表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

8

 野営地から随分と進んだ。気配に気を付けつつ、頭を必死に動かした。おかしな点がいくつもある。

 一番は夜戦は行わないという制約だったにも関わらず、夜戦が開始されたこと。大佐がミスをした、という考えも浮かぶが、それはない。断言できる。

 大佐が作戦会議で多くの人達と制約を何度も確認している所を知っている。そもそも、制約を読み上げたのは元帥だ。もしこれで制約がこっちの認識違いなのだとしたら、それは元帥のミスだ。

 それから、さっきから敵の気配がない。

 大抵の夜戦は大砲を打ち込んで、敵陣が混乱しているところを大軍で叩いたりする、いわゆる「不意打ちからの打撃」が一般的。

 その大軍がいない、いや、敵が一人もいない。気配もない。

 そうなると、大砲は敵のミス……?でも、一発じゃなくて何発か打ち込んできていた。それに敵の野営地に打ち込むなんて、随分と準備をしないとほとんど不可能だ。もし万が一、敵のミスで打ち込まれていたのだとするならば、自分のいるべき場所はここではなく、大佐の近く。戻るのが得策なのでは……?

 自分の足を止めて考える。自軍の野営地の方を向く。火は消し止められたのか、少量の黒煙が上がっているだけだった。火は見えない。耳を澄ましても争っている音は聞こえない。

 立て直しをしている音も聞こえないから、おそらくは大佐が言っていた通り北上して、第三陣営と合流しに行ってるのかもしれない。

 私たちがいた第一陣営から第三陣営までは距離にして3キロ程離れている。間に第二陣営があるが少し方向が違う。

 それに第二の方向からも火の手があがっているのが若干見えた。それを大佐も確認していたのだろう。

 同時刻に第一陣営と第二陣営に火の手が上がった、つまりは最前線の陣営二つを攻撃したということ。傷を負ったもの同士が集まるよりも、おそらくまだ傷を負っていない第三陣営と合流した方が可能性が残る。大佐はそう考えたのだろう。きっと第一も同じことを考えるだろう。

 それに幸か不幸か第三陣営は野営地の中で一番大きい。看護婦とかもいるし物資も一番多い。傷を癒す必要がある人は第三に行くのが得策。

「なんで…?」

 だがその敵の行動にも疑問が残る。

 なぜ一番大きい第三陣営を狙わなかったのか。

 打撃を与えたいのであれば、第三陣営を最初に叩いて、異変に気が付いた第一陣営、第二陣営が第三陣営に向かう途中で叩く。

 これが一番ベーシックな作戦だし、それならいま自分がいる敵陣と第二陣営の間に敵がいないのも納得できる。

 だが実際は敵は第一と第二を叩いた。

 今の、第一と第二を同時に叩くのは少々リスキーではないだろうか。

 もし、第一が攻撃を受けている事に第二が気付かなければ、距離が近いのだから第二は第一に向かうだろう。その時点で第二の行動は二つになる。第一に向かう、もしくは第三に向かう。

 行動が二つ予想できる、ということはその分軍隊をわけないといけなくなる。それは一つ一つのグループの人数が減り、戦力が減ることに繋がる。そうなってもし、こちら側との戦闘中、闘える人が一人もいなくなってしまえば、その作戦はすべてがパーになる。

 もちろん、その作戦が刺されば強いがそんなハイリスクハイリターンなことをするのだろうか。

 だが、実際にはその作戦は刺さり、大佐は第三陣営に向かっている。

 私の頭にふと一つの考えがよぎる。

 もし仮に、大佐のことを事前に知っている人が、大佐の冷静さ、頭の回転の速さを知っていたら…?

 自分の足がピタリと止まった。

 もし、自分の考えが正しいのであれば、大佐の傍にいるのが正しい判断なのでは…?

 そう思った瞬間に自分の足は第三陣営に向かった。

 自分の考えが正しいかどうかは正直分からない。それでも、なんとなく、自分の勘が内通者がいることを正しいと言っている。ずっと自分の中にあった違和感、それが内通者に繋がるのではないか。たぶん、根拠はそこにあるんだろう。

 いや、もしかしたら内通者ではないかもしれない。

 例えば、少しだけ私たちのことを知っている人、とか。

 走り続けて、背中に汗が滴る。でもそこには運動したせいでかく汗と、嫌な予感が止まらず冷や汗が混ざっていて、とても気持ち悪かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ