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偽物の鳥たち

作者: ストロガノフ

アメリカで風刺的な意味合いで流布された言説「Birds Aren't Real」。

それを本気で信じている人の視点で物語を書いて見ました。

是非、最後までお読みいただければ嬉しいです。

「家畜の皆さん! どうか気付いてください! 今この瞬間にもあいつらに僕たちの全てを監視されているんですよ!」

 拡声器を手にそう声を荒げた僕は、電線に停まっている無数の敵たちの目を見据え、指を差した。

 でも、群衆たちは僕の決死の叫びを無視して歩き続ける。立ち止まる者はごく一部だ。しかし、そいつらは僕の主張を真面目に聞く真実に気づいた人々なんかじゃない。SNSにアップする為の格好の題材が見つかったとばかりに嘲りの笑みを浮かべ、スマートフォンを向けている頭がすっからかんの輩どもだ。

 だけど、僕は絶対に屈しはしない。

命の危険や群衆の無視や嘲笑などに怯えて、この世界を敵に回す戦いをやれるものか。かつてガリレオ・ガリレイは「地球は太陽の周りを動いている」と主張して、最悪死刑になる裁判にかけられた。彼は命こそ助かったものの、「それでも地球は動いている」と生涯、真実の探求に努めたんだ。

僕は今や、ガリレオになったと言っても過言ではない。



友人なし、彼氏いない歴イコール年齢。大学中退後に実家の子ども部屋に引きこもりニート生活、いや、常駐自宅警備員職に就いている僕は、今まで小さな世界で戦っていた。

毎夜、ご飯を一階の冷蔵庫からパクる、いや自宅警備員としての給料を受け取る為に二階から降りてくる。その度に「働け」とぼやく両親。奴らはわざと聞こえるように独り言を言う。

「大人の女として恥ずかしいな」

「親戚やご近所に顔向けできん」

「ごく潰しのお前を育てる為にどれだけの金を費やしたことか」

 最初のうちは言い返していたが、何を言ってきているのか分からないとどこ吹く風。だから、『無視』という寡黙にして最強のガードと攻撃に徹することとした。

 そんな戦いと同時並行で、僕は日々の職務を忠実にこなすことだけだった。

 パソコンとスマホに向かい合い、ニュースサイトを開く。そして、バカな有名人が不祥事を起こした記事を探す。

ターゲットロックオン、僕のようなごく潰しがどこかの王子様を寝取ったとかで、僕たちが日々血と汗と涙を流しながら治める血税(僕はこう見えて消費税をちゃんとはらってるんだぞ)をどんぶり勘定で使って豪勢な結婚式をやろうとしているらしい。思わず不平等に激しい怒りを覚え、義憤に駆られる。

コメント欄に向き合う。集中砲火の準備が整った。これは民主主義国の国民としての権利であり義務。

「はぁ? ロイヤルニートですかぁ? そんなのに使う金があったら景気対策でバラまけよ」

「豪華な生活保護。羨ましいです。下級国民より」

「世間知らずなお姫様、人生舐めすぎ乙」

「なんだろう? 嘘つくのやめてもらっていいですか? まずは説明責任を果たしてからですよね。日本は独裁国家ではありませんよ~笑」

 いくつものアカウントを使いまわして一日中あらゆる記事を荒らしまくって、いや市民としての声を届け、気付けば日が落ちる。もうお薬を飲む時間だ。

 ベランダをふっと見るとカラスがとまっている。夜の闇に紛れ、私を嘲笑っているかのように感じて声を荒げる。

「死ねよ! 気持ち悪い!」

 カーテンを勢いよく閉めるが、まだ不気味な視線を感じていた。昔から鳥は嫌いなんだ。



「だから、なんでないの? 僕はちゃんと感じたの! しっかり探してよ!」

 雇用主のジジイとババアを部屋に呼びつけ、僕はヒステリックに怒鳴った。

「何をバカなこと言ってるんだ。お前のような働きもしない社会のお荷物を誰が盗聴するってんだよ」

 ジジイが禁句を言って、私の燃え盛る心にガソリンを注ぎ込んだ。

「あんたら、政府が何をしようとしているのか知ってる? あのね、少し調べてみたら分かると思うんだけど、日本は三十年間大卒初任給が下がっていてね。これ、某人材派遣会社と某広告代理店が、優秀な若者を搾取してるの。あいつらはなんでそんなことするか。それは外国のエージェントなのよ、それちゃんとホームページに証拠あるわけ。でね、僕たち日本人がなんでこんなに不平等で不幸なのか! それは大卒初任給が下がり続けて、事実上の奴隷として――」

「ごめん、何言ってるか分からないから、今度、もういっかい先生のところに行ってきちんと新しいお薬もらってきて。いつまでもそんなのじゃお嫁にいけないわよ。もう私たちも年金暮らしなんだから。いつまでも親と金があると思ってちゃダメよ」

 ババアが唐突に僕の熱弁を遮ってきた。なんであんな人を見下すヤブ医者のところに行かなきゃいけないんだよ。あいつらはテキトーな診断名をつけてただの粉に過ぎない偽薬を処方して、国に水増しした保険を請求してボロ儲けしているだけだろうに。嫌になって来る。

そして、結局、盗聴器の話は有耶無耶にされてしまった。これだから家畜は。今度、あいつらのカード使って高性能の探知機でも買うしかない。どうせ、カード履歴も全て監視されていると思うけど、やらないよりはマシ。私は考えたことをすぐに行動に移す。アマゾンのショッピングサイトを開いた。



「鳥型ドローン……?」

 思わず僕は目を疑った。『あなたへのおすすめ』に表示されたその画像は明らかに、鳥にしか見えなかったから。

 無機質な見た目は街中で必ず見かけるハトやカラスと何ら見分けがつかなかった。こんなに科学技術が進化していたなんて。もし、これが悪用されていたら……。考えたくもない。

 ここでふと疑問に思った。

「なんでこんなに沢山の鳥が大空を飛び回ってるのに、死骸を見たことがないんだろう?」

 頭を抱えて考える。そして、その日はずっとその疑問について考えていた。

 ネット掲示板を開く。いつものように世界を牛耳る闇の勢力と戦う為に。そしたら、答えが見つかった。


 最近、例の王子様とニート女のロマンスでマスコミもSNSも過熱している中、恐ろしい法案が与党の強行採決によって通っていた。ユートピア実現法の可決。前々から何がしたいかよく分からないと批判を受けていた法案だが、どうやら私の大好きなこの日本を、外資系の巨大IT企業に売り渡す裏の意図があるらしい。ソースは、アフィリエイト絡みのインフルエンサーのブログ。

 僕が今使っているアカウントの個人情報は、全てかの国の諜報機関に盗まれていることは、当の昔に内部告発されていたことくらい少し調べればすぐに分かること。もし、あいつらに売り渡すとなると……。

「もう既にデジタル監視社会はやってきているんだ。これは……大変だ!」

 僕は真実を世に訴える為に久々に身支度を整えた。

 化粧なんかする必要もない、服装もジャージでいい。巨大なプラカードに、勘で思いついた鳥のロボット構造を描いて、押し入れから引っ張り出した拡声器さえあれば事足りる。

 思い足腰を上げ、二階から駆け降りると、あいつらが何か言ってたが知ったこっちゃない。



 久々に外に出たから、早く歩くことが出来ずフーフーと息を荒くしながらも駅前の広場についた。たまに政治家が演説をしていたりするが、奴らは歯が浮くような理想を熱弁し、頭の中では組織票と利権のことばかりしか考えていない連中に過ぎない。

 僕はそんな奴らとは違う。世界の為に立ち上がった名も無い市民だ。大きく息を吸って、吐き出す準備は整った。最強の敵と向かい合う覚悟はとっくに決めてある。

「皆さん! 聞いてください!」

 拡声器の音量をマックスにして声を張り上げたが、待ちゆく人は誰も聞きやしない。怪訝そうな視線をちらっと向けた後、すぐにそっぽを向いてそそくさとその場を去る。唯一の聴衆が敵たちだけとは皮肉なものだ。

「今、政府が進めているユートピア法! これはね、少し調べてみたら分かると思うんだけど、外資系グローバル企業によるデジタル監視社会を作る為のものなの。でね、もう既にシナリオは整っていて、今もう最終段階に入っているわけ。正直ね、ヤバいよ、これ!」

 そして、プラカードを頭上に掲げた。

「そこら中にハトやカラスがいるでしょ。こいつらはね。全部、もうドローンにすり替わっているの。本物の鳥たちはもう既に保健所によって殺処分させられていて、駐留軍が私たちを監視する道具にすり替わっているの。政府にとって皆さんは不平等な社会を支えてもらうための家畜です。家畜は監視されるために生きているんです! 家畜の皆さん! どうか気付いてください! 今この瞬間にもあいつらに僕たちの全てを監視されているんですよ!」

 拡声器を手にそう声を荒げた僕は、電線に停まっている無数の敵たちの目を見据え、指を差した。

 久しぶりに大声を出すと疲れる。僕にカメラを向けるバカどもなどどうでもいいが、カラスが発したアホ―という鳴き声は聞き捨てならない。奴らは知らせたか。もう僕も危険分子として認定されたことは間違いないだろう。



「お前のせいで大変なことになってるぞ! クソッ、だからあれだけ入院しろといったのに……」

 自室の扉の向こうから聞こえるジジイの罵声など気にするものか。そっと窓の外を見ると、バカどもが今日もやってきている。しかし、まとめサイトに載ってSNSのトレンドに乗っただけでも被害に対して得るものはあった。

「鳥は偽物」

 この強烈な単語は、人の気を引くものだろう。少しでも僕のように真実に気づいてくれる人たちが増えてくれたら嬉しい。世界がもっともっと幸せになることは間違いない。

 だが、盲目の家畜たちが圧倒的に多数いるのも事実。

「主張云々の前に一人称が僕ってなんなの? この女」

「まず仕事しろよ、いい風俗紹介してあげるからさ。多分、指名こないと思うけど」

「ソースは? ないですよね。はい、陰謀論です乙」

「非力な人間に正義を語る資格はない草」

 奴隷は奴隷でいるままが一番、身軽でいいのだろう。そうやって人を叩くことしかできない脳無しめ。そう思った矢先、家の前に駆け付けたコテコテのデコレーション街宣車が旗をなびかせ、エコーをガンガンにして喚く。

「人はァァ、平等ではないィィ! 生まれつき足の速い者ォ、美しい者ォ、親が貧しい者ォ、病弱な身体を持つ者ォ。

生まれも育ちも才能も、人間はみな違っておるのだァァ! 

そう! 人は差異故に互いに分かり合えないのだァ! だからこそ人は争いィ、競い合いィ、そこに進歩が生まれる! 不平等は悪ではない。平等こそが悪なのだ。権利を平等にした旧植民地帝国たちの連邦はどうだァ? 人気取りの衆愚政治に堕しておる。富を平等にした北の方の国は怠け者ばかりだァ。だが、我らが日本と某国はそうではないィィ! 争い競い、常に進化を続けておる! 日本と某国だけが前へ、未来へと進んでいるのだァァ。もし、お前のようなバカなお嬢ちゃんが死ねば、我ら日本こそが進化を続けているという証となるだろう。我々日本人は戦うのだァァ! 競い、奪い、獲得し、支配する。その果てに未来があるッ!!」

 ルソーの『人間不平等起源説』と社会進化論が悪魔合体したかのような聞くに堪えないふざけた演説をしている。いや、考え過ぎだわ。これは『コードギアス 反逆のルルーシュ』のシャルル・ヴィ・ブリタニア皇帝の勅旨をパクっているだけ。お前らの存在こそ退化の証だ。

うるさすぎて気が散るので無理やり寝るとしよう。

そう思って、最近は飲んでなかった薬を一気にがぶ飲みした。取り合えず、今日は夢の中で啓蒙活動に励むとしよう、非現実の世界にこそ現実ではなし得ない力がある。どうせ、僕は明日なんか望んでいない。今日のような無為な日々が続くだけだから。



 気付いたら見知らぬ病室。私が目を覚ましたのを見て、看護師と医師がやってくる。

「やっと目が覚めましたか。落ち着いてください。あなたは発作的なオーバードーズによって意識を失い、緊急搬送されました。ようやく三日経って、胃洗浄の効果が表れたようですね」

「本当にやってくれますね……。しばらく安静にしていただいてから、前々から拒まれていた入院に移っていただきます」

 僕はそれを聞いて憤る。

「誰が何の権限でそんなことを勝手に決めたの?」

 薬が抜けきっていないからか弱弱しく呟いた。

「医療保護的措置入院です。医師の診断とご家族の判断によって、あなたの保護の為に慎重に検討を重ねた最善の結果です」

 クソッ、これで僕を終わりにするつもりか、奴らは。思わず歯ぎしりをするが、医師と看護婦は告げるだけ告げて病室を後にする。窓の外の電線には、やはりカラスがとまっており、僕を凝視している。

 やることは一つ。どんな抵抗があろうとも僕は絶対に諦めない。戦い抜いてやる。



 僕はなんとか病院からの脱出に成功した。無数の目に追われながら、必死に行く当てもなく彷徨う。誰かが私を狙っているかもしれない。まだ、大丈夫、まだ、大丈夫……。その時、

「すいません」

 唐突に声をかけられた。スーツ姿のマイクを持った男性と、大型カメラを抱えた二人組だ。

「私たち、NBKのニュースQの調査班なのですが、現在、鳥が政府の監視用ドローンであると主張されている方に直撃取材を行っていまして――」

 日本ブロードキャスト協会、通称NBK。政府の犬、奴らの言いなりの放送局め。僕を狂人扱いするつもりだな。いいだろう、いずれ奴らをぶっ壊してやる。まずは、前哨戦だ。

「何から聞きたいの?」

 挑発的に投げかける。しかし、相手は淡々としている。

「ご自身の主張されている、鳥は偽物ということについてですが、どのような根拠があって唱えているのでしょうか? また、どのような意図をもって発信されているのでしょうか?」

「これよくあなたらが知っていると思うけどね。あなたらの上司である政府のね、秘密を暴くのは国民としての権利であって同時に課せられた義務でもあるのよ。なぜ、日本は三十年間大卒初任給が下がっていてね、世界でもこんな異常な事態、日本だけですよ。まず前提なんだけど、日本の政府の中枢たちは毎年十月に東京のなんとかホテルに呼び出されて駐留軍の将校たちに命令されて政策を実行しているわけ。これはネットで調べたらすぐ出てくると思うけど、国会よりも憲法よりも強い組織っていう――」

「はい、分かりました。では、次の質問よろしいでしょうか? ご自身の主張をもう一度確認させていただきたく、もう一度お聞かせいただけないでしょうか?」

 こいつらは人の話を聞く気がないのか。まぁ、いい。

「はいはい、分かったよ。あのね、鳥はね、鳥じゃない。かつて日本にいた美しい百二十億羽の鳥は、某国の軍用機からばら撒かれた生物兵器で殺されたの。そのあと、鳥型のドローンが各地に配置されて、内蔵カメラで国民を監視しているわけ。これね、少し考えたら分かることなんだと思うんだけど」

 アナウンサーはそれを聞いて頭を抱える素振りをするが、すぐに向き直り、

「なるほど。ではあそこの電線にとまっている鳥も?」

 僕たちを凝視するそれをアナウンサーが指さす。

「当然。なんで電線にとまっているかなんてすぐ考えれば分かること。ドローンってね、凄い電力を消費するでしょ。だから、電線にとまって補給しているの」

「そうですか。あっ、今、ふんをしましたがあれは何ですか?」

 それを聞いて僕は思わず身構えた。

「ヤバいよ! これ。危険人物の周辺に印をつけて、スーパーコンピューターに位置情報を特定させる発信機を落としたんだよ。奴らに勘付かれちゃったね」

 アナウンサーが薄っすらと笑いをこらえているのはすぐに分かる。でも、彼らはそれでも職務に励む。

「ちなみに私は鳥肉が大好きなんですけど、もし本当に鳥たちが偽物のドローンなら、私がいつも食べているものは一体なんでしょうかね……?」

 バカか、こいつ。

「あのね、カエルだって鶏と味が似てるでしょ。政府は特殊な遺伝子組み換えでクローン肉を使って、偽物の鶏肉を日々、あなたたちの食卓に運んでいるの」

 話してても埒が明かない。僕は思わずヒステリックに叫ぶ。

「あいつらにとって、真実に気づかれたらまずいでしょ。家畜! 奴隷! いい加減、真実に気づけ! あんたらは「常識」というウソにトリ憑かれている!」

 僕はあまりにも呆れて彼らにファックサインを突き付け、胸ポケットに差し込まれていた造花を手に取り、彼らの足元に投げつけた。

餞別代りにくれてやる。せめてもの世界への抵抗として私は無礼を働いてやった。

身を翻した僕は、ポカンとするその場から走って逃げ、路地裏に逃げ込んだ。


 ここなら大丈夫か。そう思った時、背筋に冷たいものが走る。

「標的確保。これよりユートピア法第9条に基づく社会秩序安定の為、排除を実行する」

 機械音が響くと同時に、私の頭上の電線にとまっている鳥たちが私を睨みつけている、ロックオンされたようだ。奴らが光る口を開いたその時、流石の僕も死を悟った。

「えっ、マジで?」

 一斉に、まばゆい怪光線が最大出量で僕に向けて発射される。電流が走る体は、えぐられるように痛い。

 ただ、痛みの中、最後に気付いたことがある。今、この瞬間に僕は正気を取り戻した。そして、狂った真実によって消されるという運命を受け入れざるを得ないという深い絶望感に支配しながら、口から怪光線を吐き続ける鳥たちに最後の悪あがきとばかりに中指を立てた。

「せめて彼氏の一人でもできてたらな……」

 最後の言葉の選び方を間違えるくらいだ。人生は全てが嘘で、間違いだったのも仕方がないよね。



 その日、警察やマスコミが閑静な路地裏に大挙して集まり、やじ馬たちが大勢集まっていた。

「どうかしたんですか?」

「いやぁ、ねぇ、どうも鳥に食い荒らされた死体が見つかったって騒ぎになっているんですよ、怖いですよねぇ」

 やじ馬たちはしばらくの後、すぐに去っていった。俺もその一人だ。

 どうせ、あいつらは帰り道でSNSにアップして、三歩も歩けばすぐに忘れる鳥頭だ。

それにしても、鳥葬。まるで旧劇場版におけるエヴァンゲリオン2号機の最期のようだ。それを見てなんとも思わない人間たち、残酷なロボットのようだ。あの哀れな女を葬ったのは鳥のように何も考えない俺たち人間ではないのか?

 独りの帰り道はいらないことを考えてしまう。そんな時、ふと顔を上げると電線にとまっている鳥と目が合う。無機質で俯瞰するような鳥の目。気持ち悪い。思わず、中指を立てる。

 そうだ、今日は帰ってバカな有名人が炎上したってニュースのコメント欄でも見て笑い転げよう。チー牛童貞である俺の楽しみはこれくらいだ。

そう思っていた俺は、背後で無数の鳥たちの目が光っていることに気付いていなかった。


作者:ストロガノフ(吉岡篤司)

『扉86号』掲載作品

発行年月:2022年10月

発行者:甲南大学文化会文学研究会

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