深夜の学校にて
「見栄えの良く無い診断書」が紛失したというのは些か問題である。
診断書といってもただの診察結果じゃ無い。
ある時点から、自分が人間としての機能が失われる日までのおおよその期間が書いてある、所謂余命宣告書というやつだ。
僕は普段自室に保管してあるそれを出かける前や寝る前、気に入ったアーティストのポスターのように眺める。
もしかしたら誤って学校に持って行き、その時紛失したとすればますます問題だ。
「はぁ、学校で探すか」
自室を出て両親に気付かれないように玄関にある靴を履く。
ゆっくりと鍵を開け外に出る。
そこからはいつものカブに乗って夜の街を爽快に走る夜の空というのは僕を吸い込んでいくようで心地良い。
しばらくして学校に続く一方通行の道に来た。
この道を出ると学校の目の前に出るので道の中腹からでも校舎がよく見える……が、よく見ると深夜の学校には似つかわしく無いものがある。
「渓口さんの……カブ?」
今日の昼、イタリアンを食べにいく時彼女はカブに乗っていた。
学校にバイクを置いて帰ったというのは考えられない。
だとしたら学校に来ているのだろうか。なぜ?
理由は知らない。とにかく、見つかれば余命がないことに勘づかれてしまうかもしれない。
「慎重に行こう」
音を立てずに泥棒のように昇降口のフェンスを越える。
まず最初に見たのは下駄箱だが、特に変わった様子もない。
ということは教室にあるかもしれないので向かうことにした。
三階に行き、教室に近付くと異変に気づいた。
泣き声…。
深夜の学校で泣き声が聞こえる、というのはホラー小説や映画の定番だが何も怖がるようなことはない。
だってその声は聞き馴染みのある、渓口優光だからだ。
とりあえず声をかけることにした。
「どうして…、君がいるの?」