第四話「荒波f(フォルテ)」
朝の教室に入ると、俺はすぐに気づいた。
自分の席の近くで、二人の女子が楽しそうに話している。
「あっ、シマ!おはよう!」
天野美月の明るい声が響く。
「おはよう」
俺も返事をする。
「おっ、おはよう」
そして、その横にいるのは黒髪のロングヘアの少女、中野詩織だった。
昨日の軽音部での出来事を思い出しながら、俺は少し戸惑った。
まさか、今日こんな風に声をかけられるとは思っていなかった。
美月は楽しそうに言った。
「詩織がね、もしよかったら軽音部に入ってほしいんだって。」
「そっ、そんなこと言ってない……」
少し慌てたように、詩織は否定する。
「だから、一緒に今日も部室いかない?」
美月は俺の手を引くようにして誘った。
「だから、そっ、そんなこと言ってない……」
詩織の声はどこか困惑していた。
結局、俺たちは三人で軽音部の部室に向かうことになった。
旧校舎の階段を登る足音が、少しだけ緊張感を含んでいた。
いつもとは違う何かが動き出していることを感じていた。
部室の扉を開けると、昨日とは違いギターの音は聞こえなかった。
代わりに低く唸るようなベースの音が部屋を満たしていた。
部屋の奥、黒いベースを抱えていたのは見たことのない少女だった。
肩までの銀髪をツインテールに結び、制服のスカートは規定より少し短めだった。
彼女の細い指がベースの弦をつま弾くたびに、鋭く光る瞳が俺たちを見つめた。
「……あんた、誰?」
その声に俺は一歩たじろいだ。
「えっと……桐島智也。詩織さんのクラスメイトで……クラスメイトの付き添い、みたいな」
「ふーん、つまり“ただの人”ってことね」
その言葉には鋭い棘があったが、敵意ではなく警戒心が込められていることはわかった。
「すみません!今日も見学できたんですけど!」
美月が割って入り、にこやかに言った。
銀髪の少女は少し視線を逸らした。
「あっそ。……で、二人ともギター弾けるわけ?」
「「いや、全然」」
俺と美月は顔を見合わせながら答える。
「じゃあ歌?」
「「いや、歌も……」」
「じゃあなんでいるの?軽音部って、遊びじゃないんだけど」
強い口調に部室の空気が少し緊張した。
その時、近くにいた別の部員が静かに注意した。
「乃愛さん、そんな言い方しなくても!」
「だって……詩織だって、本気で音楽やってるのに」
隅の方で静かに弦の調律をしていた詩織が、小さな声で言った。
「……乃愛。やめて」
「でも……」
「わたしが、ここにいてもいいって思った。だから、いいの」
詩織の言葉を聞いて、銀髪の少女は目を伏せ、短くため息をついた。
「……詩織がそう言うなら、別にいいけど」
そして俺を見て、少しふてくされたように呟いた。
「……ま、まだ認めたわけじゃないから」
「は、はあ……」
何がどうなっているのか、まだよくわからなかった。
でも、確かにまた新しい輪が広がったことは感じていた。
その日、部室は少し騒がしかった。
美月がギターを手に取り、弾いてみたいとお願いすると、詩織はすかさずコードの持ち方を指摘した。
乃愛さんは無言で調律を続けている。
俺はそのやり取りを少し離れた場所から眺めていた。
喧嘩のようで、でもどこか楽しそうな会話。
バラバラだった音が、一つの曲になろうとしているようだった。
帰り道、美月はいつものように笑顔だった。
「ねぇシマ、軽音部ってさ、ちょっといいよね!」
「……うん。にぎやかで」
「詩織と乃愛って、昔からあんな感じなんだって。真逆だけど、仲いいの」
「そうなんだ」
「……あたしさ、もっとたくさん、楽しいことしたいな。シマと一緒に」
「……えっ」
突然の言葉に、俺は足を止めた。
喉の奥に何かが詰まったようで、うまく返せなかった。
だが、そんな沈黙さえも悪くはなかった。
春風が頬を優しくなでていく。
俺の心に、音楽がゆっくりと鳴り始めていた。
第四話です。最近小説を書くのにはまりすぎてゲームできてないです。あなたの心に届けばいいなと思います。まだにわかなので、面白くないところとかあるかもしれませんが大目に見てください。




