【第1話☆S】 星への扉
巨大な船のような銀色の函は、アース・ポートからの上昇を開始すると、青い惑星の引力を徐々に振りきりながら加速してゆく。
座席にゆったりと座った三時間半の軌道エレベーターの旅。
終点は地上から三百六十キロの宙にあるイーストサイドの宙港連絡口。
函は宙港の発着場にのぼりきり、なにも問題なく旅を終える。軌道エレベーターから降りた人々の波に混じって、イーストサイドの宙港へと繋がる路を踵をしっかりとつけて歩く。重力を発生させているために身体が浮いたりはしない。
真っ白な照明で明るく照らされた通路の壁の一部には、分厚く丸い形の特殊ガラスが張られている。その大きな丸窓の前で足を止めると、外を――地球を眺めた。
眼下に浮かぶ青く輝る美しい星。
暗い宇宙のなかに在って、やらわかな光と水を湛えている青い惑星。
記憶の中と変わらずに……きれいだった。
この場所に立ったのは中学校の修学旅行以来だ。
あのときは、友だちと初めての宙に興奮していた。はしゃぎながら地球を眺めた。青い宝石のような惑星に感動して、いつしか言葉もなくなった。
……まさか二度目の宙がこんなかたちになるなんて、人生はなにが起きるかわからないものだ。
視界の隅に、きらりと眩しいひと筋の光が映りこんだ。
その方向へと目を凝らす。
すこし先に浮かぶ巨大な長方形の骨組みから反射された、太陽からの光。
建設中の新しい宙の港だ。
十基のエレベーターから降りてきた客や物資を出迎えようとしているこの宙港は、2400年代に建設された年代物になる。
そろそろ色々な部品や箇所が耐用年数ギリギリに劣化していた。そのためにこのイーストサイドに新しい港を建設している。
いくら作業ロボットを使っていても、その管理や細かな作業のチェックは人の手が必要となる。
宙に人が集まれば自ずと付随する仕事が増える……。
今、イーストサイドはちょっとした新宙港建設の特需景気に沸いていた。
宙港へと向かう人々はスーツ姿や作業着姿が目につくが、宇宙開発局の制服を来た集団もいる。家族連れの旅行客もいる。宙へと上がる理由もそれぞれだ。
しばらくは……帰れない青い惑星に視線をもどす。
これからは新しい生活が始まる。
宇宙に上がった理由とは裏腹に、重力から放たれたように気持ちは軽かった。その気持ちと同じように足取りを軽く、再び人の波へと混ざるために歩きだした。