第4話 宿敵と成長する日々も悪くないですね
アレクシアがセイフライド家に再び来る様になって早くも4ヶ月が経過した。
このエロいゲーム世界『アリスフィア』は僕が生前に生きていた地球と同じ月日の流れをしていて、365日四季折々の春夏秋冬がちゃんと存在しているんだ。
そして、森でゴブリンに襲われた時が春の4月だったから今はギンギラギンの7月の真夏だね。
生前の猛暑とは違ってこの世界の夏は意外と涼しくて快適に過ごせるから夏が始まった時は少しびっくりしたよ。
これも生前の記憶と今の記憶が混濁した影響なのかな?
それと僕の最大の宿敵たるアレクシアちゃんはというとね……4月に僕の家に来てからというもの。毎日僕の家に遊びに来る様になっちゃったんだよ。
それで毎日毎日一緒に剣術や魔法の稽古。暇な時は僕が生前にやっていた料理やイラスト画の趣味でアレクシアと一緒に遊んでるんだ。
本人は凄く楽しそうだし僕も《乙女達は男装乙女に恋をします》で最も最推しのアレクシア(ロリ)と時を過ごせて満更でもないしね。
いやいや。駄目だって僕。四六時中一緒にいたら絶対にボロが出で嫌われる様になるんだからさ。そうしたら首チョンパされて殺されちゃうんだよ?
「シン君。見て見て~! シン君と一緒に作ったマフィン。あんなに美味しそうに焼けてるよ。早く食べたいね~」
めちゃくちゃ可愛い笑顔で僕に微笑んでくれる。可愛い~よ。アレクシア~!
「……本当ですね。後でオーフェンさんとレイラちゃんを呼んで4人で庭園で御茶にしましょう。数日前に良い茶葉が手に入ったので僕が淹れましょう」
毒殺とかされたら怖いしね。生前の記憶が戻って
からというもの極力自分の事は自分でやるようにし始めているよ。
人をこき使って恨まれたくないしね。普通。貴族は料理も御茶も使用人に任せるけどね。
ほら僕って今までの素行の悪さが原因で使用人の人達から嫌われてるからさ。誰も近付いて来ないんだよね。オーフェンさんとレイラちゃん以外さ。
「うん。凄く楽しみ……だから」
眩しい笑顔。これがこの世界の主人公。このまま成長すれば男装し。男と偽ってアリス魔法学園で絶世の美少年としてヒロイン達と恋仲になりニャンニャンしていくんだろうな。
そして、僕はそのうちこの娘の前から消えてどこか知らない土地でスローライフで田畑でも耕して……
「だからシン君と凄くこんな幸せな時間がずっと続くと良いなって。私は思ってるの」
再び眩しい笑顔。可愛いよ。アレクシア……どうしてこうなった? 宿敵であるアレクシアと適切な距離を取ろうとしたのになんでここ数ヶ月毎日ずっと一緒にいるんだい?
こんなに一緒にいると情も沸くようになるし。悪口を言って嫌われたくないからずっと敬語と丁寧語で喋ってたらそれががデフォルト化しちゃったんですけど? 人に優しくなりすぎちゃってるんですけど?
この喋り方に慣れて昔の荒い口調で喋るなのに抵抗感まで出てきちゃったんだよ。
「………シン君は私に色々な楽しい事を教えてくれるから。好き」
ズキューンッ!!!
「ゴハァ?!」
不意打ちだった。僕が自身の最近の変化について考えて上の空でいたら。ロリアレクシアから不意打ちの大好きが飛んで来るなんて。
何だいこれ? 何かの罠かい? コウメイ。僕の心の中のコウメイ。助けてよ……いや。誰だい? 心の中のコウメイって? 頭可笑しくなってるんじゃないのかい? 僕。
「ハハハ。流石、王族に連なる名貴族シュリディンス家の最愛なる才覚と言われるアレクシアですね。ご冗談が上手いっ! そういうのは後々深く関わるであろうレイラちゃんにでも言ってあげて下さいね」
「……シン君。難しい言い方で誤魔化してるね。それよりもなんでレイラちゃんなの? 私はシン君に言ったのに」
それは君達がこれから仲良くなってニャンニャンまでいくからだよとは絶対に言えない。
「なんでって。アレクシアとレイラちゃんは同い年じゃないですか。だから僕よりもレイラちゃもっと仲良くなった方がこの先ずっと幸せになれますよ。アレクシアは」
そう。僕は最近これを狙っているんだ。アレクシアがレイラちゃんを攻略するルートをね。
レイラちゃんはセイフライド家の見習いメイドだけど。魔法の才能が高く僕の父さんのセイフライド公爵の推薦でアリス魔法学園に入学させられてその天性の才能を周囲に認められていくヒロインの1人。
幼少の頃は僕にボロ雑巾の様な扱いを受けて恨みを抱いていてね。
僕は前世の記憶を思い出して屋敷に帰ってレイラちゃんを見かけた瞬間。床に頭を擦り付けて土下座で今までの非礼を謝ったんだ。
以降は彼女にも敬語で話す様になって。最近ようやくまともに会話してくれる程に関係が改善したんだ。
「駄目……シン君と幸せになりたいの。そうなる様にどこまでも追いかけるからね」
一瞬。アレクシアの眼光が鋭くなった。怖いんだけど? これ首チョンパされる可能性ないかな?
「……それよりも。お昼からは森でゴーブ君達とあの森で遊びましょうか。アレクシア。また新しいお友達を紹介させて下さい」
「え? またモンスターのお友達が増えたの? シン君」
「はい。毎夜毎夜、野山を走り回ってますよ。この屋敷に居ても暇ですからね」
ゴーブ君とは4月に僕の脳天をぶん殴って柔術でやり返したコブリンの事で。
あの一件以来僕に恨みを抱いただろうと思った僕はこの世界のゴブリンの大好物。蜂蜜を持参し土下座した。
これも未来への不安要素の排除さ。コブリンと侮るなかれ。1度恨みを買うと一生恨まれるものなんだからね。
土下座のかいもあり。ゴーブ君と僕との遺恨はなくなり。今ではマブダチになった。
そして、夜な夜な屋敷を抜け出しては野猿の様にゴーブ君の友達である多種多様なモンスター達と共にリアル百鬼夜行でセイフライド領の山々を走り回っているんだ。
それがアレクシアにもバレて今ではアレクシアも夜な夜な僕と森や山を駆け回る様になる始末さ。
本当にどうしてこうなったんだろうね? 不思議だね。
「レイラちゃんも誘って。2人でリュウーズに乗って空を飛んで来たらどうですか? そうすれば御二人はもっと親密に……ムグッ」
僕がそう言いかけた瞬間。アレクシアは僕の口を両手で塞いだ。
「シン君。レイラちゃんの事ばっかり言ってるよ……そんなの駄目なの……今はアレクシアと居るんだから」
おっとこれは不味い。この場面でアレクシアを泣かせたら遺恨が残るじゃないか。
「ですね。今はアレクシアと一緒でしたね。すみません……お昼からは僕と2人きりでゴーブ君達に会いに行きましょうか。ね? アレクシア」
「……シン君。うん。ありがとう」
嬉しそうに微笑むアレクシア。ああ、この娘が屋敷に来てからずっとこの娘には振り回されているけどさ───
この愛らしい笑顔を見てたらどうでも良くなる……この娘の為に何かしてあげたいと思えてくるんだ。そんな自分がいるのは何でだろうね?
この娘は僕にとって最大級の死亡フラグだっていうのにさ。