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「お、また会ったな」

「誰」

「冷たいなぁ」

 太陽の顔が全部隠れたころ自陣の設営が終わり、部隊全員に休息を取らせ一人見張り番をスタートさせた。

 大佐も起きていると言ってくださったが、大佐を疲れさせるわけにはいかないと丁寧にお断りした。最初は中々引いてくれなかったが、自分が三日間眠らなくてもパフォーマンスを落とすことがない、と言うとまた悲しそうな顔をして「そうか」と引き下がってくれた。

 そこから月が随分と傾いた時、僅かな気配がした。人数は一人。私は袖から苦無を出して待機した。本当はハンドガンの方が便利なのだが、大佐、及び周囲の軍人が起きても困る。

 私が起きていられるように訓練されたのは、見張りを私一人に任せ、他の人に眠ってもらい疲労からくるパフォーマンス低下を防ぐためだった。

 ここで私がハンドガンを使って戦えば、何のために私が三日間寝なくても大丈夫な体にしたのか。まったく意味を成さなくなってしまう。近づく気配にふと苦無を突き立てようとするとひらりと躱される。

 そうして冒頭に戻るのだ。

 暗がりの中目を凝らせばそこにはいつか出会った手紙屋がいた。

「何の用」

「覚えては居るんだ」

 こいつ…私はニヤニヤしている手紙屋の頭めがけて苦無を投げた。

「あっぶねぇなぁ」

 ふと手紙屋から並々ならぬものを感じ取った。これは無視してはいけない、そんななにか。

「お前、なにもの?」

「だから、言ってんじゃん。ただの手紙屋だって」

 確実にウソだ。“ただの”手紙屋が私の苦無を避けられるわけがない。手紙屋と私の間には2間もない。しかも日は完全に落ちきり、明かりは少しの松明だけ。

 こんな中ふいに投げられた苦無を避けるなんて、相当戦闘慣れしていない限り不可能だ。圧倒的な実力差を感じる。感じる事なんてないが、これが世にいう背中に変な汗を掻く、という事なのだろう。

「悪いことは言わない、この戦争から手を引け」

「は?」

 手紙屋は突然そんなことを言い始めた。あまりにも突然で脳の処理が追いつかない。

 手を引け……?戦争から……?誰が...... ?私たちが……?手を引く……?

 ようやく理解が追いつくと私は両手にハンドガンを取り出し、狙いを定め複数回打ち込んでいく。今度は絶対に逃がさない。ここでこいつを倒しておかなければいけない。そう脳が警告を鳴らしている。

 部隊の全員が起きるとかそう言ったことはもう考えていなかった。

 ハンドガンの乱発で舞い上がった砂埃が少し落ち着くころ、自分の気持ちも落ち着きを取り戻した。深呼吸をひとつする。

 私の銃声で起きてきた部隊の数人がなんだなんだと武器を手に持ちながら野次馬をしている。

 おかしい。今度は確実に狙いを定めて、苦無よりも軌道が早い銃を使ったのに、気配がまだそこにいる。

「血の気が多いって」

 確殺しようとしてるじゃん。と言いながら手紙屋、いや、もう確実に手紙屋ではない。そいつはそこに立ったままだった。一ミリも動いていない。

 いや、動揺してはいけない。きっと何かしらのトリックがあるはず。けど、どこに?どうやって?

「ま、忠告はしたよ」

 そういって彼はひらりと闇夜に紛れていった。

「追え!」

 耳に届いたのは大佐の声だった。私の様子から見てそう判断したのだろう。

「だめっ!!!」

 大佐の声の数倍の声で私は止めた。

 あれは追いかけちゃいけない。部隊の体力を消費させるわけにはいかない。

 私の脳が正しければ、あれの相手は骨が折れる。

 部隊員がお互いの顔を見合わせているのが伝わってくる。個々の管轄は大佐の指示が絶対。それなのにその大佐お抱えの戦闘機がストップをかけたのだ。部隊員が困惑するのも頷ける。

「追いかける必要はありません」

 私は必死に声を絞りだした。そんな様子の私をみて大佐は「分かった」と言い部隊員にテントに戻って休むように指示を出した。

 部隊員がざわざわとしながら各々のテントに戻っていく。

 その中でずっと思案し続けた。彼は一体何者なのか。何故自分の弾を避けることが出来たのか。

 これでもライフル系の成績は最初から常に良かった。昨日調整をした時も100発100中、問題は無かった。もし仮に数発外していたとしても、あれだけ乱射した弾がかすり傷ひとつもつけないことなどあるのか。

「何があった?」

「正直分かりません」

 この一言が今の私のすべてだった。

 そもそも、彼は何故私たちに戦争を辞めるように言いに来たのだろうか。彼は私たちと同じシュバルの人間のはずで、ただの手紙屋のはずだった。

 自分の頭の中にひとつの疑惑が浮かんだがすぐに振り払った。まさかそんなはずがない。

「彼は私が対応します。恐らく私じゃないと対応出来ない」

 大佐は黙って私の言葉に頷いた。

 そのまま今一度思案を巡らせる。

 ふと私は僅かに感じていた彼への違和感の答えをようやく見つけた。見つけた瞬間、疑惑がほとんど核心に代わり、何故だか凄く嫌な予感がしたのを私は無視した。


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