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第10話 深夜の徘徊。妄想聖女候補ちゃんと悪役令息


《セイフライド領地 ナルミナ街道 深夜2時》


 妖怪や魔の者がもっとも活発化する丑三つ時に僕の遊び場《セイフライド領地》に大量の荷物を積んだ馬車の一団が領地への許可証も持たずに走っているのを見つけたよ。


 何だろうね? 本当に凄い数だよ。馬車だけで軽く数百近くある。良く分からないけど。馬車に乗ってるのはどう見ても盗賊の人達みたいだし……身ぐるみ全部ひんむいて僕の老後の辺境スローライフの資金にしてあげようね。


 盗賊の人達はマブダチになって遊んであげなくちゃね。


「急げ急げ急げーっ! アルビオン帝国でのオークションに間に合わすんだ。今回の人攫いで手に入れた上玉で一財産作るんだからよぉ!」


「んーんーっ!」


「で、ですがお頭。ここは確かあのリゲイン王国の懐刀ハイド・セイフライド公爵の領地で……夜な夜なモンスターの大群が出るって噂ですぜぇ」


「んーんーっ! プハァーッ! だ、誰か助けて下さいーっ! 私は聖女候補の……んーっ?!」


「黙りな。高額商品……そんでお前もだ。ダガールッ! そんなの百も承知だ馬鹿やろう。だがな。このナルミナ街道を通るのがアルビオン帝国に行く一番の近道なんだよ。ここさえ通過できればラクス皇国から拉致してきた聖女や聖騎士候補共のガキ共をアルビオン帝国で売りさばいて。俺達は一夜にして億万長者に……」


「へ~、この猿轡さるぐつわ亀甲縛きっこうしばりで縛られてる可愛い女の子達って聖女候補や聖騎士候補の子達なんだ。ていかあれは美少年かい?」


「……は? 何でここにフードを被ったガキが居るんだ? おいッ! ダガール。ガキの管理は徹底しとけとあれ程」


「ゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブ………ホァーターーッ! ゴブゴーブッ!」


 ゴーブ君がオラオラオラオラーッ!みたいな感じでゴリラみたいな男の人を殴った後。〖お前はもう消えている〗みたいな決めポーズをとっているよ。かっこいいね~! そこに痺れる憧れちゃうよね~! シュ~!


「オンドゥルルラギッタンディスカー?!」ドサッ!


 そして、ゴーブ君に一方的に殴られた男の人は意味分からない叫び声で馬車から頭からダイブして行ったよ。あれは確実に死んだよね?


「ダガールッ! てめぇ等。俺の恋人に何て事しやがるっ!」


 …………顔に刺青いれずみを入れた筋骨隆々のナイスゲイが泣きそうな顔で僕とゴーブ君を睨み付けてるよ。怖いよね。


「んんーっ?! プハァーッ! そこのフードの貴方。高貴なる私と皆さんを助けなさい。これは命令です。後にラクス皇国の聖女となるこの私ララ・エウシュリア・メレクトルクをっ!」


「あっ! テメエ。また勝手に縄を取りやがったな。黙ってろっ!」


「んーっ?! んんーっ!」


 王族や貴族階級が羽織はおる様な上質な布生地で作られた聖職者の修道服。めの細かい金の刺繍ししゅうまで施されているね。


 さぞや高貴な産まれの方なんだろうけど……上から目線の物言いはちょっと宜しくないね。


 しかし……この高そうな修道服に猿轡さるぐつと亀甲縛りが良く似合う桃色髪の可愛い女の子。


 高飛車で……プライドが高そうで……桃色髪……猫みたいな三白眼さんぱくがん……!


「あー、君。アレクシアにお仕置きされてドMに目覚める妄想聖女ちゃんか」


「んーっ?!」


「あー? 何だお前等知り合いか?……というか。お前。フードの中を良く見たら俺後のみの美少年じゃねえか……ハァーハァー……なんだ。そうか自分から俺の所に……」


「ゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブッ! ホァーターーッ! ゴブッ!」


「ヒデブゥイッ?!」


「あーっ! 駄目だよ。ゴーブ君。あの人は高額賞金首なんだからさ~! 駄目人間《ライチ師匠》の駄目な人脈で生きたまま変態行き付けのストリップショー専門の怪しいお店に引き渡すのにさーっ!」


「ゴブ……ゴブゴブッ!……」


「……アイツはもう終わってるっ!じゃないよ。ゴーブ君~、冗談は程程にね」


 馬車の手綱たずなを右手だけで持ちながら。僕のほほへと優しく左手を伸ばそうとしていた。その瞬間……ゴーブ君のオラオラパンチが賞金首 《キース・コトーオ》を馬車の上から吹き飛ばした。


「んーっ! んーっ! んーっ!」


 聖女候補の亀甲縛り幼女ちゃんはさっきから。んーっ!んーっ!うるさいしね。そんなに縛られるのが好きなのかな?


 ────ララ・エウシュリア・メレクトルク。《乙女達は男装乙女に恋をします》の三大人気エロインの一角。昨日ゴルドの森で出会でくわしたドスケベエロインのカレンティシアちゃんと双璧を成す位。変態ユーザ……お紳士男性達から絶大な指示を得ている超絶ドM妄想聖女ララちゃん。


 人気過ぎて1分の1スケールで専用フィギュアも販売されたくらい人気でね。お値段なんと1つで250万円。販売と同時に即完売だったらしいよ。凄いよね~! 


 僕も即決して買っちゃてね。特にお腹から下辺りの造り込みが半端なかったよ。凄くリアルなんだ。


 それがいま目の前で涙目になりながら猿轡さるぐつわめられて亀甲縛りでいる女の子。それが幼女版ララちゃんだ。


「ヒヒィンン!!」


「ハイハイドウドウハイドウドウ~!」


 暴れ出しそうになっていた。癒馬ヒールホースを大人しくさせて馬車を止める。


「んんーっ! んんーっ!」


「いい加減。猿轡さるぐつわを外せって? やだよ。君。マシンガントークだしさ。アレクシアみたいにおしとやかで優しく喋れる?」


「うんうん……んーっ!」


「そう。なら外さない」


「んんーっ?! んぎいぃい!!」


「変な擬音まで発し始めたよ。困った娘だな~」


「ブルル……」


 このドM妄想聖女ララちゃんは結構腹黒な性格で。幼いながらも口と頭が凄くキレる娘でね。

 

 エロいゲームの中での過去回想で幼いアレクシアが皇国の祭典に家族と共に招待されてこの娘と初めて出会うんだけど。


 出会ってそうそうにララちゃんが割ったはずまの祭典用の皿をあろう事か。僕の最推しのアレクシアに罪を着せるのさ。


 だけど一緒に家族で祭典に出席していた悪ガキ化する前のシン・セイフライドが。何故かアレクシアを庇ったんだ。ララちゃんが皿を割る瞬間を見ていた証人まで連れてきてアレクシアの罪を張らすんだけど……


 シン・セイフライドの本当の狙いはララちゃんから受けたとある出来事への復讐だったって落で過去回想は終わるんだよね。


 そして、アレクシアとララちゃんはアリス魔法学園でお互い運命再開を果たし。紆余曲折うようきょくせつをへてアレクシアはドSに開花。


 一切の痛みをとまなわない。服だけ破く魔法のむちでララちゃんの修道服を破きながらララちゃんと歪んだ愛情でニャンニャンしてバットエンドを迎えるのがララ・エウシュリア・メレクトルクルートの終わり方なんだよね。


 救い様がないエンドばかり用意されてるのに可哀想は可愛いの法則で。ララちゃんは不憫可愛いヒロインとしての不動の立場を手に入れたってわけさ。


「……そのせいかな? なんだか無性に君に腹が立ってるんだよね? ドM腹黒聖女のララちゃん」


 とはいえ。この状態で何を喋るのか気になる僕が入るよ。好奇心で外しちゃおう……


「プハァーッ! こ、このっ! 野蛮人の人でなし。さっさとこの縄を外しなさいっ! それから。えーっと……私達全員を皇国に帰しなさいっ!」


 猿轡さるぐつわを外した途端にハスキーボイスのウキウキお猿さんみたいにうるさいね。猿轡さるぐつわを付けてただけに。


「皇国に帰す? それは無理なんじゃないかな? だって君達。全員行方不明扱いになってるよ」


「ハァー? 何を言っているのかしら? 私を始め。ここに連れ去られた子達は皆。産まれた頃から聖女候補や聖騎士候補としての英才教育を受けてきたエリートなんですよ。そんな私達を捜索隊も出さないまま行方不明扱いなんてあり得ませんわ」


「いや。だって君達が居なくなってもう半年位経ってるじゃないか」


「は、半年? 私達は数日前に拐われたばかりなんですよ」


 ……この世界には幾つかの小さな異世界がある。前に行った妖精国もそうだね。小さな異世界には長く居てはいけない。外界との時間の経過が変わるからね。ゴーブ君もそれを分かっていて僕達を早く外界に戻してくいた。


 どこの小さな異世界に居たのかは分からないけど。外見的歳は取って無くても時間は持ってかれたね。数日居ただけで半年の時間。指南書グリモワールの小さな異世界に居たのかな?


「ラクス皇国の神隠し事件は僕も知ってるけどね。それだけ時間をかけて見つからなかったんなら。流石のラクス皇国も諦めるよ。今さら帰っても新しい聖女候補や聖騎士候補が居るだけで君達に居場所は無いんじゃないかな?」


「……そんな。私……いえ。私達は皇国の未来の為に英才教育を受けてこれから花華はなはなしく活躍していくんですよ……それなのにラクス皇国に帰っても居場所が無いなんてあんまりですわ」


 ちょっと泣き始めちゃったよ。気まずいな~……あっ! そうだっ! 良い事考えたよ。どのみちララちゃんや他のヒロインちゃん達はアレクシアが通う予定のアリス魔法学園に入学してもらわないと僕が不味いからね。


「ん~……このまま路頭に迷うなら僕の隠れアジトに住みなよ。色々あって快適だよ」


「グスッ……貴方のアジト?」


「うんうん。ちゃんと君達が色々と学べる様に色々な駄目人間達も用意するし。隙間バイトをすれば高額なバイト代も出るよ」


 違法な闇バイトだけどね。ここは異世界《ゲームの中》だからノーカンノーカン。


「あの……その。先ずは貴方のお名前をお聞かせ頂いても? 救世主様」


 あれ? さっきまで僕を睨み付けていたララちゃんの目がトロントンロンになっているのは何でだろうね?


「えっと。僕の名前はシンだよ」


「シンしゃま?」


 ………しゃま?


「ゴブゴーブッ!!」


 僕がララちゃんの言い方に疑問に思った時。ゴーブくの叫び声が聴こえて来た。


 ああ、僕達にお土産を積んで運んで来てくれた人達とアブダチになっているんだね。感心感心。


「ゴアアア!!」

「ヒィィ!! 数千匹のオークの群れだっ! 助けてくれ~!」


『ギャオオオオ!!』『キュラララ!』

「何で飛竜種が何百匹もこんな街道のど真ん中に居るんだよ」


「ウォォォ!!」

「銀狼種? 全滅したんじゃないのかよ?」


 最初は馬車から降りて激しく抵抗していた盗賊さん達も軽く万を越える徒党ととうを組んだモンスター達にきなう筈もなくどんどん捕えられていくね。


 まるで地獄絵図で笑えないや。笑うけどさ。ハハハ。人がご……これ以上は言っちゃいけないね。


「ゴーブ君。なんかさ。君達さ。どんどん組織化していってない? オーク君達なんて鎧や武器まで持って……ドラゴン君達なんて何で重装備を着て飛び回って……それにドラゴン君達に股がってるのゴーブ君のお友達達だよね?」


「ゴブゴブッ! ゴブゴブゴーブ。ゴブゴブゴブブブ」


「へ~! あれ全員。僕の言う事しか効かないマブダチ達なんだ。それに数日前は遠征で北の魔王ちゃんの城を陥落させて幽閉。新たな魔王のための玉座を作ってるんだ。凄い事してるね。ゴーブ君達は」


「ゴブ?! ゴブブブ////」


「や、止めろよ。全部。君のタメさって? 何を言ってるのか分からないけど。嬉しいよ。ありがとう」


 へ~、ゴーブ君達。数日間居なかったと思ったら魔王狩りのえんせに行ってたんだ。数ヶ月前からモンスターの国も造り始めたとか言ってたし。色々とやっているんだね。


「そういえば。今回の新しく手に入れた奴…マブダチ達はいつも通り北の谷底で矯正きょせいしてから働いてもらうのかい?」


「ゴブゴブブブ。ゴブング」


「ふ~ん。働きに応じて賃金も出して社会復帰されるんだ。流石だね。ゴーブ君は……出来たマブダチだよ」


「…何でこれで会話が成立していますの?」


「ゴ、ゴブブブ////」


「ま~た照れちゃってさ。じゃあ僕は隠しアジトに元聖女候補ちゃん達を連れてて暮らさせるからさ。たまに見に来て食料とか分けてあげてよ。後ヨロシクね~!」


「ゴブブ~!」


 ゴーブ君は僕に手を振ると最近軍隊化させ始めたマブダチ達の指揮を取り始めた。


「怖いよー! 「ここどこお?」「お母様~!

」「パパ~!」


 見た目からして産まれは貴族や商人由緒正しき聖職の家系の子達って感じだね。


 うん。こんな才能の塊達をの垂れ死なすなんて勿体無いよね。


「……私達が信じていた皇国事態に行方不明扱いで棄てられるなんて思いもしませんでしたわ」


 あえて亀甲縛りのまま歩かせ始めたララちゃんが悲しげな表情でそんな事を言い始めた。


 色々と塞ぎ込んで食い込んで幼女なのに絵になるね。


「ふ~ん。なら新しい何かを信じれば良いんじゃないかな? ララちゃん達はさ」


「……新しい何かですか?…それはいったい?」


「ん~? そうだね。僕……とか?」


「シン様を?」


「な~んてね。よっとっ!」


スパンッ!


 僕は腰に帯ては魔法の短剣でララちゃんの亀甲縛りを解いてあげた。


「嘘嘘。冗談だよ……これからは自由に生きれば良いんだよ。ララちゃん達はさ。自由に自分達が本当に信じた何かの為にね。そうなる為に今後は僕が色々とサポートしてあげるからさ」


「私達が本当に信じた何か……シン様」


 僕は《乙女達は男装乙女に恋をします》の全てのルートをクリアしたから知っている。ラクス皇国が今後どうなっていくのかも。


 ララちゃん達のバットエンドも……ハッピーエンドもなかった事も。


 だからせめて前世の記憶を思い出した僕が居るこの世界リアルだけは────


 この幼い子達が幸せに生きられるハッピーエンドを用意してあげたいと心の中で静かに誓ったなんて。


 ララちゃん達には絶対に言えない話だね。


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