別の部屋へ案内せい。そこでゆっくりと話し合いをすれば良い。」


 王様がそう言うと良い人そうなおじさんが一礼してクラスメイト達に近付いていった。

 どうぞこちらへとこの部屋からの退室を促しクラスメイト達も渋々ついて行った。皆もとりあえず落ち着きたかったんだろう。

 僕も色んなことが起こって物凄く疲れので休みたい。でも今更クラスメイト達の後を追う事は出来ない、なにせ暗殺者だし。

 勇者パーティーにいちゃ駄目だろう。

 ゲームとかなら元暗殺者で改心して仲間になる、ってあるかも知れないけど。

 今クラスの輪の中に入って職業は?って聞かれ暗殺者だよと答えて受け入れてもらえる未来が見えない。

 と言うか何故僕が暗殺者になったかは多分持ってるスキルだろう。

 スキル欄に気配遮断(けはいしゃだん)存在隠匿(そんざいいんとく)って言うのがあった。

 ステータスの所でそのスキルの詳細も何故だか分かるようになっていたので確認した。


 スキル:気配遮断(気配を完全に消すことが出来るスキル、視認し認識しない限りその存在には気付くことが出来ない)

 スキル:存在隠匿(その存在を認知出来なくなる、一部の看破スキル以外では認識することすら不能。存在の痕跡すら隠匿される。ただしこちらから干渉した場合は認識される)

 

 だという事らしい。

 だからこの場にいても誰も僕に気付かなかった、というか気付けなかったんだろう。

 って存在を認知出来なくなるってなに?超怖いんだけど、透明人間どころじゃないよね。

 いや、そりゃ空気みたいな存在になれるように努力はしてきたけどそれ以上じゃないか。

 一応オンオフみたいなのは感覚で出来るってのは分るから良いんだけど、もし出来なかったら人と会話すら出来ないかも。でもこちらからの干渉になるから大丈夫なんだろうか。

 さっきの王様の話を聞いて何となくだけど予想が出来る。

 その人にあった特性でスキルが貰えて、そのスキルにあった職業に当て込まれるって感じかな。

 武闘派の人を賢者の職業にしても強くなれそうにないもんね。

 その人の特性をスキル、そのスキルを元に職業を割り振る。

 で気配遮断と存在隠匿に相応しい職業が暗殺者だったと。

 理屈は分かったかもしれないけどそれをクラスの奴らに言って信用されるかだよね。

 もしかすれば快楽殺人者とかサイコパスだから暗殺者に選ばれたと思われたら終わりだ。

 そうじゃない証明なんて出来ないしね。

 はぁ、これからどうしよう。


「まったく忌々(いまいま)しい。こちらの言う事だけ聞いておれば良いものを。」


 そんな事を考えていたら王様とおじさんの話が聞こえてくる。


「まぁまぁ。これからしっかりと教育していけば良いだけではありませんか。」


「そうだな。しっかりと監視は付けておくように。奴らに余計な情報を与えるな。

 駒は駒らしく従順であれば良いのだ。」


 あっ、これ駄目なパターンの異世界召喚だ。

 よりによって酷いパターンの異世界召喚に合うだなんてツイてないな。

 王様は勇者を駒としか考えてない奴ね。

 勝手に人の事拉致(らち)って魔王と戦わせようとする人物がまともな訳ないのかも知れないけど。

 どうしよう、と言うかもうこれは選択肢としては一つしかない。

 この国から脱出するしかないよね。

 勇者の事を駒としか見てないのなら僕が暗殺者だってことを知れば絶対に魔王を暗殺してくるように言ってくるだろう。

 クラスの奴らもそう思うかもしれない、暗殺者なんだからって。

 いやいや、魔王暗殺ってどんだけ無理ゲーさせられるんだよ。

 そうならないためにも勇者召喚に僕はいなかった事にしないと。

 ラノベなんかでも外れ召喚の時には逃亡劇って定番だし。

 

 クラスの奴らにはこのことを伝えた方が良いのか・・・。

 でも僕がここにいることを知られたくないし、他の奴も色々スキル持ってるみたいだし何とかやっていくよね。

 僕が心配する必要がないのかもしれない。

 まずは自分の事を何とかしないと、それで余裕があればってことにしよう。

 それにしてもどうしようか。

 そんなことを思っていたら王様とおじさんもこの部屋から出て行くみたいだ。

 椅子から立ちあがって移動し始めた。

 それに何人かの騎士っぽい人も続く。

 どうやら皆が出て行った扉とは違う、奥にも出口があるみたいでそっちに向かっている。

 恐らくだけど偉い人用の通路だったりで自室とかに繋がってるのかも。

 だとするとそっちについて行ってもしょうがない。

 王様たちが部屋から出て行くと椅子の正面の扉が開いて残りの騎士達が整列して出て行く。

 そっちについて行く方が良いんだろう、この部屋に閉じ込められても後が大変だし。


 僕は意を決してなるべく息を殺して騎士達の後に続いた。

 心臓が爆発しそうなぐらい高鳴っている。

 騎士達の後ろに制服姿の僕がついて行ってるんだ普通だったら速攻捕まる。

 でも僕にはスキルがある、はず。

 と言うかそれを信じるしかない、この状況でスキルが使えないものだったらもうどうしようもない。

 遅かれ早かれ僕は王様に見つかって駒にされるしかなくなるだろう。


 スキル:冷静沈着を取得しました


 頭の中で声がした。

 その瞬間さっきまで爆発しそうだった心臓が平常時の様に落ち着く。

 スキルってこうやって獲得するんだと少し感心する。

 やっぱりあれかな、暗殺者としてこういう危機的な状況でも落ち着いて対処できなくちゃいけないとかでこのスキルを取得したんだろうか。

 頭がスッキリして思考がクリアになり視野が広がった気がする。

 周りを見ても誰も僕に気付いている様子はない。

 これだったら多分大丈夫。

 一番近い距離の騎士なんて5メートルも離れていない、それで気付かれないのであれば問題はないだろう。

 少し大胆になってゆっくり進む騎士達を追い抜いて扉を抜ける。

 重そうな鎧を着こんでる為か騎士達の歩みはゆっくりだった。

 その横を通り過ぎても誰も僕に声を掛けることは無かった。

 そのまま小走りで廊下を進む、どっちに進めばいいかわからないけどとりあえずは騎士達が向かう方向とは逆に進んだ。

 曲がり角を曲り、背中を壁に預けてほっと一息つく。

 

 何とかあの部屋からは抜け出せた。

 と言うかこのスキルヤバくないか、誰1人僕の存在に気付いてなかった。

 騎士になる人だったらそれなりに強かったり、気配を読むスキルとかもってそうなのに。

 一部の看破スキルじゃないと認識できないってスキルの説明にあったし、それを持ってないからかもしれない。

 その一部って言うのが物凄いレアスキルという可能性があるんだろうか。

 ただ王様の前にいる騎士って近衛兵で城の中でも一番強い人達の可能性が高そう。

 その人達に僕のスキルが問題なく使えたってことはもう城には僕の存在を認知できる人は居なさそうだな。

 だとしたら出口にさえ辿り着ければ外に出れるかも。


 そうして僕は城内を歩き回った。

 正門よりも別の出口が良さそうだよね、通用口とか。

 多分お城に食料とか何か持ち込む時用の入口があると思う。

 そんなことを考えながら移動する。

 匂いから調理場を見付け、その調理場の勝手口から外へ出る。

 導線を考えたらこういう所に出入口作るだろう。

 そう思ってウロウロとしていたら思い描いていた通用口らしき門があった。

 しかも丁度良いタイミングだった様で門が開いていて一台の馬車が止まっていた。

 多分これから食材か何かの搬入なんだろうけど僕には関係ないのでそのまま馬車の横を素通りする。

 そこには門番らしき人や馬車の持ち主っぽい人がいたけどやっぱり僕に気付いた様子はなかった。

 

 何とかお城から抜け出すことが出来た。

 城から出ると壁があり、そのまま壁伝いに歩いて行くと町があった。

 城下町っていう感じなのかな。

 見たこともない異世界の町を歩き回ってみたかったけど、こんなところでスキルを解除する訳にもいかない。

 スキルを解除しなければ人と話す事も出来ないし、ホントに見て回るだけになる。

 もしスキルを解除したとして、どう考えてもこの世界の人全く違う見た目の人間がいたら王様の耳に入るかも知れない。

 折角城から逃げ出してきたのに意味がなくなってしまう。

 まずは出来るだけこの城と町から離れることを考えないと。

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