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第三話、「新しいメロディー」

朝の教室。扉を開けて中に入ると、すでに誰かの姿が目に入った。

「おはよ、シマ!」

天野美月だった。明るくて元気な声が、教室の静かな空気をぱっと弾ませる。


俺、桐島智也は、その声に少し驚きながらも、自然と返事を返す。

「……おはよう」


昨日までは、こんな風に誰かと軽い会話すらなかったのに。

自分でも信じられない変化に、胸の奥で小さな鼓動が高鳴っている気がした。


放課後。

美月が、いつも通りの無邪気な笑顔で言った。

「ねぇ、今日も軽音部行こうよ!」


軽音部。

昨日、美月が昔の友達と再会したあの場所。

俺はまだ部活に入るつもりはなかった。ただ、彼女の楽しそうな様子を見ていたら、断る理由なんてどこにもなかった。

「……うん、いいよ」


旧校舎の三階へ続く階段を一段一段登りながら、少しずつ変わっていく自分の毎日を感じていた。

部室の前にたどり着くと、いつものようにギターの柔らかな音がかすかに響いている。


「失礼しまーす!」

美月が元気よく扉を開けると、そこにいたのは黒髪ロングの少女、中野詩織。

無表情だけれど、その指先は音楽への情熱を確かに物語っている。


「詩織ー!来たよー!」

「……また来たの?」


詩織さんの口調は少し呆れ混じりだけど、どこか照れ隠しのようにも聞こえた。


美月が俺の方を振り返り、明るく紹介する。

「あ、紹介するね!こっちはシマ――じゃなくて、桐島智也。あたしのクラスメイトで、今隣の席で友達!」


俺は思わず「友達」と言われて戸惑った。自分がそんなに簡単に友達になっていいのか、まだ信じられなかったからだ。


詩織さんは一歩近づいて俺を見つめた。

「……あたしの知り合いじゃないなら、何しに来たの?」


その目は冷たくはない。ただ、感情をあまり表に出さないだけだとすぐにわかった。


「……その、付き添い、というか……」

「ふーん」


詩織さんはギターをそっと立てかけてから、少し距離を保ったまま、静かに言った。


「じゃあ、せっかくだから質問していい?」

「え? あ、うん」


「……音楽、好き?」


予想外の質問に、一瞬戸惑いながらも答えた。

「……聴くのは、わりと、好き……かも」


「ふぅん……それならまあ、ここにいてもいい」


ぽつりと落ちた言葉は、俺にとって小さな許可のように感じた。


「詩織って、そういうとこあるよね~。でも、ちゃんと話したの初めてじゃない?」

「うん……悪くない、感じ」


詩織さんの表情はほんの一瞬、笑っているようにも見えた。

俺はそれが気のせいかもしれないと思いながらも、どこか心が温かくなるのを感じていた。


「よろしく……」

「よ、よろしくお願いします。」


まだこの空間が自分の居場所になるとは思えなかったけれど、ここで確かに“はじめまして”の気持ちが交わされたのだと感じていた。


帰り道、美月は鼻歌交じりに軽やかに歩いていた。

「ね、どうだった? 詩織、ちょっと不思議だけど、いい子でしょ?」

「……うん。ちょっと、意外だった」

「でしょ? 無口だけど、ギターのことになると止まらないんだから!」


美月の笑顔を見ながら、俺の心に小さなさざ波が立っていた。

昨日まで知らなかった誰かと、今日同じ空気を共有した。


そして、初めて自分の中に芽生えた感情。

――軽音部に、入ってみたい。


何かが、少しずつ変わっていく。

静かに、確かに。


第三話です。めちゃくちゃ本人は頑張って書いています。もしよかったこれからも連載していくので読んでいただけるとものすごく自分も喜びます。頑張ります。


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